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剣姫⑧

「ティグリオ、エベン、アグロイ、ロベール、あなた達はこの人達が逃げ出さないように入り口を塞いでおきなさい」


 フィリシアは付き従う四人に命じる。部下として扱っている者に対する声色ではない。


「「「「はっ!!」」」」


 だが、四人は黙って付き従っている。もし、ここで逆らおうものならどのような事をされるか考えるだけでも恐ろしい。


 四人の付き従う様子にフィゲンのメンバー達はいきり立ち、裏切り者をあしざまに罵った。


「てめぇら、裏切りやがったな」

「てめぇらまとめてぶっ殺してやる!!」

「クソ女がぶっ殺してやる」


 フィゲンのいきり立つ姿にフィリシアは嘲りの表情を浮かべる。その表情を見た男達はさらにいきり立つ。


「まったく…どこまでも使えないゴミ虫共というわけですね」


 フィリシアの放たれた言葉にフィゲンのメンバー達は凍り付く。フィリシアは言葉だけでなく殺気も使いメンバー達を黙らせたのだ。


「『ぶっ殺してやる』なんて言っている暇があれば、さっさと私をころしにかかれば良いのに、わざわざ『これから攻撃しますよ』と教えないと掛かってこれないんですか?」

「な…」

「まぁ所詮は戦う術のない者相手にしか強者を装えない紛い物ですから仕方ないですね」


 フィリシアの言葉にフィゲンのメンバー達は沈黙する。反論したいのだがフィリシアの殺気により口を開くことが出来なかったのだ。


「こんなゴミ虫共に剣を使えば潰してしまいますね…。しょうがない…素手で行きましょう」


 フィリシアは言い終わると同時に近くにいた男の顔面に拳を入れる。フィリシアの拳により顔面を殴られた男は吹っ飛ぶと後ろの男達にぶつかる。男の身長は190㎝程の巨体であったがフィリシアの拳によって風に舞う木の葉のように吹き飛んだのだ。仲間に受け止められた、その男はすでに気絶しており口をだらしなく開けておりそこから血の混ざったよだれがしたたり落ちている。


 フィリシアは悠然と歩くと殴り飛ばした男を抱えている仲間を殴り飛ばす。周囲の者達にはフィリシアの動きはまったく見えない。抱えていた男2人が吹き飛んだ事からフィリシアが殴り飛ばしたと察したのだ。


 抱えてくれていた支えを失ったために気絶していた男は床に落ちる。フィリシアは足を上げ気絶している男の胸を踏み砕く。


 ゴギィ!!


 骨の砕ける音がフィゲンの男達の耳に響く。


「ヒィ」


 給仕をしていた女が腰を抜かしたように座り込む。20代半ばといった感じのなかなかの美女のようではあるが恐怖に歪んだ顔は百年の恋も冷めるという酷さだった。フィリシアは腰を抜かした女の顔を蹴り飛ばした。もちろん力加減はきちんとしているのだが、あくまでもフィリシア基準での加減なので蹴り飛ばされた彼女にとって何の慰めにもなってないことは明らかであった。


 蹴り飛ばされ壁に激突した女はとうに気絶している。床に落ちた女の手からナイフがこぼれ落ちる。フィリシアが、この女を危険無しと判断して背を向けたら攻撃しようとしたのだろう。


「中々、上手い手ですね。私達以外の方なら引っかかるのでしょうけどね」


 フィリシアの声には女性への賛辞が込められている。


「あなた方もこれぐらいの作戦を立てて実行したらどうなんです?」


 フィリシアはそう言うと近くにいた男の膝を蹴り砕くと胸ぐらを掴む。すると男は自ら飛び頭から机に突っ込んだ。


 ガシャアアアアア!!


 頭から机に突っ込んだ男により机に並べてあった酒やつまみなどが床に散乱する。


「さて…ギルドマスターを痛めつけないといけませんから、さっさと終わらせましょうかね」


 フィリシアはそう言うとフィゲンの男達は顔を凍り付かせた。フィリシアの規格外の戦闘力を目の当たりにして勝ち目がないことをこの段階で悟ったのだ。男達は跪き慈悲を乞うたがフィリシアは一切容赦することなく男達を痛めつけたのだ。


 フィリシアとすれば手加減をして後から襲いかかられ思わぬ不覚をとることを避けるための行動だったのだ。しかし、フィゲンのメンバー達からすればフィリシアに対する恐怖を魂レベルで刻まれる事になったのだ。


「ティグリオ、ギルドマスターの所に案内しなさい」


 フィリシアの言葉にティグリオは頷く。もはやギルドマスターなどよりもフィリシアの方が遥かに恐ろしい。いや、フィリシアに比べればギルドマスターの怒りなど幼児の癇癪だ。


「こちらです」


 ティグリオがフィリシアを案内しようとするとフィリシアは他の3人にも声をかける。


「エベン、アグロイ、ロベール、あなた達はこのクズ共を捕らえておきなさい。もし1人でも逃したらどうなるか想像力を働かせてね」


 フィリシアの笑顔はとてつもなく美しかったが、3人は、その美しさに魅了されることはなかった。それどころか畏怖すべき対象としてしか捉えていない。


「「「ははぁ!!!」」」


 3人は跪き絶対の主君に対する態度をフィリシアに向けてとる。


「案内しなさい」


 フィリシアはそう言うとティグリオはフィリシアを先導してギルドマスターの元へと向かう。


 ティグリオは店の奥の厨房を超え、従業員の休憩室と思われる部屋に入り、床を開ける。床を開けた先に階段があり、どうやらその先が闇ギルド『フィゲン』のアジトらしい。


 フィリシアはまずティグリオを行かせ、安全を確認させ地下に降りる。地下室は思っていたよりもきちんとした造りとなっていた。ただ掘っただけでなく煉瓦で補強してあり所々に魔石を使った照明が灯されている。地下と言うこともあり火を使った明かりは避けたのだろう。


 地下室には3人の男達がいる。フィリシアの姿を見てティグリオに疑惑の目を向けた。


 どうやらここにいた連中は上の騒ぎを知らなかったようだ。そういえばフィリシアが痛めつけた連中の中に包丁を持った男がいたことから誰も知らせに来られなかったのかも知れない。


「ティグリオ…この連中は?」


 フィリシアがティグリオに聞く。


「は、はい…ギルドマスターの護衛です」

「護衛はアグ…何とかという男じゃなかったの?」


 フィリシアの言葉に剣呑なものが含まれる。その気配を察したティグリオはガタガタと震えだし跪いてフィリシアに慈悲を乞い始めた。


「お許しください!!!私の言葉足らずのために誤解させてしまいました。申し訳ありません!!!」


 ティグリオのあまりの卑屈な態度に護衛の男達は一様に呆けた表情を浮かべた。ティグリオはフィゲンの中でも腕利きで通っていたのだ。


「まぁいいわ。ギルドマスターは奥ね。あなた達邪魔よ」


 フィリシアはそう言うと護衛の男の間合いに入り込むと1人の男の顔面に裏拳を入れ吹っ飛ばすと、次の瞬間には隣の護衛の男に体当たりを入れる。すさまじい衝撃に体当たりを食らった男は吹っ飛び壁に激突した。


 1人残った護衛の左目にフィリシアは親指を突っ込むと男を投げ飛ばす。床にたたきつけられた男はそのまま気絶した。


 ティグリオはその様子を呆然と眺めている。この護衛の3人の腕前はギルドマスターの護衛に選ばれるだけあって相当な手練れだ。いや、手練れのはずだった。にも関わらずフィリシアには為す術無く斃されたのだ。


 ティグリオは自分達の中の実力差などフィリシアにとってまったく意味の無いことである事を今更ながら思い知らされる。同時にギルドマスターのリュハン=メムトに対して怒りも湧いてきた。


 リュハンがこんな規格外の戦闘力を持っている相手にちょっかいをかけようなどと思わなければこんな目に遭う事も無かったのだという怒りだった。


 この少女は単に剣の実力だけでなく、一切敵への容赦もないし、油断もしない。先程上で腰を抜かしたフリをした女を何の容赦もなく蹴り飛ばした。命乞いをする他のメンバーも容赦なく痛めつけ戦闘力を奪った。


 つけいる隙が一切無いのだ。


 フィリシアは気絶している男の頭を掴むと奥のギルドマスターの部屋の扉の前に立つと扉を蹴破った。いや、蹴破ったという生やさしい表現は当てはまらない。フィリシアの凄まじい蹴りにより扉は蝶番から弾けとび扉はギルドマスターの部屋に転がった。


 フィリシアは掴んでいた男を扉の中に投げ込む。


 投げられた男はギルドマスターの床に転がる。それを確認してフィリシアはついに闇ギルド『フィゲン』のギルドマスターのリュハン=メムトと相対した。


「こんにちは、ギルドマスターあなた方を潰しに来ました」


 フィリシアの言葉にギルドマスターと思われる男と護衛と思われる男2人の計3人が目を丸くしていた。

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