勇者Ⅱ⑫
ちょっと短いですがご容赦ください。
リュークの『バレた』という言葉にアレンは頷く。
「ああ、闇姫の瘴気弾をまともにくらって、ほとんどケガが無い事から考えてな。それで、その鎧にはいくつ仕込んでいる?」
「う~ん…言わないとダメか?」
「数ぐらいは教えてくれても良いだろう?」
「まぁな…3つだ」
「その魔力は…魔石で補っているというわけだ」
「そこまで…バレてるのか」
アレンとリュークの会話からフィアーネ達も事情を察する。
リュークが身につけている鎧は表面上は何の事はない革鎧だ。だがそれは表面上の事であり、革鎧の内側には術式が組み込まれている。
組み込まれた術式は、神聖魔術である【聖衣】、【反瘴気】、【復元魔術】の3つだ。
【聖衣】は神聖魔術の真骨頂とも言える術で対象となるものを大幅に強化し、あらゆる災難から身を守るのに使用される。本来であれば生物にかけるべき術であるが、リュークは自分の革鎧にかけたのだ。
なぜリューク本人ではなく、革鎧にかけたのか?
その理由はただ一つ、アレンに【聖衣】を使用していることを悟られないことである。革鎧の内側に発動しているのだから、アレンには見抜かれづらいと考えたのだ。
実際にリューク本人では無く革鎧に術式を組み込む事で、アレンがそれを察するのに時間がかかったのだ。
【反瘴気】は、その名の通り、瘴気に対する対策の為の神聖魔術の術式である。
神聖魔術と死霊術は相性がお互いに悪い。神聖魔術を破りたければ死霊術を、死霊術を破りたければ神聖魔術を使うのが常識であり、闇姫は瘴気の塊が形をなしたものだ。その瘴気の体で殴りつけても【反瘴気】によりかなり軽減されていたのだ。
そして【復元魔術】の対象もリュークでは無かった。対象は革鎧に施した【聖衣】と【反瘴気】の術式だ。革鎧が攻撃を受けて損傷し、術式が効力を発揮しなくなった時に術式を復元するためのものであった。
そして、この三つの術式のエネルギー源である魔力は、魔石から補っている。リュークは準備期間で魔石を購入し、魔石に含まれている魔力で術を形成していたのだ。魔石はSからA、B、Cのランク付けがされている。当然ながらSクラスの魔石はすさまじく高価で白金貨3枚はする。リュークはその高価な魔石を7個仕入れて事に臨んでいた。
いわば、魔石によるドーピングとも言うべきものであった。
「卑怯とか言わないでくれよ、弱者の知恵ってやつだ」
リュークの言葉にアレンはニヤリと笑う。
「リュークが弱者なわけないだろ。準備期間にどのような準備をするかは本人の戦略に関わる事だ。『魔石を使ってはいけません』なんて取り決めがあったわけじゃないから、卑怯でも何でもない」
アレンの返答にリュークもまたニヤリと笑う。
「まぁ、アレンならそう言うと思ってたよ。でも意外とこういう手段を卑怯と言う奴がいるんだよ」
「自分の間抜けさを棚にあげて卑怯とか言う奴は確かにいるよな」
アレンも苦笑を漏らす。
自分が対応できないことをする相手を卑怯となじる者が結構いるのだ。卑怯となじるのを作戦で言うのなら救いようがあるのだが、ほとんどの者は本気でなじるからアレンからすれば呆れるしかないのだ。
「さて…リュークは今、現在追い詰められている事がわかってるよな?」
アレンの言葉にリュークはピクリと反応する。
(やはり…バレてたか…)
リュークは心の中で冷や汗を流し始める。だが、表面上は何とか平静さを保つ事に成功していた。まぁ肝心のアレンにバレている以上、取り繕っても仕方がない。
「ああ…」
リュークは正直に答えるが、これは諦めたからではない。正直に応える事でアレンにわずかながらでも『他に策があるのでは?』と思わせる事が目的だった。
「魔石の魔力はほとんど底をついているはず…」
アレンの続けた言葉にリュークは頷く。
「もし余力があるのなら、魔法陣を消すよな?」
「やはりバレてたか…」
リュークはそう言うと両手の剣を消し、地面に刺さっていた聖剣ランゴルギアを抜く。
「さて…最後の悪足掻きをさせてもらうぞ」
リュークはニヤリと笑うと剣を腰の位置に置くとそのまま腰を落とす。アレンの目には聖剣ランゴルギアがリュークの体に隠れて見えなくなる。
それに対してアレンは魔剣ヴェルシスを正眼に構える。
ローエンシアの墓守とランゴルギアの勇者の最後の攻防が始まろうとしていた。
露骨な引き延ばしと思われる方もいらっしゃると思いますが、考える時間稼ぎと思っていただけると助かります。




