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勇者Ⅱ⑥

「え、リューク…どうしてここに?」


 リュークに気付いたヴィアンカから開口一番疑問が発せられる。


「俺の仕事の相手はアインベルク侯だったんだ」

「そうだったのね」

「ああ、そっちこそアインベルク侯の弟子だったんだな」

「ええ、半年ぐらい前に弟子入りしたのよ」


 話し始めた2人に周囲の者達は2人の関係を興味深く見ている。リュークもヴィアンカも見目麗しい年頃の男女だ。当然ながら色恋沙汰を思い浮かべるのは当然だろう。


「そうか、ついにヴィアンカにも春が来たか」


 うんうんと感慨深げに頷いているのはウォルターだ。既婚者である彼はヴィアンカに対して時々、良い相手を見つけようとしていたのだ。


「よしよし…」


 ヴォルグも妹を見る兄のような目でヴィアンカとリュークのやり取りを見て、満足そうに頷いた。ヴォルグもまた既婚者であり、美人だが恋人のいないヴィアンカの事を心配していたのだ。

 この場にいないロバートもヴィアンカを妹のように見ていたので、この光景を見たら嬉しそうにする事だろう。ちなみにロバートは先日、幼馴染みの女性と婚約しており、半年後には結婚が決まっている。


 同僚の頷きと視線に気付いたヴィアンカは顔を赤くして仲間達をジロリと睨む。ちなみにヴィアンカが怒ったのはリュークとの仲をからかわれたからでは無く、ヴィアンカがモテないことを労る気遣いがこの上なく不快だったのだ。


 僅かながら剣呑な雰囲気が生まれ始めた事にアレンは2人に声をかけることで、雰囲気を変えるように仕向ける。


「2人はすでにお知り合いだったんですか?」


 アレンの質問に答えたのはリュークだった。


「はい、昨日貴族の青年が小さい子どもを足蹴にしていたんです。それを助けたのがヴィアンカだったというわけです」

「私だけじゃなく、リュークも一緒になって助けてくれたんです」


 二人の返答にアレンは微笑む。


「なるほど、それで二人は友人になったというわけですね」

「はい」

「その通りです」


 アレンの質問に二人はそう答えるが、二人が単にお互いを友人以上と思っている事をアレンは察した。


「なるほど、皆さん、この方はランゴルギアの勇者です」


 アレンの紹介に弟子達三人は驚いた表情を浮かべる。


「リューク、ランゴルギアの勇者だったの!?」


 ヴィアンカの驚いた表情に、リュークは困った様な顔を浮かべる。なんとなく告げるのを躊躇った結果、自分の口から告げる事が出来なかったのだ。その事に若干の後ろめたさを感じたのだ。


「う、うん、つい言いそびれちゃって」


 リュークの言葉にヴィアンカは微笑む。


「ああ、別に怒ってるわけじゃないわよ。びっくりしただけよ」


 ヴィアンカの笑顔にリュークは胸をなで下ろす。


「アインベルク侯…弟子とはヴィアンカの事だったんですね」

「はい、ご縁がありまして。と言いましても私はほとんど指導はしていません。指導しているのはこちらのロムです。位置付けでは弟弟子、妹弟子というのがより正確なのかも知れませんね」

「では、こちらの家令の方はアインベルク侯の師匠なんですか!?」


 リュークの言葉にロムが口を開く。


「私が指導したのはアレン様がご幼少の頃の話でございます。アレン様の師匠はやはり先代のアインベルク家当主であるユーノス様でございます」

「そうかも知れないけど、ロムも位置づけでは俺の師匠と呼んでもおかしくないだろ?」

「もったいないお言葉でございます」


 アレンとロムのやり取りを見てリュークは両者の関係が非常に良いことを察する。


「さて、アレン様、ウォルター様達の紹介もいたしませんと…」

「そうだな…ウォルターさん、ヴォルグさん、リューク殿に自己紹介をお願いできますか?」

「「はい!!」」


 アレンの言葉に従いウォルターとヴォルグが答えると、ウォルターが一歩前に出る。


「初めまして勇者殿、俺はウォルター=ローカスと言います。ヴィアンカと同じく近衛騎士です。あ、ちなみに既婚者ですのでご安心ください」


 ウォルターの自己紹介に、リュークは色々と突っ込みたかったのだが、ウォルターの言葉に安心している自分もいるのも事実だった。

 

 次にヴォルグが自己紹介をする。


「俺はヴォルグ=マーキスです。この2人同様、近衛騎士です。あ、ちなみに俺も既婚者ですから安心してください」


 ヴォルグもニヤリと笑う。その笑いには一切の邪気はない。むしろ「がんばれよ」とエールを送ってそうな感じを受けた。


 同僚2人の自己紹介にヴィアンカはその意図を察している。


「ちょっと2人とも何よその自己紹介は!!」


 ヴィアンカは声をあげるが、その顔は真っ赤だ。顔を赤くしている理由は怒りのために顔を赤くしているのではなく、リュークとの仲をからかわれた事に対して照れているに過ぎないことは全員、わかっていた。


「いや、別に勇者殿も気にかかる事だろうからさ」


 ウォルターは白々しく言うと、ヴォルグもこの流れに乗っかる。


「俺もだ。俺やウォルターの恋人、妻の有無を勇者殿は知りたいと思ったからさ」


 ヴォルグの言葉は、明らかにヴィアンカと自分達との関係を伝えようとしているのは明らかだった。


「まぁまぁ、お二方もあまり、からかうとヴィアンカ様も勇者様も可哀想ですよ」


 ロムの言葉にヴィアンカとリュークは助かったという空気を出すが、その空気は次のロムの発言で霧散してしまう。


「男女の関係は他者が動けば動くほど上手くいかなくなる可能性がございますので、お二方の事を思えば黙って見守るというのが上策かと思われます」


 ロムの微笑みながらの言葉にウォルターとヴォルグは頷き、アレンは苦笑している。


「ろ、ロム先生まで!!」


 ヴィアンカの顔はもう真っ赤だ。


「まぁ、冗談はその辺にして今日の鍛錬には勇者殿が見学しますが、いつも通りやっていきましょう」


 アレンはさすがにこれ以上は気の毒になったので、この話題を終わらせた。


(変な感じになっちゃったな…何というかアインベルク侯の関係者って何か一筋縄じゃいかない人達ばかりだな)


 リュークは心の中でため息をつく。


 アレンが戦闘を歩き、他の者はそれについていく。ランゴルギアの勇者の近衛騎士への指導の見学が始まったのだ。



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