表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
343/602

修練③

 ロムが発する威圧感は先程とは比べものにならないほど一気に高まった。


 ロムの発する威圧感にジェド達は冷や汗を流し始める。威圧感の中には一切、殺気は含まれていないのにこれである。


「いくわよ」


 シアの言葉にレナンとアリアが凄まじい速度でロムとの間合いを詰める。アリアは水面蹴りで足を払おうとし、レナンは正拳突きをロムの腹部に向かって放つ。速度とタイミングのどちらも非凡なものだ。


 ロムはレナンとアリアの攻撃をするりと躱す。露骨に躱したわけでは無く、ただジェド達の目には歩いただけにしか見えなかった。それでもレナンとアリアの攻撃に空を斬らせたのは確かだった。


「え?」

「な…」


 レナンとアリアの口から呆けた声が発せられる。レナンとアリアは最高のタイミングで攻撃を仕掛けたというのに、ロムには擦りもしなかった事に理解が追いつかなかったのだ。


「く…」


 ジェドがレナンの首筋に手刀を叩き込もうとするロムの左手へ斬撃を放つ。


 バギィィィ!!


 ジェドの木剣がロムの左手を打つよりも早く、ロムの右拳がジェドの木剣を打ち砕いたのだ。ジェドは砕け散った木剣を投げ捨てるとロムに裏拳を放つ。


 ロムは裏拳を掴むと思い切り引っ張った。ロムは腕の力で引っ張るのでは無く、膝を抜いた体が沈み込む力を利用して引っ張ったためにジェドの体はそれに対処する事が出来なかった。


 そしてロムは、もう片方の手で肩を掴むとジェドを投げ飛ばした。投げ飛ばされたジェドは地面に落下する。かろうじて受け身を取ることは出来たが、ロムはジェドへの追撃では無くレナンへの攻撃を優先した。


 トン…


 首筋を打たれたレナンは意識を手放し、地面に崩れ落ちる。


 レナンの意識を断った瞬間にシドは右回し蹴りをロムに放つ。ロムはふっとシドの懐に飛び込むと鳩尾の辺りに拳を突き込んだ。シドもその一撃を受けて昏倒する。


「はぁ!!」


 ジェドは起き上がるとロムに再び攻撃を開始する。左拳は腹部、右拳は顎を同時に狙ったが…。


 ロムは腹部に放たれた左拳を下からかち上げ、右拳にぶつけることで軌道を逸らした。そしてそれは次のロムの攻撃の布石でもあったのだ。ジェドの体に凄まじい衝撃が生じ、ジェドは吹っ飛ぶ。


 完全に体制が崩され、手のガードが空いたところにロムは強力無比な体当たりを加えたのだ。


「アリア!!下がって」


 シアの言葉にアリアはバックステップをしロムから離れようとするがそれよりも早く、ロムは間合いを詰める。ロムはアリアの額に掌をかざし魔力の塊を放つ。その衝撃はアリアを傷つける事無く意識を刈り取る。


「くっ」


 シアは自分の指示が誤っていたことをこの段階で気付く。安全策をとって下がるなど、ロムのような実力者に『どうぞ流れを掴んでください』というようなものだったのだ。シアもその事を理解していたはずなのに、ジェド、レナン、シドがやられた事で動揺してしまったのだ。


 シアは間合いを詰め、ロムに体術勝負を挑む。あまりにも無謀な行動だったが、この段階でシアにとっては選択肢が無かったのだ。ファリアは完全な後衛であり、近接戦闘は行えない。とするとある程度、近接戦闘を修めているシアがロムに挑むしか無いのだ。


 ファリアもその事を察したのだろう。【聖閃ホーリーブラスト】の詠唱を始める。弟子入りしてまだ間もないファリアは、まだ無詠唱で魔術を放てるほどの技術はなかったのだ。


(ふむ…ファリアさんはシアさんの意図を察したのですね…ですが、遅いですよ)


 ロムはファリアの判断に一定の評価をしたが、詠唱をする事に対して指導の余地ありと思っていたのだ。


 魔術を放つのに時間が掛かると言う事は言い変えれば、シアはその間、一人でロムと戦う事になる。シアの近接戦闘の能力は一般的な騎士3人を同時に相手取る事が出来るぐらいだ。決して低いものではないのだが、ロムの相手をするには力が足りなさすぎた。


 シアは両手を眼前に構えると裏拳を顔面へ、次に腹部に魔衝を放つつもりであった。


 だが、ロムはシアが裏拳を放つ前に、まるで実体のない者のようにシアの体をすり抜けた。いや、すり抜けるように見えたのは最小限度の動きで無駄なく動いた事でそう見えたに過ぎないのだ。

 背後に回りこんだロムはシアの首筋を手刀で打つ。するとシアは意識を失った。


 そこに詠唱をいえたファリアが【聖閃ホーリーブラスト】を放つ。凄まじい速度で放たれた【聖閃ホーリーブラスト】であったが、ロムには当然の如く通じない。


(もう少し放ち方を工夫すべきですね)


 【聖閃ホーリーブラスト】は何の工夫もなくただ真っ正直に放たれたために、ロムであれば避けるのは雑作もないことだったのだ。いかに速く、威力が高くても、当たらなければ意味がないのだ。


 ロムは最小限度の動きで躱すと一瞬でファリアの懐に潜り込み、アリアにしたように額に掌を当てると衝撃を発し、ファリアの意識を断った。


 ロムは意識を失った6人を優しげに見つめると小さく声を発する。


「全員、光るものはありますが…まだまだですね」


 ロムは6人の元に行き、意識を失わせた者には活を入れて意識を回復させ、昏倒させたジェドとシドには治癒魔術を施す。


 全員が意識を取り戻し、自分達が敗れた事を理解すると立ち上がりロムを見つめる。全員が立ち上がった所でロムは口を開く。


「さてそれでは反省会と行きましょう」


 ロムの言葉に全員が頷いた。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ