閑話~アンデッド視点①~
(ここは…どこだ?)
私は周囲をキョロキョロを見渡す。所々に明かりが灯され、夜中であるというのにそれほど視界が悪いとは言えない。
(墓場…か?)
所々にある明かりの中に墓標が見える。その事から私はここが墓場であると推測する。そしてその推測は決して外れていないという確信もあった。
私は自らの手を見ると、そこには手の骨だけが見える。拳を握り、緩める。すべて自分の意思通りに動くところを見るとこの骨の手が私の体の一部である事は間違いないようだ。
(くくく…)
私の中から暗い愉悦が後から後から沸いて出てくる。
『ふははははは…ハァハッハハハハハハ!!!!』
その暗い愉悦は私の口から溢れ出すと周囲に不気味な笑い声を響かせる。
『成功したのだな…私は人間を超えた…いや、死を克服したのだ!!』
生前の私は死霊術士と呼ばれる存在であった。アンデッドを作成しては意のままに操り私に逆らう者を何人も殺した。
初めて殺したのは私の恋い焦がれた女だった。だが、その女は私ではなく他の男を選んだ。私は見ているだけしか出来なかった。仲睦まじく手を取り合う姿を見て私の中にどす黒い感情がどんどん大きくなっていくのを私は止めることは出来なかった。
いや…
元々、止める気など無かったのだ。その女の幸せを目茶苦茶にしてやろうと思った私は死霊術の修行を開始した。10年もの決して短くない時間を費やし死霊術を修めた私は、その女の家族にアンデッドを放った。
恐怖に泣きわめいた女の家族だったが、女の産んだ息子が娘の手を引いて逃げ出すのを黙って見ていた。あえて見逃したのだ。両親を失った幼子の人生の厳しさは自分もよく知っている。
引き取られた先次第で運が開けるという事はあるかもしれないが、そんな幸運が訪れるという事は通常ありえないのだ。
夫をアンデッドに殺させ、恐怖のあまり失禁するその女も殺した。殺した女を死霊術で蘇らせたがそれが女を本当の意味で蘇らせていたわけではない事にその時に気付いた。
女は体は反魂の術を行い、その女を支配しようとしたがその女の魂はすでにいなくなっており別の魂を体に入れたが、まったく言う事を聞かないために、その女の体ごと消滅させた。
それからタガが外れたかのように殺戮をくり返したが、あの時見逃した女の息子と娘が私に仇討ちに来たのだ。息子と娘は冒険者となっており親の敵である自分をずっと探していたという話だった。
戦いは熾烈を極めた…
そして私は敗れたのだ…。だが、息子と娘は私を殺す事なく官憲に引渡した。当然の事ながら私に課された刑は『死刑』だった。
刑場に引きずられていくときに周囲の者達からありとあらゆる罵詈雑言を受けた。だが、私は気にしなかった。塵芥の愚鈍なクズ共の言葉など私には何の感慨も呼び起こさなかったのだ。
なぜなら蘇ることを確信していたからだ。
私は自らに反魂の術をかけており、死後に蘇るように仕向けていたのだ。私の企みを知らない者の愚かさを嗤っていたところに、1人の青年が刑の執行前に私に話しかける。
『お前は刑が執行された後に国営墓地に葬られる。幾度蘇ろうとも…いや、蘇る度に殺されるのだ。永遠に殺され続けるがいい』
その言葉に私は怒りを込めて、その男を睨みつける。このような愚鈍な男に私の崇高な考えが見抜かれるわけが無いと高を括っていた。
『アインベルク卿…困ります』
アインベルク…その家の名前に私は覚えがあった。国営墓地の管理を一手に引き受ける家の名前がアインベルク家であった。確か当代のアインベルクの名は『ユーノス』と言ったはずだ。
処刑人が勝手に私に話しかけたその男に注意をしていた。男は処刑人に謝るとさっさと席に戻り、女の息子と娘に何事か話している。息子と娘は驚いた顔をするが、嬉しそうな表情を浮かべて男に頭を下げていた。
そして…刑が執行された。
生前の記憶が蘇ってきたことで頭がすっきりとする。
あの後、私は刑が執行され、反魂の術が発動し蘇ったというわけらしい。しかし、なぜ私の体が骨となっているのか…。
私は死んで3日以内に反魂の術により蘇るはずなのに、肉体が朽ち骨だけになったこの体から考えればかなりの年数が経ったことが推測される。
(まぁ良い…くくく、惨めな人間達よ…貴様らでまた遊んでやろう)
私の体に満ちる魔力は生前の頃など、もはや及びもつかないほど強大なものになっている。
この力があれば人間など蟻を潰すように、踏みにじる事が出来るだろう。
私は生前の死霊術を使い、瘴気の満ちるこの墓地から地獄を作り出すためにアンデッド達を生み出した。
デスナイト…
スケルトン…
問題なく死霊術は発動し、あっという間に100体を超えるアンデッドの一群が私の周囲に集まる。
『くはははははは!!!!! 人間共よ!!眠れぬ夜の再来だ!!』
私は声の限りに叫んだ。
さぁ…地獄の始まりだ!!
明日は地獄が始まります




