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剣姫⑤

 フィリシアの笑顔に男達は凍り付く。


「な…なんで?…フィリシアちゃん…」


 エベンがフィリシアに震える声で問いかける。


 エベンの言葉にフィリシアは首を傾げる。


「エベンさん、その問いは『どうしてバレたのか?』という問いですか? それとも私がアグロイさんを攻撃したことですか? それとも…アグロイを…殺さなかったことですか?」


 フィリシアの言葉に全員が言葉を失っている。


「も、もちろん…アグロイを攻撃した理由だ」


 エベンは震える声でようやくそれだけを絞り出した。それに対してのフィリシアの答えは抽象的すぎるものであった。


「あなたの考えている通りです」


 フィリシアの返答にティベリオが激高して叫ぶ。


「ふざけるな!!! なんでアグロイを攻撃したんだ!!!」


 ティグリオの怒鳴り声は後ろの盗賊風の男達も身を震わせた。だが、フィリシアにはまったく動じた様子は見えない。それどころか冷たすぎる視線をティベリオに向けている。


「敵だからです」


 あっさりと答えるフィリシアに男達は絶句する。確かにフィリシアにバレている事はアグロイを攻撃した事で明らかであったが、ティグリオはなんとか取り繕おうとしたのだ。


「あなた達は私に危害を加えようとしている事はわかっています。あまりにも酷い茶番なので付き合うのが面倒になっただけです」

「な…」

「さて…話は後にしようと言ったのに、結局話しちゃいましたね」


 フィリシアはそう言うと一歩進み出る。この歩みは男達に会話を打ち切ることを宣言したように感じた。


 フィリシアはロベールの間合いにスルリと入り込むと足の甲を踏み抜く。


 ビキィ…。


 足の甲を踏み抜かれたロベールは凄まじい苦痛が発したと同時に地面に頭から突っ込んでいた。もちろん自分の意思で突っ込んだのではない。フィリシアが投げ飛ばしたのだ。だが周囲の者には、フィリシアが足の甲を踏み抜き、同時に右手を掴んだ瞬間に自ら飛んだようにしか周囲には見えなかった。


「よいしょ…」


 頭から突っ込んだロベールはすでに気絶していたが、フィリシアは容赦なく肋骨を踏み抜く。


 一切の容赦のなさにティグリオ達はガタガタと震え出す。


 フィリシアは剣を鞘に収めると、無手で男達に相対する。フィリシアの無手での実力はフィアーネには及ばない。だが、それはフィリシアの技量が低いことを意味するものでは決して無い。

 フィリシアに無手での戦闘を挑み、勝利を収める事が出来る者などほとんどいないと言える。


 フィリシアはティグリオとエベンを悠々と横を通り抜け、背後にいる盗賊風の男達を蹂躙し始めた。中段突きが放たれるとまともに受けた盗賊風の男の肋骨が砕けその場に崩れ落ちる。


 顎を打ち抜かれた男が砕かれた歯と血を撒き散らし地面に転がる。フィリシアの戦闘力は理不尽という言葉ではとても表現できない。男達はフィリシアという天災から逃れようとしても、すぐにつかまり痛めつけられていった。


 僅か5分で盗賊風の男達全員をのしたフィリシアはティグリオとエベンに向かって歩を進める。


「く、くそがぁ!!」


 ティグリオとエベンは武器を構えるとフィリシアを睨みつける。ティグリオは両手の双剣を逆手に持つとフィリシアに斬りかかる。


 凄まじい速度で放たれる斬撃であったが、レミアの双剣に比べれば、速度、鋭さ、すべてが稚拙であった。


 そしてエベンもフィリシアに長剣を振るう。


 だが…


 フィリシアはまったく動じることなく。二人を制するために動く。


 振りかぶったエベルの長剣をかいくぐるとフィリシアは肋骨に肘を叩き込んだ。ビキィという骨の折れる感触をフィリシアは感じたが、フィリシアは容赦なく顎に掌抵を叩き込んだ。斜め舌から顎に入った掌抵の衝撃でエベンは体を浮かせ地面に落下する。


 自分一人となったティグリオは半ば恐慌状態に陥り、むちゃくちゃに剣を振り回し始めた。


「シネシネシネシネ!!!!!!!シネシネェェェェッェェェェッェ!!!!」


 音程の外れたかけ声をあげながら突っ込んでくるティグリオの右腕をフィリシアは拳で撃ち抜く。


 ビキィ!!


 骨が砕かれ手にしていた双剣の一本が地面に落ちる。ティグリオが叫び声を上げるよりも早くフィリシアは腹に正拳突きを放つ。見事に決まりティグリオは腹を押さえて苦しげな表情を浮かべた。


 フィリシアはトドメに肘を顔面に叩き込んだ。


 その凄まじい肘はティグリオから意識を奪い。数メートルの距離を飛んで地面に転がった。


 まったく危なげなく二十人弱の男達をフィリシアは撃破したのだった。


 もし、男達に意識があったならば、フィリシアが息一つ乱れていない事に気付き、惨めな気分に拍車をかける事になったのだろうが、どうやらそれだけは救われたようであった。もっとも男達にとってそのような事は些細な事だろう。


 男達の意識が戻ったときに苦しい人生が始まることを、まだ知らなかった。

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