隠者②
「「「「「「「隠者?」」」」」」」
アレンの言葉を聞いた女性陣達が尋ねる。
隠者は絶大な魔力と英知により人々を導く存在と思われている。その隠者が来ているというのは悪い事ではないように思える。だが、アレンとアルフィスの態度はそんな感じは一切無い。
「あの野郎について一般的な隠者のイメージを持つなよ。他の隠者の方々に失礼極まりない」
アレンの言葉に女性陣が困った表情を浮かべる。
「アレンの言うとおりだ。あいつが絡むと本当に面倒くさい事にしかならない。これは確定事項だ。一切の例外はない」
アルフィスの断言にこれまた女性陣が困惑の表情を浮かべる。
「一体、どんな方なんですか?」
アディラがおずおずと尋ねる。アレンとアルフィスがここまで難色を示す相手というのは本当に珍しいのだ。
「一言で言うと愉快犯だ」
「歪んだ快楽主義者だ」
アレンとアルフィスは間髪入れずに言う。
「え~と…散々な言い方なんだけど、そのエルヴィンという方は何をしたの?」
フィアーネが核心的な質問をする。
「ああ、元々は父上達の古い知り合いなんだ」
アレンが言葉を嫌々ながら紡ぎ出す。その口調から本当に嫌なのだという感情が伝わるのだが、それを言うと話が進まないのだから何も言わない。
「俺も最初は優しいおじさんだと思ってたんだがな…あの野郎のは演技だったんだ。信頼させてから色々なものを俺に試すようになったんだ」
アレンの言葉に何かしら不穏な単語が混ざり始める。『試す』とは何の事だろう?と女性陣の中に不安な感情が生まれている。
「おいしい飲み物を作ったと言っては『笑い薬』を混ぜた物を飲ませたり…」
「え?」
考えていた物とは違う単語に女性陣の口から呆けた声が出る。
「あの時は大変だったな…俺もアレンも5時間ぐらい笑い続けてたな」
「ああ…何か…思い出したら殺意が湧いてくるけど俺達悪くないよな?」
「当然だろ、むしろ今まで殺らなかった過去の俺達を殴りつけたい」
アレンとアルフィスの中で精神が怪しい方向に向かっているような感じを受けてしまい。女性陣の困惑は深まる一方だ。
「栄養剤と言われて飲んでみたら、効き過ぎて三徹しちゃったな…」
「その後、5日程泥のように眠ったけどな…」
アレンの言葉にアルフィスは呟きで絶妙の間で返答する。喜劇の一コマのようだがアレンとアルフィスの言葉は真面目そのものだ。それ故に笑いを生じさせるのだが。
「俺が本格的に墓地の見回りに父上と出始めた時には…わざわざアンデッドを召喚して鍛えるという名目でけしかけてきたな」
「ああ、1000体ぐらいけしかけてきたな…」
「よく生き残れたよな…」
2人の言葉を聞き隠者が2人に与えたトラウマをおもんばかり婚約者達は目線を交わす。
「で、でも、アレンも王太子殿下にそこまでの事をやって、その隠者はどうして命があるの?」
レミアがもっともな疑問を提示してきた。
アレンは当時から男爵家の跡取りだし、アルフィスに至っては王太子という次代の国王だ。そんな立場の者にそんな事をすれば普通に考えれば処刑されるのが当然だ。
「ああ…まず、あの野郎は完全に人格破綻をしているが能力はずば抜けている。戦闘力はもちろん、根回し的な事も完璧に行う」
「父上にもユーノス殿にもきちんと根回しをしている。俺達に行う事は完全に命の危険を取り除いた物ばかりだし、父上にはローエンシアの益となるものを与えてから俺達をからかうんだ」
アレンとアルフィスの言葉に全員が察した。アレンとアルフィスの言葉から、その隠者は王太子にアンデッドをけしかけてもおとがめ無しになるレベルの利益をローエンシアに与えているのだろう。
(それだけじゃないわね…たぶんお父様も楽しんでいるのね)
アディラはそう推測する。ジュラスは実は結構そういう所があるのだ。話を聞いていると随分と酷い扱いを受けたのだろうが、見方を変えればアレン達を鍛えるのに一役買ったと言えなくもない。
(アレンのお父様も良い性格をしてたのね)
フィアーネも自分の家族の事を考えて何となくアレンに同情を向けていたのだ。
「アレン、その隠者は今回、何をしに来たの?」
レミアも少し戸惑いながらアレンに尋ねる。こちらは少々、引いているようだ。
「正直、何らかの試作品が出来たのだろうな……」
アレンの口から苦々しい声がもれる。
「あの野郎…今度こそ引導を与えてやる」
アルフィスが王太子とはとても思えない言葉を吐き始めている。目も据わり始めている。逃げられないと察した以上、アルフィスは穏やかでない方向に鍛冶を切り始めたようだ。
「そ、それでは気を付けて行きましょう」
その雰囲気を感じたのだろうフィリシアが妙に明るい声で言う。
「そうだな…逃がすわけには行かないからな…」
「どうしてくれようか…」
アレンとアルフィスは完全に対処方法を隠者を斃す方向に持って行っているようだ。
アレンとアルフィスの様子に女性陣は頭を抱えている。
「とりあえず…私が最初に行くから」
フィアーネがそう言うと勢いよく墓地の扉を開けた。




