閑話~アンデッド視点②~
『くはははははは!!!!! 人間共よ!!眠れぬ夜の再来だ!!』
地獄の始まりを告げる嗤い声を上げると、私は配下のアンデッド達に命令を下し移動を開始する。
まずは手当たり次第にその辺の人間共を殺し、アンデッドにしてさらなる地獄を作り上げてくれる。暗い愉悦が私に中から湧き起こる。早く人間達を地獄に叩き込みたいという暗い欲望が私を動かしていた。
『ん?』
私とその配下のアンデッド達の進行方向に人間の一行がいた。
(このような…夜更けに墓地に?)
私は人間の一行がこちらに歩いてくる事を訝しがる。数は10人程だ。こちらは百体ほどいる以上、何の心配もない。スケルトン達だけでも嬲り殺しに出来るだろうが、私が作成したデスナイトもいる以上、勝利は確定されたも同然だ。万に一つの敗北もあり得ない事を私は確信する。
(くくく…運が悪かったな。人間共、地獄の幕開けを貴様らの怨嗟の声、いや命乞いから始める事にしよう)
私は配下のスケルトンに命令を下し、人間の一行を蹂躙し苦痛のうめき声を上げさせようとした…。
だが…
ドゴォォォォォォォォォ!!!!!
私が片手をあげた瞬間に前にいるスケルトンが凄まじい爆発の為に粉々に砕かれ辺りに散乱する。
『な、なんだ!!!!!』
私は防御陣を形成していたのだ、なんとか事なきを得たのだが、前方に配置していたスケルトンの約半分は消しとんでしまった。
(な…半分のスケルトン達が…一体何が起こったのだ!?)
私の混乱が収まるよりも早く再び爆発が起こった。
ドゴォォォォォ!!!!
またも数十体のスケルトン達が消しとぶ。
前方の人間達の攻撃である事をこの段階でやっと思い至った私は人間の一行に視線を移す。
1人の少女が弓をつがえているのを私は視界に入れる。
(ま…まさか…あ、あんな距離から?)
前方の人間達と私達の間は約200メートルは離れている。いくら魔力で強化しているとはいっても、ここまで届かせること自体が規格外だ…。
だが…あの、射手は…明らかに狙っている。
『くっ…だが、いくらスケルトンを減らしたところで、私の死霊術で継ぎ足せば何の問題も無い』
私は死霊術を使い、新たなアンデッド達を作成する。作成したアンデッドはまたしてもスケルトン、そしてデスナイトを2体だ。あの人間達は遠距離からの攻撃に特化した者達だ。あの人数でデスナイトを斃す事など出来るわけがない。
『行け!! デスナイト共よ!! あの人間共を蹂躙してやれ!!』
私の命令にデスナイト4体が盾を構えると雄叫びを上げて人間達に突っ込んでいった。あの人間達が調子づいていられるのもあとわずかの時間だ。
『くっくくく…さぁ、恐怖に押しつぶされてくれるなよ』
わずか200メートル程の距離だデスナイトの足なら10秒ほどだ。
駆けるデスナイトに5人の人間が向かってくる。
黒髪の男、金髪の男、銀髪の娘、黒髪の娘、紅い髪の娘…。たった5人でデスナイト4体を止められるとでも思っているのか? やはり人間は愚かだ。
銀髪と黒髪の娘がデスナイトへ向かって駆け出す。黒髪の娘は腰に差した双剣を抜き放つとデスナイトへ斬りかかる。銀髪の娘に至っては素手だ。
黒髪の双剣を持った娘はデスナイト二体の首をすり抜け様に斬り飛ばした。斬り飛ばされたデスナイトの首は地面に落ちる僅かな時間に塵となって跡形も無く消え去った。
銀髪の娘の拳がデスナイトの腹に決まるとデスナイトの背中が爆ぜる。そのままデスナイトの頭を掴むとまるで小石を投げるように銀髪の娘はデスナイトを放り投げる。デスナイトは10メートル程の距離を飛んで地面に激突する。
『な…』
リッチは自分の目が狂っているとしか思えなかっただろう。それだけ現実感の無い一方的な蹂躙だった。
黒髪と銀髪の娘はデスナイトを無視してこちらに向けて駆け出してくる。首を落とされたデスナイト2体はすでに首を再生させ、上半身となったデスナイトは下半身を再生させ立ち上がると2人をおって駆け出す。
だが、それは後ろの3人に無防備な背中を晒すと同義だった。
残りの3人は容赦なくデスナイトの背後から剣を突き立てる。核を斬り裂かれたデスナイト3人は一歩目を踏み出すこと無く消滅する。残りの一体も黒髪の男の剣により一合も斬り結ぶこと無く核を斬り落とした。
塵となって消え失せたデスナイトは盾で黒髪の男の剣を受け止めたはずだったが、男の剣はまるで紙を切るように盾ごとデスナイトを両断した。
デスナイトに惨めに踏みつぶされるだけと思っていたリッチにとってこの展開は意外すぎるものであった。
ドゴォォォォォォ!!!
『ぐはぁ!!』
突如、至近距離で爆発が起こりリッチを吹き飛ばした。リッチは爆風により地面を転がる。
『お前は刑が執行された後に国営墓地に葬られる。幾度蘇ろうとも…いや、蘇る度に殺されるのだ。永遠に殺され続けるがいい』
かつて聞いた言葉が突如私の頭の中に再生される。
(ま、まさか……いや、こんな事が…許されるはずが無い!! 私は人間を超えたのだ。その私が殺されるなどという事はあり得ない!!)
私は立ち上がると人間達に敵意を向けた視線を向ける。
『なっ…』
立ち上がった私の目の前に拳が迫っていた。その拳はひどくゆっくり見える。この程度の拳など余裕で躱せると思い、回避行動をとる。
だが、体が動かない。いや、ひどくゆっくりとしか私の体が動かないのだ。
(これは…経験がある…処刑されるときに処刑人の斧が振り下ろされるまでの…)
そうだ…あの時の感覚だ。
(ということは私は死ぬのか? いやだ!!せっかく蘇ったんだ!!また死にたくない!!)
私がそう叫ぼうとした時に拳が私の顔面にめり込んでいく感覚がわかった。私の歯、頬骨を打ち砕き後頭部の骨を打ち砕くのを感じた。
(がぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁ!!!!!!)
顔面を打ち砕かれ地面に叩きつけられた感触を背中に感じる。
「さて…核を踏みつぶしときましょうかね」
妙に淡々とした声を私は聞いていた。だが、体が動かない私には抗う術がない。
「今回もあっさり終わったな」
「まぁリッチごときじゃね」
「アレンさんも王太子殿下も残りのスケルトンの駆除を手伝ってください。数だけは多いから面倒なんです」
「そうねそっちのリッチの駆除はフィアーネにまかせましょ」
(…駆除? この人間達は私を駆除と言ったのか? )
この人間達にとって私の存在など『虫』と同義なのだ。私がその事に気付いた時に絶望が私の心に満ちた。
(何なのだ…? こいつらは一体…)
誰もこの疑問に答えてくれる者はいない。
私が最後に感じた感覚は私の胸にある核を踏みつぶされるものであった。
アンデッドの視点で主人公達を見てみましたが、想像以上の怪物になってしまいました。
このリッチはひょっとしたらまた再生することがあるかも知れませんが、また主人公達に踏みつぶされる未来しか見えませんね。




