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隠者⑦

 隠者ハーミットのエルヴィンの発した言葉にアレン、アルフィス以外の者達の顔が凍る。


「アディラ様…」

「そ、そん…な…」


 アディラの侍女であるメリッサとエレナの口から絞り出すような声が発せられる。


「二人とも安心してください。あれは隠者ハーミットの嘘です」


 エルヴィン達を見て発したアレンの言葉にアルフィスも頷く。だが当然ながらフィアーネ、カタリナ、メリッサ、エレナは信じられないという表情を浮かべた。


「ア、アインベルク卿…どういうことです?」


 メリッサの表情に少しばかり生色が戻る。アレンの言葉とアルフィスの態度に希望を見いだしたのだろう。


「ああ、あの三人は洗脳も支配下にも入っていない」


 アレンの言葉にエルヴィンは目を細める。


「ほう…アレン坊やは自信たっぷりに言っているがその根拠は?」


 エルヴィンはきわめて冷静に言う。エルヴィンの言葉を聞いてアレンは自分の考えが正しかったと確信する。


「お前の今の返答で確信した…。お前はやはりその三人を支配下に置いていない」

「ああ、俺もお前の今の言葉で嘘だと確信した。となると問題は…どうして三人がそちらについているかという事だな…」


 アレンとアルフィスはもはや支配下に入ってないことは規定事項のように、話を進めている。


「俺はアレンがらみだと思うな」


 アルフィスの言葉にアレンは苦笑する。


「……だよな」

「それ以外にアディラ達があっちにつく理由がないだろ」

「その条件がわからないんだよな…」


 二人の会話にフィアーネが割り込む。


「ちょっと二人ともそこまで自信たっぷりなのは良いけど、違った場合は三人が危険よ」

「いや、フィアーネ嬢の心配は杞憂ってやつだ。あの三人は間違いなく自分の意思で向こうにいる」

「でも三人がアレンを裏切るなんてありえないわ」


 フィアーネの言葉にカタリナ、メリッサ、エレナが頷く。アディラ、レミア、フィリシアがアレンを裏切る事はあり得ないと日頃の態度から確信している。アレンを裏切るくらいなら一国を滅ぼしたという話の方がよほど信憑性があるというものだ。


「ああ、あの三人はアレンを裏切っちゃいない」


 アルフィスの言葉にフィアーネ達はさらに困惑を深める。アレンは苦笑しているところを見るとアルフィスの言葉を肯定しているという事なのだろう。


「お~い、アディラ…さっさとその野郎をふん縛れ!!そうすればアレンがハグをするように王太子の名前で命令させるぞ」


 アルフィスの言葉に全員が『は?』という表情を浮かべる。この申し出はアレンも予想外だったのだろうアレンも困惑しているようだ。


「ちょ…アルフィス…おま」


 アレンの言葉はアルフィスのさらなる声により止められる。


「もちろん、レミア嬢、フィリシア嬢もハグするように命令させるぞ」


 このアルフィスの言葉に食いついたのはフィアーネだ。


「ちょ、三人ばかりずるいわ!!私もアレンにハグされたい!!」


 フィアーネの言葉にアレンは冷たい視線を送る。その視線を感じてフィアーネは反論する。


「だって、アディラ達ばっかりハグされるなんてそんな羨ましい状況を私がなんで黙ってないといけないのよ!!」

「よし!! アレン、フィアーネ嬢もハグしろ」

「何言ってんのお前、バカなの?」


 フィアーネの言葉にアルフィスが妥協案を提示する。そこに反射的にアレンはアルフィスに素直すぎる反応をしてしまった。


「ふふふ…アレン坊や、婚約者達を取り戻したいのなら私と戦う事だな。一騎打ちだ!!」


 エルヴィンがやけに芝居掛かった風にアレンに決闘を申し込む。アレンとしては望むところだがどのような罠 (イタズラ)を仕掛けているか知れないために注意が必要だ。


「良いだろう。受けて立つ!!」


 アレンはそれでも即決し、勝負を受ける。


「ははは、それでこそ、我が友の忘れ形見だ」


 ニンマリとエルヴィンは笑う。妙に邪気のない笑いだが、この人格破綻者は普通に笑いながら人を殴れる男なので、この程度の邪気の笑いに惑わされるようではいけないのだ。


「君達は下がっていなさい」


 エルヴィンの言葉にアディラ達3人は後ろに下がる。どうやらエルヴィンは1人で戦うつもりらしい。


「う~ん…どうやらハグ以上の事をあの野郎に提示されたらしいな。アディラ達は」


 その様子を見て、アルフィスはさも当然という風に言う。アルフィスは完全にアディラ達が全然、支配下に入っているとは思っていない。完全に演技と思っているのだ。


「アレン…恐らく…」

「わかってる…」


 アレンはアルフィスの言葉を遮りエルヴィンを睨みつける。完全に茶番と思っているが、エルヴィンとの勝負はそれはそれで楽しみだったのだ。


「そっか…じゃあ、あの野郎の茶番に乗ってやるか」


 アルフィスはそういうとカタリナに視線を移す。


「カタリナ嬢、すまないが結構激しい戦いになると思うから防御陣を形成しておいてくれないかい?」


 アルフィスの言葉にカタリナ頷くと箒の柄で地面を叩き魔法陣を発生させる。


「アディラ達は?」


 カタリナの言葉にアルフィスは困った表情を浮かべる。一応現在は向こうの陣営なのだから防御陣を張るのは違う気がする。


「おい」


 アルフィスがエルヴィンに声をかける。


「なんだい?これからが良いところ何だからアルフィス坊やも邪魔するのは野暮だぞ」


 エルヴィンの言葉をアルフィスはサラリと無視して要望を出す。


「そんなん良いから、アディラ達に防御陣を形成しておけ、アレンが気になるだろうが」


 実際の所、アディラ達を気にすることはアレンは無い。正直な所、アレンは婚約者の技量について高く評価していたために余波に巻き込まれケガをするなどということはあり得ないと思っていたのだ。


「まったく…親父に似てきたな…君も」


 エルヴィンはぶつぶつ言いながら人差し指をアディラ達に向けると術を展開する。するとアディラ達3人の周りに防御陣が形成される。


「ほら、これで文句ないだろう?」


 エルヴィンはそう言うとアレンに向き合う。


「じゃあ、やろうかアレン坊や」


 エルヴィンはニヤリと嗤った。



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