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魔人Ⅱ②

 国営墓地で見回りを続けるアレン達はそろって身を震わせる。


「ア、アレン…」


 フィアーネの声にはいつもの声色では無い。幾分、緊張しているような声だ。


「なんだ?」


 対するアレンの声は落ち着いている。この威圧感を放つ人物が誰かわかっているのだ。


「なんだじゃないわよ。何この凄まじい威圧感…」


 フィアーネの言葉にレミア、フィリシア、カタリナも同意する。


「でもどことなく、この威圧感はアレンさんと似てません?」


 フィリシアの言葉に他の者達は頷く。


「そりゃそうだろ…この威圧感を放っているのはロムとキャサリンだ」


 アレンの言葉にフィアーネ達は一様に驚いた表情を浮かべる。普段の二人から放たれる雰囲気は柔和そのものであり、ここまで凄まじい威圧感を放つ人物と結びつかないのだ。

 もちろん、フィアーネ達はロムとキャサリンが凄まじい実力者である事を理解してはいたが、この威圧感は桁が違ったのだ。


「で、でもロムさんもキャサリンさんもこんな威圧感を放つ事なんて…」


 レミアの言葉にアレンが答える。


「ああ、正確に言えば戦闘モードに入ってるな。相手が誰だか知らないが可哀想にな…」


 アレンのしみじみとした言葉にフィアーネ達は顔を見合わせる。どう考えてもロムとキャサリンを心配しているようには見えない。


「ねぇ、アレン」


 レミアがアレンに問いかける。


「どうした?」

「私達も助太刀に行った方が良いんじゃないの?」

「……レミア」

「何?」

「戦闘モードに入っているあの二人に助太刀はいらないよ」

「でも、戦闘モードに入らないといけない程の相手なんじゃないの?」

「いや…というよりも相手がアホなだけだろ…」


 アレンの言葉にフィアーネ達はまたも顔を見合わせる。


「どっかのアホがあの二人を本気で怒らせたんだろうな」


 アレンの言葉にフィアーネ達は顔を見合わせる。アレンは不用意にロムとキャサリンの怒りを買った相手に少なからず同情していた。





 アインベルク邸の庭で二人の老夫婦と一体の魔人が相対している。普通に考えれば二人の老夫婦の方が魔人に襲われているという図式なのだろうが、事実は全く違う。


 老夫婦から放たれる威圧感により魔人は気圧され始めている。魔人の「アレンを殺す」という不用意な一言が老夫婦こと、ロムとキャサリンの怒りを買ってしまったのだ。


「さて…いつまで呆けているつもりですか? 一応言っておきますが、あなた如きの威圧感に萎縮するほど我々は繊細ではございません」


 ロムの言葉にキャサリンが続けて言う。


「とりあえず始めましょうか…萎縮してしまったのですか?」


 ロムの呆れた様な言葉に魔人は一気に怒りに思考が支配される。


「ふざけるな!!人間、しかも老いぼれ如きが!!」


 魔人がそう叫び、ロムに向かって一歩踏み込もうとしたときに、隣に佇むキャサリンが間合いを詰めるといつの間にか手にしていた戦槌を魔人の腹に叩き込んだ。本来、女の細腕で打撃を受けたところで、魔人は何の通用も感じる事は無いだろう。


 だが…


 魔人は腹部に発した凄まじい衝撃に体をくの字に曲げる。


(な、なんだ…この一撃は…)


 キャサリンは腹部に一撃を入れた戦槌を振り上げると魔人の頭部に振り下ろした。魔人はかろうじてその戦槌の一撃を躱すことに成功するが、その動揺は決して小さいものではなかった。


「おや…さすがに魔人ともなるとあれぐらいで終わりませんね」


 キャサリンはニッコリと微笑む。魔人にはその笑顔がとんでもなく恐ろしいものに思われる。


「貴様…よくもやってくれ…がぁ」


 キャサリンに呪詛の言葉を投げ掛けようとした魔人の顔面に今度はロムの拳がめり込む。その凄まじい打撃に魔人は吹っ飛び地面を転がった。


「まったく…あなたは、どうして何度も複数の相手をしていると忘れることが出来るのですか?」


 ロムのこれ以上無い、呆れた声が魔人の心を容赦なく抉る。ロムとキャサリンの気配を絶っての攻撃の技術が高いというのもあるのだが、片方に意識を向けるが故に、もう片方の相手から意識を逸らしてしまう事が続けて二人から攻撃を受けることになった理由であった。


 一度目のキャサリンの攻撃を受けた段階で、意識を逸らす事の危険性を認識したはずなのに、すぐさまロムから意識を逸らした事により痛い目に続けてあってしまった事は、ロムやキャサリンにとって信じられないほどの稚拙な戦闘技術だったのだ。


 魔人は憎々しげにロムとキャサリンを睨みつけながら背中の翼をはためかせ空に浮かび上がる。


 15メートル程の高さに浮かび上がると、魔人は両手を掲げると十数本の剣が現れる。その剣の一つ一つはロムとキャサリンに狙いを定め、ゆらゆらと浮いている。


「この魔人オルカンドへの無礼!!貴様らの血で償ってもらうぞ!!」


 魔人はオルカンドと名乗るが、ロムやキャサリンはその事を気にも留めない。もはや二人にとって魔人の名前がどうとかそんな事は些細な事だったのだ。


「さて…キャサリン、空なら安心とどうしてあの方が思えるのか私には本当に不思議なのだが…」

「それは先程よりも高い所にいるから安全と考えているのではないでしょうか…魔人とは私の中で愚か者の代名詞になりつつありますね」

「本当にそうだな…いくら力や魔力が強くても阿呆あほうでは勝てないという良い事例だな」

「はい」


 ロムとキャサリンは苦笑しながら、魔人オルカンドを見やる。その声は決して大きいものではなかったが、魔人オルカンドにははっきりと聞こえた。


「どこまでもコケにしおって!!」


 オルカンドは左手を掲げると左側に浮かんでいた剣がロムとキャサリンの元に凄まじい速度で飛んでいく。ロムは手に魔力を集中するとキャサリンの前に立ち、強化した拳で飛来する剣をすべてはたき落とした。


 続いて右側に浮かんでいた剣を二人に放つがロムは、それをまたもすべてはたき落とした。


 だが、地面に落ちた剣はロムに再び襲いかかる。四方八方から襲いかかる剣林けんりんをロムは両手の拳で払いのける。


(ふむ…あそこから剣を遠隔操作すれば…大丈夫と思っているのでしょうか? 先程、キャサリンの【呪鎖縛スペルチェーンバインド】で引きずり落とされた事を忘れたのでしょうか? あの魔人は知能が鶏レベルなのでしょうか?)


 ロムの考えが誤っていることを次の瞬間にはロムもキャサリンも知ることになる。その誤りに気付いたロムもキャサリンも魔人の評価を下方修正することになったのだ。

 

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