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隠者④

 仁義なき戦いがこの国営墓地で始まった。


 アレン達が放ったアンデッド達は間違いなく一つの砦、いや城を落とすことも可能な戦力だ。これほどの戦力をこの国営墓地でただ一人の魔術師のために放ったのだ。


 だが、アレンもアルフィスもこのアンデッド達では、目的の隠者ハーミットに擦り傷すら負わせることは出来ない事を知っている。その意味ではスケルトンもデスナイトもリッチも大差ない、だがにも関わらずデスナイト、リッチを召喚したのはアレン達が到着するまで足止めさせるのが目的なのだ。


「とりあえず墓地の中心地に行こう」


 アレンの言葉に全員が頷く。どこに隠者ハーミットがいたとしても中心から移動するのが一番効率が良いのだ。


「そうだな、みんなどんなイタ…じゃなく罠が仕掛けてあるか分からないから気を付けてくれ」


 アルフィスの言葉も何かしら実感がこもっている。アルフィスの言葉にこれまた全員が頷くと一行は移動を開始する。


「アレン」


 走り始めてすぐにアルフィスはアレンに声をかける。その声色は警戒をはらんでいる。


「なんだ?」

「このまま墓地の真ん中に行って大丈夫か?」


 アルフィスの問いかけにアレンは迷う。アルフィスの心配はアレンの危惧している事だ。すなわち隠者ハーミットがアレン達の行動を読み、そこに罠を仕掛ける可能性は十二分にあるのだ。


「確かに心配はある。だが、それならそれで逆手に取ろうじゃないか」

「どういうことだ?」

「わざと罠を発動させそれを躱すことで奴の準備を無駄にしてやり嘲ってやろうぜ」

「なるほど」


 アレンの言葉にアルフィスはニヤリと嗤う。アレンもアルフィスも隠者ハーミットが自分達を監視していると言う事を察していた。だがそれは魔術の気配がするとか、見られているとかの気配を察していると言うことではない。もし、そのような気配があるのなら、他の者達もそれを察していることだろう。


 だが、アレンとアルフィスは知っていたのだ。何らかの方法で今のアレン達の行動を察し、ほくそ笑んでいることを…。


 それ故にアレン達は腹立たしくて仕方が無いのだが…。


 一方、アレンとアルフィスの会話を聞いている女性陣は顔を見合わせる。ここまでアレン達が小さな報復しか出来ない現状に驚いているのだ。「少々気にしすぎじゃないかな?」と考え始めた時にそれは起こる。


 カチッ…


 レミアが足下で何かしら踏んでしまい。立ち止まり周囲に気を配る…。


 立ち止まったレミアに全員が訝しがる。


「どうしたのレミア?」


 フィリシアが声を掛けレミアに近付く。


「今、何か踏んだのよ。カチッと音がしたわ」

「え?」

「何かしらの罠が発動したんじゃないかしら…」


 レミアの言葉にフィリシアの顔も警戒の色を強くする。その様子を見ていたアディラがレミアの元に近づく。そしてアディラの侍女二人も付き従う。


「罠の発動はなさそうよ」


 アディラの言葉にレミアもフィリシアも頷く。アレン達も周囲を見渡し警戒に当たるが何も罠の発動を感じる事は出来ない。


「そうね…大丈夫そうね」


 レミアがそう言うと全員が頷く。


「ゴメンね。さぁ行きましょう」


 レミアが声を掛けるとメリッサとエレナがアディラのために道を開く。


「「え?」」


 すると突然、レミア、フィリシア、アディラが姿を消したのだ。


「アディラ様!!!!」

「そ、そんな!!アディラ様!!どこですか!!」


 まるで煙の様に消えてしまったアディラ、フィリシア、レミアの三人に残された者達が狼狽える。いや、アレンとアルフィスは冷静だった。


「転移魔術か…」

「くそ…振り向いたのが発動条件か!!」


 アレンとアルフィスの言葉にメリッサとエレナは狼狽えた声でアレンに尋ねる。


「どういうことですか!? 転移魔術というには何の気配も発してませんでしたよ」


 メリッサの言葉にアレンは説明する。


「レミアが何か踏んだと言いましたよね」

「はい」

「そこで立ち止まりどのような罠が展開されるかを警戒しました」

「その通りです」

「しばらく経って何も起こらない事にフィリシア、アディラがレミアの近くに近付きました。そして何も起こらない事で振り返りましたね」

「はい」

「元々、魔法陣を展開し、魔力操作で気配を極限まで殺していたのでしょう。何か踏ませることで注意を逸らしていたのかもしれない。そして足の向きで発動するようにしていたのではないでしょうか」


 アレンの言葉に全員が沈黙する。魔法陣に入ったときの足の向きが反対方向に代わった時に自然に発動するようにしていたとしたら、あの三人が気付かなかったのは仕方がないだろう。魔力を極限まで殺した魔法陣に、そこに隠者ハーミットの意思が残されていないのなら知ることも躱すことはほぼ不可能だろう。


「そ、それではアディラ様は…まさか隠者ハーミットの手に?」


 エレナの顔が青くなる。


「いや…その心配はないでしょう」


 アレンの言葉にメリッサとエレナの顔が訝しがる。


「いくら隠者ハーミットといえども、あの三人が揃ってて捉えるという事は一人では不可能です」


 アレンは隠者ハーミットの実力は高いと思ってはいたが、それでもアディラ、レミア、フィリシアを相手に一人で完勝することは不可能と思っていた。


「それに、あの野郎は命に関わるようなイタズラは絶対にしませんから…」


 アレンの言葉にアルフィスも頷く。


「しかし…あの野郎は下手を売ったな」

「ああ」


 アレンの言葉にアルフィスもニヤリと嗤った。


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