閑話~魔剣捜索序章~
新キャラが二人出ますが、スピンオフで登場予定です。
ジェドとシアが久しぶりにアインベルク邸を訪れる。かつて二人が王都に来る前に村ごと幽霊となっていた廃村にあったという屋敷の調査に出かけていたのだ。
そして、ジェドとシアの間に二人の12~3歳の少年と少女が立っている事にアレン達は驚くが、詳しく話を聞くためにサロンに通す事になった。サロンの席にジェドとシアが座り、ジェドの隣に少年と少女が腰掛ける。その表情にはおどおどとした表情が浮かんでいる。明らかに緊張しているようだったので、ジェドとシアと話す事で話の取っ掛かりを作る事にした。
「二人ともとりあえず無事に帰ってきてくれて良かった」
「うん、なんとか無事に帰ってこれたよ」
「そうね『黒剣』のメンバーには随分と助けられたわ」
「へぇ、『黒剣』はそんなに頼りになるのか」
アレンの言葉にジェドとシアは頷く。そこに一切の逡巡はなく本心からの言葉である事をアレンは察する。
(『黒剣』がそこまで頼りになると言う事は…魔神討伐にスカウトしても良いな)
アレンはジェドとシアほどの実力者を助ける事が出来るという『黒剣』に興味を持ち始めていた。
「ところで…」
アレンがジェドとシアの隣に座る少年と少女に視線を移す。
「ああ、この二人は新しい俺達のチームのメンバーだ」
ジェドの言葉にシアも頷く。
「新しいメンバーか。よろしくな」
アレンは二人を怯えさせないようにニコリと微笑む。その笑顔を見て少しだけ緊張がほぐれたようだ。
「ほら二人とも自己紹介」
シアが優しく二人に自己紹介を促すと少年と少女はおずおずと口を開く。
「初めまして…レナン…です」
少年が名乗る。レナンと名乗った少年は銀髪に碧い瞳の美しい少年だった。だが、その美しい瞳には怯えの色が濃く浮かんでおり、アレンとしては心配でならない。だが、ジェドとシアには心を開いているらしく二人の言葉はきちんと聞くようだ。
「初めまして…アリアです」
少女も続けて名乗る。アリアと名乗った少女は黒髪、黒眼で美しい少女だった。絹糸の様な艶のある黒髪は光沢を放ち、背中まで伸びている。まるで黒曜石を玉の形に加工したような瞳は不思議な魅力を醸しだしている。
身長は両者ともアレンの胸当たりしかない。
「ああ、初めまして俺はアレンティス=アインベルク、ジェドとシアの友人だ」
アレンも出来るだけ両者を怯えさせないようにしているが、緊張は完全には解けていない。
「それで、この二人はどういう経緯で二人のチームに入ったんだ?」
アレンが気になっていた事をズバリ聞く。あんまり回りくどい事をしても意味が無いと考えてたのだ。
「ああ、二人は屋敷の地下牢に囚われていたんだのを助けたんだ」
「なぜこの二人は囚われていたんだ?」
「この二人はわかってると思うが人間じゃない」
ジェドの言葉にアレンは頷く。アレンも二人が人間でないことを一目見たときから気付いていたのだ。
「レナン、アリアは魔人だ」
ジェドの言葉にアレンも流石に驚く。いくらなんでも『魔人』という単語が出るとは思わなかったのだ。魔人は禁術に指摘された儀式を行う事が多いために精神や容貌が異形のものになるのに、この二人は見た目は人間と変わらないし、精神も異形なものではない。
「しかし、その二人は魔人と言うには、まともに見えるんだが」
アレンの疑問にジェドとシアも頷く。
「その辺の詳しいことは俺達もよくわからないんだ。ただ屋敷の主人は姿形が変わらない魔人を作りたい…と言ってた」
「じゃあ…その二人は…」
「ああ、姿形は人間、精神も異常は無いが魔人だ」
「なるほど、それでジェドとシアが二人を保護することにしたというわけか」
「ああ、この二人は屋敷の主人に家族を殺されたらしい」
ジェドの言葉にアレンも何となくジェドとシアの心情を察する。ジェドとシアも孤児院で育ったと聞いている。孤児であるレナンとアリアを見捨ててはおけなかったのだろう。それを偽善ととる者もいるだろうが、少なくともアレンは、ジェド、シアの行為を立派だと思う。
「そうか、それでその二人は冒険者になってるのか?」
「ああ、先日登録した。今の二人は『ブロンズ』クラスだ。レナンとアリアもどちらとも前衛だ」
「二人とも剣を使うのか?」
「いや、基本は魔力による肉弾戦だ」
「肉弾戦か。そいつは頼もしいな」
「ああ、かなり荒削りだけどな。頼りになる二人だな」
ジェドの言葉にレナンとアリアは表面上はほとんど変わらないが、嬉しそうな雰囲気を発している事をアレンは察する。チラリとジェドとシアを見ると、二人もその事を察しているらしくどことなく嬉しそうだ。
(感情表現が乏しいだけで、心はまともだ…ジェドとシアはこの二人をどう導くのかな)
アレンはそんな事を思い心の中で微笑む。
「そうそう…アレン」
ジェドがアレンに声をかける。
「どうした?」
「今日は挨拶もあったんだが、許可をもらいたいと思って来たんだ」
「?」
「エルゲナー森林地帯に行きたいんだ。許可を貰えないか?」
「それは構わないが、何しに行くんだ?」
「この間、行ったときに妙な奴がいるとジュスティスさんから報告無かったか?」
「妙な奴?…ああ、妙な死体を見たというやつだな」
「ああ、あれの正体を確かめたい」
「どういうことだ?」
ジェドの提案にアレンは訝しがる。
「実は屋敷の主人の話に、その死体の切り口の特徴と一致する魔剣の話があったんだ」
「ほう…」
「あの時は気付かなかったが、あの剣で命を奪われたものは、アンデッド化するらしい」
「…危険だな」
「ああ、いわば人為的な国営墓地だな」
「その魔剣の名は?」
「『ヴァルバドス』というらしい」
「そうか…ジェド…その魔剣『ヴァルバドス』の回収をお願いしたい」
「依頼するというわけか?」
「ああ、但しその魔剣はこちらに引き渡してもらう」
「それは構わない。もともと、魔剣を手に入れたらアレンに引き渡すつもりだったんだ」
それは事実であった。ジェドは魔剣を手に入れたらアレンに引き取ってもらうつもりだったのだ。確かに他の者に売れば相当な金銭になるだろうが、その魔剣を使って犯罪行為でも行われれば後味が悪いし、かといって自分が使うにも魔剣なのでどのような呪いがあるかわからないからだ。
「そう言ってもらえば助かる。ジェド…魔剣は握った瞬間に人の精神を乗っ取る者もいるから不用意に触らないでくれ」
「わかった」
「もし、必要があれば対呪術用の魔導具、洗脳解除の魔導具を用意させるが」
アレンの言葉にジェドとシアは頷く。仕事を成し遂げるにはどれだけ準備に時間をかけたかが重要になってくるのだ。だからこそ、アレンも魔神討伐の為に準備に準備をかけているのだ。
「頼む。厚かましいのはわかってるが、出来れば人数分頼めるか?」
「もちろんだ」
ジェドの言葉にアレンは即答する。準備をけちった結果、命を失ってしまえば何にもならないのだ。
「それから腕は大した事はないが、人手を何人か付けよう。囮として使っても良いし、捨て駒としても使ってくれても大丈夫だ」
アレンの言葉にジェドとシアは頷く。アレンがこのように扱うのは犯罪者であるというのが相場である事を二人はすでに知っているのだ。
「今回の同行させる駒は、元『ミスリル』の冒険者らしい」
「え?『元』ミスリル?」
元とはいえ『ミスリル』クラスの冒険者が同行するのは正直言って心強い。アレンは腕は大した事はないといったがそれはアレンを基準にした場合だ。
「ああ、だが闇ギルドに入って犯罪者の仲間入りだ」
「なるほどな…」
ジェドとシアはアレンの言葉で事情を察する。その闇ギルドがアレン達にちょっかいをかけた結果、反撃に遭ったというわけだろう。
「わかった。何人ぐらいだ?」
「5人だ」
「レナン、アリア、同行者がいるがそれでいいか?」
ジェドがレナンとアリアに尋ねると二人とも静かに頷く。
「よし、それじゃあ10日後に出発してもらうからそこまでに準備を整えてくれ」
アレンの言葉にジェドとシアは頷く。
ジェドとシアは再びエルゲナー森林地帯に臨むことになったのだ。
こちらの話の続きはスピンオフの方で書こうと思いますので、ご了承下さい。




