剣姫④
フィリシア達五人は悪魔がいるという場所に向かって歩いていた。その途中で男達はフィリシアに話しかけてくる。
どこに住んでるのか…。
一人でやっているのか…。
恋人はいるのか…。
様々な内容の質問にフィリシアは正直に答える。
エベンは婚約者がいると聞いても馴れ馴れしくしてきた。それらをひらりと躱しながら目的地へと向かって進む。
20分程進むと少し開けた場所に出る。すると、10数人の男達が茂みから現れる。
その格好から確実にまっとうな生き方をしているとは思えない。一言で言えば盗賊風の男達だ。
(…茶番が始まるというわけね)
フィリシアはため息をつきそうになるを堪えるのに苦労した。このタイミングで盗賊がここに現れるなんてあり得ないのだ。なぜならここは街道からかなり奥に入ったところだからだ。それにこの近辺に盗賊団がいると言う話など聞いたことがない。もし、王都近辺に盗賊団がいるというのなら噂になるはずだ。それらの事から考えて、この盗賊は仕込みである事をフィリシアは気付いた。
というよりも、もし本物の盗賊が王都近辺にいたりすれば、アレン達が出かけていって駒とする可能性が大だ。
(全部で二十弱の駒か…アレンさんも喜んでくれるでしょうね)
フィリシアは心の中でソロバンをはじく。殺すよりも駒の補充とした方がアレンは喜ぶと結論づける。フィリシアがそのような事を考えている事など周囲の男達はまったく気付いていない。フィリシアの清楚な容姿が苛烈さから、ほど遠いことから誤解されているのだが、フィリシアもアインベルク家の人間になろうという娘らしく敵への一切の容赦を持ち合わせていないのだ。
「金目のもんを出してもらおうか」
盗賊風の男達の中からリーダーらしき男が進み出てフィリシア達に開口一番目的を告げる。
(どんな茶番になるのかしら…)
フィリシアは、『うんざりしてませんよ』という表情を浮かべており、表面上は静かな余裕ある態度をとっている。内心は茶番に付き合わされていることに『うんざり』してるのだがそれを表に出すわけにはいかないのだ。
「へぇ~そっちの女はいい女じゃねえか」
リーダーらしき男はフィリシアを見ると嫌らしい笑みを浮かべる。
「おいおい、この娘は俺達の大事な助っ人だ。手を出させるわけにはいかんな」
ティグリオがフィリシアの前に立つとリーダーを威嚇する。
(…はぁ、まだバレてないと思ってるのかしら? そんな事無いわよね?)
フィリシアは、もはや『早く終わってくれないかしら』としか思っていない。取り囲んでいる盗賊風の男達をさりげなくフィリシアはチェックすると、やはり何人かの男達がティグリオ達に何かしら目配せしている者がいる。目配せをしてからさりげなくアグロイがフィリシアの後ろに移動している事から、どうやらこいつがフィリシアを捉える役目らしい。
「ティグリオさん…この方達は盗賊のようです。捕らえて官憲に突き出しましょう」
フィリシアの言葉にティグリオ達も賛同する。もういい加減、茶番に付き合うのも面倒になってきたのでここで事態を進める事にした。
「そうだな…ここでおしゃべりをしていても仕方ないな」
ティグリオはそう言うと腰に差した双剣を抜き放つ。エベンもロベールもそれぞれ武器を構える。フィリシアの位置から顔が見えないがさぞかし嫌らしい笑顔を浮かべているのがフィリシアには容易に想像できる。
「へぇ~俺達とやろうってわけか…」
リーダーらしき男が嫌らしく笑う。それを見てフィリシアも剣を抜いた。
「さて…終わらせるとしましょうか」
フィリシアの言葉にティグリオ達も応える。
「そうだな…」
「ああ、すぐに終わるだろうな」
「いや、始まりかもな」
ティグリオ、エベン、ロベールが一斉に振り向く。その顔は嫌らしく嗤い。フィリシアの絶望に染まった顔を見ようといた。
だが…。
彼らが見たのはフィリシアに顔面に肘を叩き込まれ血と歯を撒き散らしながら吹っ飛んでいったアグロイの姿だった。
アグロイは凄まじい衝撃に3メートルほどの距離を転がり気絶していた。
「な…」
「なん…で…?」
「え?」
ティグリオ達が事態に気付くと嫌らしい嗤いは消え、驚愕の表情が浮かんでいた。
盗賊風の男達もあまりの行動に凍り付いていた。
吹き飛んだアグロイの元にフィリシアはゆっくりと近付くと足で肋骨を容赦なく蹴り砕いた。
ゴギィィ!!
骨の砕ける音が周囲に響く。その様子を見ていた何人かの盗賊達が唾を飲み込んだ。フィリシアがとっくに自分達の企みを看破していた事をようやく気付いたのだ。
アグロイの肋骨を蹴り砕き、フィリシアは振り返る。
「さて…話は後にしましょうか」
フィリシアの言葉に男達は凍り付いた。
「とりあえず全員捕まえますから、抵抗しても構いませんよ。意味はありませんけどね」
フィリシアのニッコリと笑う顔は非常に美しかったのだが、男達は震えが止まらなかった。




