表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
341/602

修練①

 アインベルク邸の修練場で二組の男女が対峙している。


 二組とも同年代の少年少女だ。


 一組は、ジェドとシアだ。『ミスリル』クラスの冒険者で、数々の修羅場をくぐり抜けた二人だ。二人はゴルヴェラ討伐に参加した事で『ミスリル』クラスに昇格して以降で数多くの難易度の高い依頼をこなしている。


 ラゴル教団の至宝である神盾『リキオン』の回収、危険地帯であるエルゲナー森林地帯での採集、魔人の討伐という難易度の高い任務を成功させてきたのだ。


 彼らの功績を考えれば、そろそろ『オリハルコン』への昇格も間近という所だ。


 そしてもう一組は、ラゴル教団の聖女ファリアとその護衛のシドである。こちらは、神盾『リキオン』の回収の際に、自分達の実力不足を痛感しアインベルク家の家令であるロムとキャサリンに弟子入りしたのだ。


 その指導の中を受けるために二人はラゴル教の総本山から王都のラゴル教神殿に移動となったのだ。二人の他の護衛隊のメンバーも同様であったが、今日アインベルク邸に来たのはファリアとシドだけである。


 他の護衛隊のメンバーは別件があり参加できなかったのだ。 


 ジェドとシアがしばらくの間、王都に滞在するという事で、ロムが二人にファリアとシドとの模擬戦を提案したのだ。


 二組ともそれぞれ快諾したため、ここにジェド、シア組対ファリア、シド組が実現したというわけだった。


 チームのメンバーであるレナンとアリアは修練場の外で二組の戦いを見守っている。アレン達は傭兵ギルドへ出向いていたため留守であった。


 ロムが二組の間に立ち試合の注意事項を述べる。


「勝敗は戦闘不能になるか、降参するかです。但し、危険と判断すれば私が間に入って止めますのでそのつもりでいてください」

「「「「はい!!!」」」」

「ローエンシアの国法で定められている禁術の使用は認めません」

「「「「はい!!!」」」」


 ロムの注意事項に全員が声を揃える。


「それでは互いにこの戦いを通じてさらなる成長をして欲しいと思います」

「「「「はい!!!」」」」


 ロムの言葉にまたも4人は練習したのかというぐらい声を揃える。ロムは微笑み、右手を掲げる。


「始め!!」


 ロムが声を発すると同時に掲げた右手を振り下ろす。


 試合が始まるとジェドは木剣を構えると同時に凄まじい殺気を放つ。その凄まじい殺気にシドは迂闊に踏み込むことが出来ない。


(ふむ…ジェドさんはまた強くなりましたね…アレン様であってももはや一太刀で斃すという事は不可能でしょうね)


 ロムはジェドの成長を目の当たりにして微笑む。そしてシアの方をチラリと見るとシアもすでに魔術を放つ用意が終わっている事を察していた。


(シアさんも魔術の展開が早くなりましたね。また展開が静かですので、ファリアさんとシドさんはまったく気付いていませんね)


 ロムはシアの成長にも頼もしさを感じている。


 ジェドは殺気を収めるような事はせずに放ち続けている。シドの実力も相当なものであるのだが、ジェドとは核が違う事は明らかだった。蛇に睨まれた蛙という表現そのままにシドはジェドに呑まれていたのだ。


「くっ…」


 シドも呑まれていることを察しているのだろう。なんとかこの状態を打破しようとしているのだが、八方塞がりと言った感じであり、動くことが出来ないようであった。


 そして…。


 突如、ジェドが動く。シドはジェドの殺気により萎縮しており、反応が遅れた。ジェドの木剣はシドの喉元へと放たれ、その手前で止まっている。もしジェドが木剣を止めなければシドの喉元に木剣は刺し込まれていただろう。


「参りました」


 シドの口から降参の言葉が発せられる。そしてすぐにファリアの口から


「降参します」


 という言葉が紡がれる。前衛のシドが敗れた事で近接戦闘が出来ないファリアはこの段階で抗うことが出来ないのだ。


「それまで」


 ロムの決着を告げる声が発せられ試合は呆気なく終わる。何も出来なかった事に対し、ファリアもシドも項垂れる。そこにロムが言葉をかける。


「ファリアさん、シドさん、落ち込んでいる暇はありませんよ。どうすればジェドさんとシアさんに一矢を報いることが出来るかを考えてください。それが次回までの二人の課題です」

「「はい」」


 ロムの言葉にファリアとシドは頷く。ロムの言うとおり落ち込んでいる暇など二人にはないのだ。


「さて、ジェドさんとシアさんは見事でした。ファリアさんもシドさんも決して弱者ではありませんが、ここまで圧勝するとは思いませんでした」

「「ありがとうございます」」

 

 ロムの賛辞にジェドとシアは嬉しそうに微笑む。


「あなた達がここまで強くなっているというのなら、私も油断は出来ませんね」


 ロムの言葉にジェドとシアは顔を見合わせる。今の言葉から次はロムが相手してくれる事を察したのだ。


「ファリアさん、シドさん」

「「はい」」


 ロムの言葉にファリア、シドが慌てて返事をする。


「ジェドさん、シアさんと即席のチームを組んで私と一試合しませんか?」


 ロムの言葉に4人は顔を見合わせる。そして4人ともほぼ同時に頷いた。そしてシアがロムに提案する。


「あの…ロムさん」

「なんでしょう?」

「レナンとアリアも一緒に戦ったらダメでしょうか?」

「それは構いませんが…よろしいのですか?」


 シアの提案にロムはチラリと修練場の外で眺めているレナンとアリアを見る。試合とはいえ、ロムは当たり前のように殺気を放つつもりでいるため、レナンとアリアがトラウマを植え付けることになるかも知れないのだ。


「はい、俺達と一緒に行動する以上は避けては通れない事だと思います」


 ジェドはそう言うと、レナンとアリアに声をかける。


「レナン、アリア!!」


 声をかけられた二人は顔を見合わせると修練場に入りこちらに駆け出してきた。


「これから俺達と一緒にこの人と戦って貰えるか?」


 ジェドの言葉に少し驚いたようだが、二人とも頷く。その様子を見てロムは微笑みながら言う。


「わかりました。それでは6対1でやると言う事で…」

 

 ロムとジェド達の試合が決まったのだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ