挨拶①
その日、アインベルク邸に一人の少年が訪れる。
年の頃は15~6といったところだ。黒髪、黒眼の秀麗な容姿をした少年はアインベルク邸の呼び鈴を鳴らす。
しばらくして扉が悪と一人の初老の紳士が顔を出す。その少年はその紳士と面識があった。そのために少年はぺこりと頭を下げると紳士に挨拶を行う。
「お久しぶりです。ロムさん」
礼儀正しい少年の挨拶を受けてロムは微笑み返答する。
「こちらこそ、ご無沙汰をしております。ジュセル様」
そう、この日アインベルク邸を訪れた少年は、隠者である、エルヴィン=ミルジオードの息子であるジュセル=ミルジオードだった。
「ジュセル様が魔神討伐に加わっていただけるという話ですので、アレン様も大変頼もしく思われております」
ロムの言葉にジュセルは苦笑する。自分の実力を卑下するわけでは無いが、アレンやアルフィスという規格外の怪物が揃っている以上、自分の出番があるとはあまり思えないのだ。
「ははは、アレンさんやアルフィス様の足を引っ張らないように頑張ります。それで、一度アレンさんにご挨拶と思いまして…アレンさんはいらっしゃいますか?」
ジュセルの言葉にロムは微笑むとサロンに案内されることになった。
サロンに通されたジュセルはそこで、アレン達がやってくるのを待つことにする。ロムがアレンとその婚約者を呼びに執務室へと向かっている間、ジュセルはサロンを見ることにした。
(相変わらず…アインベルク邸は華美ではないが、質素だが手入れが行き届いて落ち着くな…)
ジュセルはアインベルク邸の質実剛健を絵に描いたような雰囲気が好きだったのだ。
(まぁ、アレンさんが結婚すれば妻の方々の趣味が入る事になるんだろうな…まぁ、アレンさんが選んだ方々だからセンスが悪いと言うわけじゃないだろうな)
ジュセルはまだ見ぬアレンの婚約者達に対して興味があったのだ。ジュセルにとってアレンは気の良い頼れる兄貴分という存在だった。そのアレンの婚約者と仲良くしたいと思うのはジュセルにとって大事な問題だったのだ。
さらに、アレンの婚約者達は対魔神の仲間となるので、その事についても仲良くする必要性が高かったのだ。
(たしか…アレンさんの婚約者って…王女様と、エジンベートの公爵令嬢、平民出身の2人…だったよな)
ジュセルはアレンの婚約者の背景を考えて見る。普通に考えればアレンとの婚姻は不可能な面々だ。王女、公爵令嬢はアレンの身分が劣るし、平民からみればアレンの身分が高すぎるのだ。
(ということは、身分の壁をもろともしない何かがあの人達にはあるというわけだな)
ジュセルがそう結論づけると、サロンの扉がノックされ、複数人が入出してきた。先頭は旧知の間柄のアレン、その背後にフィアーネ、レミア、フィリシアが続く。
(あれが…アレンさんの婚約者達か…みんなすごい美人だな)
ジュセルはアレンの後ろに続く、三人の美少女達に目を奪われる。
「よく来てくれたな、ジュセル」
アレンの言葉にジュセルははっと我に返ると返答する。
「アレンさん、お久しぶりです」
ジュセルが返答するとアレンはフィアーネ達を紹介する。
「ああ、俺の婚約者達を紹介するな。銀髪の娘がフィアーネ、黒髪の娘がレミア、赤髪の娘がフィリシアだ」
ジュセルはこの後にフィアーネ達の自己紹介があることを察した。それ故のアレンの簡単すぎる自己紹介と考えたのだ。
「初めまして、ジュセル=ミルジオードです。これからよろしくお願いします」
ジュセルはフィアーネ達三人に名乗ると頭を下げる。
「こちらこそ、初めまして私はフィアーネ=エイス=ジャスベインよ。よろしくね」
銀髪の美少女が名乗る。ジャスベインという名前には聞き覚えが、ジュセルにはあった。
「ひょっとして…エジンベートの?」
ジュセルの言葉にフィアーネは頷く。
「ええ、実家はエジンベートで公爵をやってるわ」
フィアーネの言い方は、「家は商いをやっています」というような言い方であり、公爵家という生まれについて、それほどのこだわりを持っているようには見えない。
(ある意味…アレンさんの婚約者にふさわしいな)
ジュセルは心の中で苦笑する。家柄で人を見るような事をしないフィアーネの感性がアレンを受け入れ、受け入れられたのだろうと考えた。
「初めまして、私はレミア=ワールタインよ」
黒髪の美少女が名乗る。
(しっかりとしたクールな美少女だな)
ジュセルはそう心の中で評するとぺこりと頭を下げる。
「最後は私ですね。初めましてフィリシア=メルネスです」
最後に赤髪の美少女が名乗る。
(こっちは清楚なお嬢様と行った感じだな)
ジュセルはそう思いながら頭を下げる。
三人の婚約者との邂逅を経て、お互いに悪い印象を受けなかった。アレンが着席を促すと席に全員が座る。
アレン達とジュセルの初邂逅は上場の滑り出しだった。




