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勇者Ⅱ⑪

 リュークの剣が闇姫やみひめの心臓を貫いた時、リュークは仕留めたと思った。だが、それが誤りである事をすぐに思い知らされる事になる。


 闇姫やみひめの裏拳が間髪入れずにリュークの頬に叩き込まれたのだ。


 とっさに後ろに跳んだためにに致命的な打撃にならなかったが、もろにくらったた事には変わりない。リュークは2メートルほどの距離を飛び地面に転がる。闇姫やみひめは間合いを詰めると立ち上がったばかりのリュークを殴りつける。


「くっ…」


 リュークは闇姫やみひめの拳をかろうじて両腕を交叉させて受けるが、その膂力は凄まじくリュークはまたも吹っ飛ばされた。


(な…心臓の位置を間違いなく貫いたはずだ…)


 リュークの心に動揺が広がる。だが、リュークもまたアレン達と同様に修羅場をくぐり抜けてきた男だ。

 リュークはすぐさま、動揺した心を押さえ込むと自分のやるべきことを模索する。


(落ち着け…俺がすべきことは、このアンデッドの核の位置を探すことだ。斃したアンデッドは間違いなく心臓の位置にあったはずの核を貫いたから消え去った)


 リュークは闇姫やみひめの攻撃を躱しながらも、核の位置について思考する。


(まずは…下半身か上半身かを確認しよう…)


 リュークが再び魔力で剣を形成したところで、【闇の裁き(ダークネスジャッジ)】の魔術が襲いかかる。


「く…このクソ忙しいときに!!」


 ちらりと一瞬、【聖壁ホーリーウォール】を見ると、所々が崩れているのが目に入る。どうやら【闇の裁き(ダークネスジャッジ)】は、【聖壁ホーリーウォール】へ魔術を放ち続けていたらしい。


 リュークは再び【聖壁ホーリーウォール】を形成すると、ほぼ同時に魔力で剣を形成し、闇姫やみひめの胴を薙いだ。ほぼ同時に三つの動作をこなしたリュークの実力は特筆すべきものであろう。


 実際に見学していたフィアーネ達の口から感歎の言葉が発せられた。


 上半身と下半身を両断された闇姫やみひめは、下半身が塵となって消え去ったが、再び下半身が再生する。


(下半身じゃない…やはり、上半身…)


 リュークはさらに闇姫やみひめの核の位置を絞り込もうと剣を振るおうとしたその時…


 ゾワリとした感覚をリュークは背後に感じた。


 リュークはその感覚の正体を確かめること無く、その場から真横に跳んだ。


「はっ!!!!」


 リュークが横に跳んだのとかけ声がするのは同時だった。アレンがいつの間にか間合いを詰めると瘴気の塊を凄まじい速度で放ったのだ。一瞬でも跳ぶのを遅れればその瘴気弾をまともに受けることになっただろう。


 放たれた瘴気弾は大きく地面を抉り、その威力の凄まじさをリュークに知らせる。


(アレンとこのアンデッドを同時に相手取る事は出来ない…)


 リュークはそう決断すると、あえて【闇の裁き(ダークネスジャッジ)】の魔術の射線上に飛び出す。その瞬間に【闇の裁き(ダークネスジャッジ)】達はリュークに魔術を放つ。


 リュークを追った闇姫やみひめは、放たれた魔術の射線上に入り込み背後からまともに直撃した。その瞬間にリュークは闇姫やみひめの首を刎ね飛ばす。そして切り離された体の方が消滅する。


(核は…頭か)


 核の位置を把握したリュークは闇姫やみひめの頭部を両断する。核を両断された闇姫やみひめは塵となって消え去った。


(アレンは…って、おいおい、そりゃねーだろ!!)


 リュークは心の中でアレンを視界に捉えた時叫んだ。


 アレンは魔剣ヴェルシスを地面に刺し、両掌に瘴気の塊を集めている。しかも…その瘴気の塊は膨張し、先程自分が苦労して斃した闇姫やみひめが現れている。しかもこんどは先程の倍の4体だ。


「そのアンデッド…は無限に作り出せるのか?」


 リュークの言葉にアレンは答えない。代わりに言ったのはただ一言…「かかれ」だった。その瞬間に4体の闇姫やみひめ達が突っ込んでくる。


(情報は漏らさない…か)


 リュークは自分のような格下の相手であっても一切油断しないアレンに対し、感心する。自分が有利になると途端に自分の術を教え、自慢するような奴がいるが、アレンにはそのような悪癖とは無縁のようだ。

 だが、それはアレンに付けいる隙が無いという事である以上、敵として最もやっかいな相手と考えて良いだろう。


 4体の闇姫やみひめの攻撃をリュークは丁寧に躱していく。【闇の裁き(ダークネスジャッジ)】の魔術は止んでいる所を見るとアレンが止めたという事がわかる。


(正直、助かるな…)


 リュークは心の中でそう考えた次の瞬間、それが助かるという事と最も無縁なものであることを思い知らされる。


 闇姫やみひめ達の攻撃に混ざり、アレンが攻撃をしかけてきたのだ。アレンの攻撃は闇姫やみひめよりも遥かに速く、鋭く、激しい。当然ながらリュークはアレンの攻撃に意識を集中せざるを得ない。そうすると闇姫やみひめ達からの攻撃から意識が逸れることになり、たびたび闇姫やみひめの攻撃を受けるようになった。


(リューク…悪いがこのまま押し切らせてもらうぞ)


 リュークの実力を認めているからこその作戦だった。アレンは心の中でそう呟くと、闇姫やみひめの攻撃の間を縫って、斬撃を繰り出す。


 リュークはアレンの斬撃を躱しきることは出来ないが、アレンから下がるように心がけているため何とか浅手で済んでいる。


 だが、致命的な一撃こそ、なんとか避けているとは言っても無傷で無い以上、少しずつ確実に消耗していく。


 リュークにはもはや打開策が無いように思われる。実際にアレンと闇姫やみひめ達により防戦一方に追い込まれている様子から遠からず力尽きる事が予想される。


 そして、ついに闇姫やみひめの一体が至近距離で瘴気弾を放ち、リュークは躱しきることができずにまともに腹に受ける。腹に瘴気弾を受けたリュークは3メートルほどの距離を吹っ飛び地面を転がり、うつぶせに倒れ込んでいる。


 この絶好の機会にアレンはなぜか追撃しない。


 その事にフィアーネ達、観客は訝しがる。アレンがこの絶好の機会を見逃すことを訝しんだのだ。同時にアレンがリュークの何かを警戒している事を察した。


「リューク…なぜ闇姫やみひめの瘴気弾をまともにくらってその程度で済んでいる?」


 アレンの言葉にリュークはすくっと立ち上がる。勝負が決まったままのフリをする意味が無くなったために立ち上がったのだ。


「アレンこそ…どうして、わかったんだ?」


 リュークも訝しげに疑問を呈する。うつ伏せになり、アレンが不用意に近付いた時に魔力で作成した剣で攻撃しようとしていたのだ。


「吹っ飛ぶときに俺から視線を外さなかったからな。お前がわざと一撃を受けたのがわかった。迂闊だったな」

「なるほどな…と言いたいが、そんな事に気付くような奴はお前ぐらいだぞ」

「いや結構いると思うぞ」

「お前の周りにいる人達を基準に考えるなよ」


 リュークのため息をつきそうな声に観客達は同意する。


「さて…当然だが、俺が攻撃を受けたのはわざとだが、その理由は2つあった。一つはお前の隙をついて攻撃する。そしてもう一つは…」


 リュークは話の途中でバックステップすると壁に刺さった聖剣グランギアを手にとると引き抜く。アレンはそれを黙って見送ったのは、不覚にもリュークが闇姫やみひめの瘴気弾をまともに受けて無事な事に気をとられていたのだ。


「この剣を拾うためだ」


 リュークはそう言うと地面に聖剣グランギアを突き刺す。その瞬間、地面に魔法陣が描き出された。


 描き出された魔法陣から光が放たれると闇姫やみひめ闇の裁き(ダークネスジャッジ)達は塵となって消え失せる。


 リュークは聖剣グランギアから手を離すと、魔力を操作し剣を両手に形成する。聖剣グランギアは地面にそのまま立っており、聖剣グランギアを中心に展開されている魔法陣は未だに消えていない。


「アレンが死霊術を使いこなすのは知っていたが、あんな厄介なアンデッドを召喚すると思わなかった」


 リュークの言う厄介なアンデッドとは闇姫やみひめの事であるが、厳密に言えばアンデッドとは異なるのだがアレンは訂正しない。


「なるほど、その剣は【浄化ピュリファイ】を展開できるわけか…」

「ああ、あのアンデッドを召喚する事を知ってれば初手で投げつけるような事はしなかったんだが、まぁ仕方ないな」

「だが、あれによって先手をとられてしまったんだ」


 アレンの答えにリュークは苦笑する。アレンの言う通り初手で剣を投げるという行為を行ったためにアレンの虚を付けたのだ。


「俺はリュークを見誤っていた」


 アレンの言葉にリュークは「ん?」という表情を浮かべる。アレンの言葉の意図を図りかねたのだ。


「リューク…お前は俺が思う以上の実力者だ。何よりも戦いに対する用意周到さに感歎する」


 アレンの言葉を受けてリュークは苦笑して口を開く。


「ああ、バレたというわけか」


 リュークの言葉に観客達は首を傾げた。

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