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勇者Ⅱ①

 新章になります。

 一人の男、いや少年が街道を歩いている。


 少年は革鎧に剣を背負い、その上にマントを羽織っている。一見すると駆け出しの冒険者のようにも見える。


 だが、見る者が見ればその少年の立ち居振る舞いには洗練されており、それが少年の実力の高さを思わせる。また背負う剣も一介の冒険者が持つような物ではないのが明らかだ。


 また少年の容姿も金色の髪、碧い目、秀麗な顔立ちにどことなく気品というものが感じられる。


 この少年の名は『リューク=バラン=リーディン』…。この名はランゴルギアにとって大きな意味を持つ。


 リュークはリーディン伯爵家の次男である。普通伯爵家の次男という肩書きは何ら彼の経歴に華を添えるものではない。彼の経歴に華を添えるのはもう一つの『勇者』という肩書きである。


 『勇者』はその国で、最強の戦闘力を持つ者に贈られる称号であり、地位であった。『勇者』の称号を得た人物は、普通の冒険者では対抗できないような強大な魔物を討伐する任務に就く。

 言わば、その国の切り札とも言える存在なのだ。リュークは18歳という若さでランゴルギアの勇者に就任した。


 先代の勇者がある魔族との戦いにより命を落とした。その魔族をリュークが討ち取った功績でランゴルギアの勇者となったのだ。


 リュークは勇者になってから多くの任務をこなし、それに伴い実力を上げていた。だが、リュークは勇者として活動するうちに一種の寂しさを感じ始めていた。


 リュークと同等の実力を持つ者は、同年代どころか年齢が上の者の中にもいなかったのだ。無論、彼にも友人と思っている者はいる。だが、同等の実力者がいない事のさびしさをリュークはどうしても消すことが出来なかった。


 そんな時にローエンシア王国の墓守の噂が聞こえて来たのだ。その人物はゴルヴェラ11体を討ち取り、禁忌の騎士(タブーナイト)を斃し、デスナイト、リッチを毎晩のように斃すという実力者である。


 聞こえてくる噂が事実であれば、その実力は自分以上、いや比較にすらならないだろう。


 そんな時に兄のリオンからローエンシアの墓守の調査が命じられたのだ。ランゴルギアの上層部はその墓守を警戒している事は間違いない。でなければ勇者の自分に直々に話しがくるわけはない。


 だが、兄リオンは国家の意向以外の目的があることをリュークは察していた。その目的は正直な所、わからない。だが、兄が自分を利用しようとしているわけでは無い事は察していた。

 だが、それ故に兄の思惑が読めないのも事実だったのだ。


「…兄さんは…一体何の目的で…」


 リュークは何度目かの疑問を呈する。まだ、アインベルク侯に近付き、美味い汁を吸うという方がわかりやすい。


「まぁ…その辺は終わってから聞くしかないか…自分なりの答えを考えとかないとな」


 兄リオンは事が終わったときには必ず答えを教えてくれる。だが、それはあくまで自分の意見を提示しなくては決して教えてくれないのだ。兄なりの教育方針なのだろう。


 リュークは空を見上げて太陽の角度を確認する。見たところ太陽はかなり西に傾きだしているので野営の準備に入る方が無難かとリュークは結論づけた。


 リュークは伯爵家に生まれたが、勇者として活動するうちに野営に対してほとんど忌避感はない。疲労回復などの点から言えばきちんとした宿泊施設に泊まるのが良いのだが、その辺はあれば幸運と捉えていたのだ。


「仕方がない…この辺で今夜は泊まるか」


 リュークは街道から逸れた場所にちょっとしたスペースを見つけ荷物を下ろすと、石と薪を集める。手慣れたもので15分程で野営の用意は終わる。


 鍋に水をはり、燻製の肉を切り分け野菜と一緒に煮込む。味付けは塩のみというシンプルすぎるものだ。正直な所、おいしくないのだがこんな人里離れた場所での食事だ。このような場所においては食事は嗜好ではなく栄養補給であることを割り切るべきなのだ。


「はぁ~いっその事、宗旨替えして一人旅はやめようかな」


 リュークの口から食事の度にぼやきが出る。リュークは基本一人旅だ。だがリュークの旅は過酷なものだ。当然、一人で行かせるわけにはいかないと国が一流の実力者を付け、チームを組ませるのだが、どれも長続きしなかった。


 リュークは礼儀正しい少年だし、融通も利く性格だ。それでも長続きしないのは単にリュークの実力に付いてこれるものがいないのだ。


(アインベルク侯は噂通りの実力なら俺よりも強い…)


 まだ見ぬアインベルク侯の事をリュークは考える。それほどの絶大な実力を持つ人物はどのような為人なのかリュークは気になるところであった。自分と同じように周囲に同等の実力を持つ者がいないと寂しさを感じているのだろうか。それともそんな寂しさなどに囚われない人物なのだろうか。


 リュークはそんな事を考えながら横になり、焚き火に土をかけて火を消すと目を閉じる。語らう相手もいない一人旅の時は食事を取ったらすぐに横になり目を閉じるのがいつもの流れなのだ。


 しばらくするとリュークの意識は眠りの世界に落ちていった。





 夜半にリュークは何者かの気配を察知すると目を開ける。すぐに体を起こすと周囲を確認する。


 傍らに置く剣を手に取りリュークは息を殺しながら、気配の正体を探る。


(数は…2? いや3…)


 リュークは足音の数から相手の数を推測する。リュークは息を殺しながら相手を確認するために近付いていく。そしてその姿を捉えた。


 闇に浮かぶその相手の数は3体、粗末な革鎧、二本のダガーを腰に差す。口元を覆い隠した布は長く、後ろに垂らしている。その布は妙に禍々しい。闇夜にあってもその禍々しさを理解することは簡単であった。


 だが、それよりも相手の特徴からすれば、些細な事なのかも知れない。その相手は人間ではなかった。いや、生物ですらなかったのだ。口元を覆う布に隠されていない部分から覗く顔は生者のものではない。眼窩は空洞化し、その奥に赤い光が宿っている。


(…あれは『血染めの盗賊(ブラッディシーフ)』!!)


 リュークは心の中で警戒の声を上げていた。

 

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