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隠者⑨

 アレンの剣によりエルヴィンの首は刎ね飛ばされ地面に転がった。


 ヒュン…


 アレンは、剣についたエルヴィンの血を一振りして払い落とすと鞘に収める。


「さて…」


 アレンはアディラ、レミア、フィリシアの元に歩き出す。エルヴィンが言った洗脳の件は、まったく信じていなかったので無警戒に歩き出した。


 いかにエルヴィンの実力が高いといっても三人を支配下に置く事は不可能だ。かといって三人が裏切るという事自体があり得ない事なので、向こう側にいたのは何かしら理由があるのだろうと思っていたのだ。

 ついでに言えばエルヴィンはアレン達の敵では無いために三人は向こう側にいてもアレンを裏切ったことにならないと考えたのだろう。


 アレンはアディラ達三人に声をかけようとして口を開こうとした…。


 そこで、アレンもアルフィスもフィアーネ達も予想外の事が起こったのだ。


 レミア、フィリシアがアレンに飛びかかってきたのだ。まさか二人が飛びかかってくると思ってなかったアレンは、咄嗟の事に反応できなかった。またレミアとフィリシアは一切の殺気を放っていないためにアレンも対処が遅れたのだ。


「なっ…」


 メリッサとエレナが驚愕する。レミアとフィリシアの動きはいつもの動きよりも洗練されていたのだ。いつもの動きでさえメリッサとエレナは動きを捉える事が困難を極めるのだが、今回の動きは過去のどの動きよりも洗練されていた。


 レミアとフィリシアはアレンのそれぞれ右腕と左腕を捕まえる。ちなみにレミアが右腕、フィリシアが左腕だ。アレンは二人を乱暴に引き離すことを躊躇する。その一瞬の逡巡がレミアとフィリシアにアレンの両腕の自由を奪わせることに成功したのだ。


 まぁ簡単に言えば抱きついたのだ。


 レミアとフィリシアの柔らかい感触がアレンの両腕にもたらされその事に気付いたアレンは顔を真っ赤に染める。レミアとフィリシアの様な美少女に抱きつかれて柔らかい感触を感じる事は幸せ以外の何物でもないだろう。


 そこにアディラがアレンの胸に飛び込んでくる。アディラの動きもまったく無駄がなく。一流の武人であっても到達し得ない動きに思われる。


「ぐへ…」


 アディラの口からいつもの残念な笑いが一瞬発せられた事をアレンは聞き逃さない。


「こら、三人とも何のつもりだ!!」


 アレンの当然の抗議であったが、三人は離れる気配はまったくない。それどころかさらに体を密着させてくる。


「ちょ、ちょっと三人とも何のつもりよ!!」


 フィアーネは三人の行動に抗議を行う。


「三人ばっかりずるいわ!!私だって!!」


 フィアーネは言葉の途中でアレンの元に一瞬で移動すると背後から抱きつく。アレンは今度は背中にフィアーネの柔らかい感触を感じ、さらに顔を赤くした。


「おい!!フィアーネ、お前、何で事態を悪化させてんだ!!」

「三人を引き離そうとしたら、つい躓いてアレンの背中に抱きついちゃったのよ。これは偶然よ!!他意は全くないわ!!」

「お前、さっき『私だって!!』とか言ってたろ!!」

「そんな事言ってないわよ。アレンが動揺してたから聞き間違えたのよ!!」

「んな訳あるか!!離れろ」

「嫌よ!!」

「お前、潔い良いにも程があるぞ!!」


 アレンとフィアーネの…いや、婚約者達とのぶっとんだ触れ合いに残された者達の困惑は強まる一方だった。


「王太子殿下…これは一体?」

「え?え?アディラ様?皆さん?」

「何これ? アディラもレミアもフィリシアもどうしちゃったの? …フィアーネはある意味いつも通りか…」


 メリッサ、エレナ、カタリナはそれぞれ言葉を発するが、共通しているのは『意味が分からない』という感情がその声に含まれている事だろう。


「あ……そういうことか…そりゃアディラ達もハグじゃ心が動かないよな」


 アルフィスの言葉にカタリナ達は首を傾げる。


(となると…次のあの野郎の手は…)


 アルフィスはエルヴィンの転がった死体を見る。


 エルヴィンの体が起き上がり、アレンの跳ねた頭部を掴むと小脇に抱えニヤリと嗤う。


 かなりシュールな絵面だが、エルヴィン自身は気にしていないのだろう。見ている方はかなり気になるのだが…


「ふはは、アレン坊や。婚約者達は私の支配下に入ったと言っていただろう」


 エルヴィンは首を小脇に抱えたままアレンに話し始めていた。


(支配下というよりも、手を組んだというべきだろう)


 アルフィスは心の中でエルヴィンに毒づく。どうやら今回のイタズラの最終局面らしい。果てしなくアホらしいのだが…。


「もし婚約者を正気に戻したければ、その婚約者達に口付けを与えるんだな!!そうすれば正気に戻るぞ」


 エルヴィンの顔はもう楽しくて仕方がないという感じそのものだ。


「な…」


 エルヴィンの言葉を聞いたアレンは呆気にとられる。エルヴィンの言葉を聞いた婚約者の顔を見ると三人とも目を閉じている。


「さぁ…アレン」


 目を閉じるレミア…。


「アレンさん…」


 目を閉じるフィリシア…。


「ぐへへ~アレン様、ぐへへ~♪」


 ある意味、いつも通りのアディラ…も目を閉じている。


「ふっふふ~さぁアレン♪」


 背後にいるフィアーネの顔は見えないが目を閉じているのはなんとなく感じる。


(というかフィアーネ…お前は洗脳されてない事が確定されているから…なんでお前まで口付けを迫る…というよりもしてもらえると思えるんだ?)


 フィアーネは洗脳されていないのだから、ただアレンからキスされたいだけだろう。


「え~とさ…お前達……普通に考えてみろ。俺がここでキスするわけないだろ」


 アレンの呆れた声が四人に投げ掛けられるが、四人はまったく諦めない。


「アレン様…私達は隠者ハーミットに操られているんです…ぐへへ」

「アレン…体の自由がきかないの…助けて」

「アレンさん…私達も残念ながらこの命令に抗うことが出来ないんです」

「アレン!!さぁキスしましょ!!」


 アディラ、レミア、フィリシアは、まだキスを迫るのは仕方ないという体裁を取ってはいるがフィアーネに至っては完全に欲望を満たそうとしているだけだ。


「アレン…俺達は向こうを向いておくから婚約者達にキスをして洗脳を解いてやれ」


 アルフィスが『くくく』と笑いを噛み殺しながらアレンに言う。アルフィスはそう言うとカタリナ、メリッサ、エレナに手で後ろを向くように指示すると指示を受けた三人は呆れながら後ろを向く。


「わかった。わかった。キスするから、四人とも離れてくれ」


 アレンはもはや諦めると四人に離れるように言った。


 四人はアレンの言葉に従い一列に並ぶ。アレンから見て右側からフィリシア、レミア、アディラ、フィアーネの順に並んでいる。4人とも期待に満ちた表情をしている。


 アレンはフィリシアを抱きしめると『額』に口付けする。抱きしめられたフィリシアは喜びの表情を浮かべ、その後に額に口付けされた事に不満の表情に変わり、アレンに何事か囁かれると、またもや嬉しそうな表情に変わる。


 次いでレミアにも同じように抱きしめ、『額』に口付けし、耳元で囁く。レミアもフィリシア同様、最終的には幸せそうな表情になった。


 アディラは抱きしめた段階で「ぐへへ」と笑い、『額』に口付けしても「ぐへへ」と笑い、最後に耳元で囁いても「ぐへへ」と笑っていた。すべてにおいて満足そうに笑うアディラにとって満足な出来事であったと言えた。


 フィアーネは「にへら~」と頬が緩み、『額』に口付けするとさらに「にへら~」となり、最後に耳元で囁くともはや緩みきった笑顔になった。まぁどんなに緩みきっても見る者は見とれる者が多いことだろう。何だかんだ言っても美人は得である。


 アレンはこうして何とか婚約者達を納得させたのだ。



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