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勇者Ⅱ⑨

 修練場でアレンとリュークが向かい合い、その間にアルフィスが立つ。


「今回の立会人を務めるアルフィス=ユーノ=ローエン。今回の立ち会いについての条件を確認させてもらう」


 アルフィスの口から立ち会いのルールの最終確認が行われるのをアレンとリュークは黙って聞いている。


「条件は3つ。

 一つ、決着は相手が戦闘不能となる事、若しくは敗北を認めた場合。

 二つ、武器は今この場に用意したものであること。

 三つ、ローエンシア国法に則り、禁術に指定されたものは使用禁止とする

 以上の三つ、双方に異存は?」

「ない」

「委細承知」


 アルフィスの条件提示にアレンとリュークは即座に答える。


「それでは、双方に異存無しとして、これより立ち会いを行う。始め!!」


 アルフィスは初めの挨拶を告げると同時に後ろに跳ぶ。


 アレンとリュークは同時に剣を抜く。


 アレンの剣は『魔剣ヴェルシス』…。正眼に構えリュークの攻撃に備える。一方でリュークは背負った『聖剣グランギア』を抜き、片手で上段に構え、もう片方の腕を胸の前に置いている。


 聖剣グランギアはアレンの持つ魔剣ヴェルシスよりも15㎝程長い。間合いに入った瞬間に凄まじい斬撃が放たれることは容易に想像つく。


 ビリビリと高まる緊張感に修練場の外で見ている面々は息を飲む。


(リュークの方が間合いが長い…ということは、あの斬撃をまずは捌かなければならないというわけだな…)


 アレンはリュークの斬撃をかいくぐるため初手を読まれないように気配を消す。


(来る…!!)


 一方でリュークはアレンが飛び込んでくることを察すると聖剣グランギアを振り下ろす。聖剣グランギアの間合いに入っていない段階で剣を振るという選択肢はあり得ない。アレンはリュークの行動の意図を察する事が出来ずにいた。


 一瞬の自失…。


 だが、リュークはなんと振り下ろした聖剣グランギアから手を離したのだ。手を離れた聖剣グランギアはアレンの元に当然飛んでいった。


「くっ…」


 アレンは飛来する聖剣グランギアを何とか躱すことに成功する。聖剣グランギアはそのまま修練場の塀に突き刺さった。そして、リュークは剣を投げると同時に踏み込み、アレンとの間合いを詰めると右手の裏拳でアレンの首を打とうとする。


 アレンはバックステップしてリュークの裏拳を躱そうとするが、リュークの手には魔力で形成した剣が握られている。それは鍔も柄もない只の刃部分のみで形成されている無骨なものだが、その切れ味は本物だった。


 ただ下がっただけでは、リュークの形成した剣を躱すことは出来ない。アレンは咄嗟に剣を振り上げリュークの剣を受け流した。


「ちっ…」


 リュークは舌打ちをすると、そのまま左手を振る。


 左手には魔力で形成した棒手裏剣が握られている。リュークはそれを振ることで棒手裏剣を放ったのだ。


 放たれた棒手裏剣は3本、足、腹、肩の3カ所にほぼ同時に放たれており、アレンといえどもすべてを剣ではたき落とすことは不可能だ。アレンは足、腹に放たれた棒手裏剣をはたき落とし、肩に放たれた棒手裏剣を左腕で受ける。


「ぐっ」


 腕に刺さった棒手裏剣をアレンは引き抜くと地面に投げ捨てる。棒手裏剣を抜き取った左腕から血が溢れ出す。


 アレンが負傷したことで、観客の中から驚きの声が漏れる。


「信じられない…アレンが押されてる…」


 フィアーネの言葉に他の婚約者達も驚きの表情が浮かんでいる。戦いが始まってここまでアレンがまったく流れを掴めていない事に驚いたのだ。


「いえ…それよりも初手よ…」


 レミアの言葉に全員がレミアを見る。


「あの時、リュークはアレンが斬りかかろうとした瞬間をとらえたわ」

「確かに…でなければアレンさんはあっさりと躱していたはずです」

「確かにそうね…リュークはアレンの動きを読んだ…」


 婚約者の中で前衛組のフィアーネ、レミア、フィリシアは自分達の会話からリュークの実力を大幅に上方に修正している。

 アレンは初手を読ませないために常に気配を極限まで消す。それが初撃を入れるには最も有効である事はフィアーネ達も知っている。アレンはその気配を消すのが凄まじく上手いのだ。

 そのアレンの初手をリュークは読んだのだ。この事だけでも賞賛に値すると言っても過言ではないと3人は思ったのだ。


 だが、実際はリュークはアレンの気配を読んだわけではなかったのだ。リュークは国営墓地の見回りに同行した際に、まったくアレンの初手を読む事は出来なかったのだ。もちろん初手を読もうと努力をしているのだが、まったく読めないことにリュークは考え方を変えたのだ。


 すなわち、アレンの気配がまったく読めなくなるときが攻撃の起点になると考え方を改めたのだ。そこでアレンの気配が完全に消えた時にリュークは先手を打ったというわけだった。


 技術が高すぎる事を逆手にとったリュークの作戦だったのだ。


(アレンが…俺よりも強いのならそれにつけ込むしかない)


 相手の油断ではなく、高すぎる実力につけ込むという矛盾した作戦をリュークはとっていたのだ。だが、この作戦はアレンが気配を読まれたと勘違いしている段階でしか通じないのだ。


 そのため、リュークはアレンに気配を読んだ上での行動と思わせ続ける事に心を砕く必要があったのだ。


(やはり…勇者の称号は伊達じゃないな…いや、勇者の称号云々じゃなくリュークが強いのだな…)


 アレンはリュークの実力を高く評価していたつもりであったが、認識が甘かったことを思い知る。


 アレンは魔剣ヴェルシスを地面に突き刺すと剣を中心に魔法陣を形成する。直径3メートル程の魔法陣の周囲に直径1メートル程の魔法陣が9つ現れる。上空から見れば9つの花びらを持つ花の様に見えたかも知れない。


「出てこい…【闇の裁き(ダークネスジャッジ)】」


 九つの魔法陣からそれぞれ法衣に身を包んだアンデッドが現れた。



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