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魔人Ⅱ①

「ん?」

「あら?」


 アインベルク家の家令であるロム=ロータスとその妻であるキャサリン=ロータスは、ほぼ同時に声を出す。


 アレン達がいつものように国営墓地の見回りに出かけてしばらくしての事である。


「誰かしら? 強いわね」

「そうだな…久しぶりに本気で相手をせねばならんかな?」

「そうですね。どなたかは知りませんが、あまり好ましくないお客様のようね」

「さて…キャサリン、二人でやるとしよう」

「はい、あなた。アレン様が戻ってくるまでに…始末しておきましょう」


 ロムとキャサリンはニッコリと微笑み合うとアインベルク邸に設けられている私室を出て、エントランスに向かい、そこから庭先に出ることにする。


「あなた、ナシュリス達はどうします?」

「ふむ…今回はナーガ達は参加させない方向で行こう。ナーガ達はアインベルク家に仕えていると言うよりもレミア様に仕えている。レミア様がここにいない以上、ナーガ達に命令することは許されないと思う」

「わかりました。あなたの言うとおりですね」


 ロムの返答にキャサリンはもっともだと頷く。


 ロムとキャサリンは区別しないことは嫌いだった。もしここで、ナーガ達にロムやキャサリンが命令をしてもレミアは怒ることは無いだろうし、ナーガ達も黙って従うことだろう。だが、ナーガ達はあくまでレミアの配下であり、ロムやキャサリンの配下では無いのだ。ロムやキャサリンはそういう区別を蔑ろにする事はどうしても良い事のように捉える事が出来なかったのだ。


「ここに来るまで少し時間がありそうだな」

「ええ、と言っても罠を仕掛けるほどの時間はありませんね」

「うむ…いつものようにキャサリンは私の援護を頼むよ」

「はい、お任せ下さい」


 ロムとキャサリンは庭先に出ると、来訪者を待つことにする。


 庭先は暗いためにロムとキャサリンは、それぞれ【照明イルミネーション】を展開する。


 庭先に【照明イルミネーション】の光が降り注ぎ、戦闘に支障がない程度の視界が確保された。


 ロムとキャサリンが【照明イルミネーション】を展開して2分ほどすると来訪者が姿を見せる。


 その来訪者は夜空からやって来た。身長2メートル程、筋骨逞しい男性だ。だが人間でないのは明らかだった。


 その来訪者の背中には翼が生えており、皮膚には妙な文様が入れ墨として彫り込まれており、その不気味さを存分に表現していた。


 地上から10メートル程の高さで翼をはためかせ、ロムとキャサリンを露骨に見下した表情を浮かべている。


「おやおや…これは珍しい」

「そうですね、最近、めっきりああいう輩が増えてきましたね」


 ロムとキャサリンの言葉に来訪者は蔑んだ表情をもって返した。


「ふん…ジジイとババァか…貴様らなんぞに用は無い。アレンティス=アインベルクという男を出せ。この手で引き裂いてくれる!!」


 アレンを呼び捨てにするだけでなく殺害を明言する来訪者に対して、ロムとキャサリンは不愉快な気分に一気にさせられる。


(アレン様を呼び捨て…しかも引き裂く?『魔人』風情が舐めた口を利いてくれますね)

(『魔人』風情が…ふざけた口を…)


 ロムもキャサリンも来訪者を一目で『魔人』であると看破していた。だが、来訪者が『魔人』であると理解しても二人に動揺は見られない。それどころか舐めた口を利いた報いをどのようにくれてやろうかと考えていたのだ。


「キャサリン」

「わかってますよ…」


 ロムの言葉にキャサリンは短く答えると、【呪鎖縛スペルチェーンバインド】を来訪者に向けて放つ。詠唱も行わず、一切の気配を発する事無くキャサリンは【呪鎖縛スペルチェーンバインド】を放ったのだ。


 来訪者は、返答を待っていた所にいきなりの攻撃を放たれた事で、面くらってしまいかわすことが出来ずに絡め取られてしまった。


 来訪者は自分の禍々しい容貌からロムとキャサリンが恐怖におののくと思っており、そのため攻撃は来ないと高を括っていたのだ。


 キャサリンは掲げた手を振り下ろすと来訪者を地面に引きずり下ろした。


 地面に着地した来訪者は「ふん」と一声をあげると【呪鎖縛スペルチェーンバインド】を引きちぎる。引きちぎられた鎖は地面に落ちるがすぐに消滅する。


「ふん、少しはやるようだが…貴様らそんな中途半端な腕で俺に勝てると思っているのか?」


 来訪者の嘲りの言葉にロムとキャサリンは冷たい嗤いを浮かべる。


「申し訳ございませんが、当方はあなた如きが何者なのかを一々把握しておりません。しかし、主人の不在中に尋ねてきた方の名前も聞かずに帰してしまえば、申し訳ございませんので、ぜひご尊名をお伝え願えますでしょうか?」


 ロムは慇懃無礼とはこのような態度の事をいうのだという見本のような態度で来訪者に接した。来訪者もその事を理解したようで、不快な表情を浮かべるが、ロムの質問に答える。


「ふん、なぜ俺が貴様ら如きに名乗らねばならんのだ」

「そうですか、それなら結構です」


 ロムが微笑みながら返答する。声と表情は柔和であるが、放つ雰囲気に険が含まれた事を来訪者は感じた。


(な…なんだ? こんな老いぼれ共になぜ俺が…気圧されるのだ?)


 来訪者には、二人の放つ雰囲気に本能を刺激するものがある事を感じていた。


「あなた様など、ここに来なかった事にすれば良いのです」


 ロムの言葉に来訪者は訝しがる。この老いぼれは何を言いたいのか。


「おや? その表情を見る限りこちらの意図が伝わっていないようですね」


 ロムの言葉に険が幾分和らいだ。その代わりに嘲りの成分が加算される。


「あなた…、どうやらこのお客様は物事を知らない方のようよ。普通はすぐに察するものだけど、この方はそうではないみたい」

「そうだな。この方に回りくどい言い方をしても理解力が足りない以上、伝わらないな」

「そうですよ。この方の愚かさを考慮に入れてあげないと」

「申し訳ありませんでした」


 ロムが来訪者に謝罪する。文句のつけようのない素晴らしい一礼であったが、そこにあるのは敬意では無く、来訪者への侮蔑である事は明らかだ。当然その事を察した来訪者は口を開こうとしたが、それよりも早くロムの口から決定的な言葉が告げられる。間髪入れずにキャサリンも口を開く。


「私が先程あなた様に告げた意味は、あなたを殺すという意図でございます」

「魔人ごときが…このアインベルク家に乗り込んできて済むと考えているところが…愚かですね」


 ロムとキャサリンから放たれる威圧感が増した。



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