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隠者①

 新章です。よろしくお願いします。

隠者ハーミット』と呼ばれる者がいる。


 『隠者ハーミット』は隠遁する者の事であるが、大抵は高名な魔術師であったり、賢者だったりする。


 ローエンシア王国でも『隠者ハーミット』は高名な魔術師、賢者の別称として用いられる。


 絶大な魔力と英知により、迷える人々を導く者としてローエンシア王国ではわりかし好意的に捉えられている。


 だが、アレンにとって『隠者ハーミット』のとらえ方は真逆だった。一言で言えば迷惑な存在、いや、鬱陶しい存在と言った方がより正確なのかも知れない…。





「みんな…今日は墓地の見回りを止めないか?」


 国営墓地の門の前で立ち止まりアレンは振り返り同行者達に向け言い放った。


 そのアレンの言葉に全員が驚く。ちなみに全員とはフィアーネ、レミア、フィリシア、カタリナのいつものメンバーにアルフィス、アディラ、メリッサ、エレナが加わっているのだ。


「アレンがそんなことを言うなんてどうしたの?」


 フィアーネが代表してアレンに尋ねる。アレンが墓地の見回りを特別な理由がないのに休もうというのはあり得ない。


「あぁ……そういうことか…うん、みんな今夜は止めよう」


 アルフィスが事情を察したようで呟くとアレンに向かって言う。このアルフィスの反応にこれまた全員が驚く。アルフィスは飄々としたつかみ所の無い所があるのは事実であるが、自分の仕事を放り出すような事とは決してしない。


 そのアルフィスがアレンの仕事の放棄ともとれる行動を黙認するどころか推奨しているのは違和感しかなかった。アレンとアルフィスの表情も『警戒』ではなく『面倒くせえ』という表情が色濃く浮かんでいた。


「お兄様まで何を言い出すんですか」


 アディラが兄であるアルフィスを非難する。


「そうよ、アディラの言うとおりよ。あなた達、何を知ってるの?」


 カタリナもアディラの意見を支持する形でアレン、アルフィスに尋ねる。メリッサやエレナも立場上、強くは言えないのだが非難するような目を向けている。


「……来てるんだよな」


 アレンの言葉にアルフィスは頷く。その嫌そうな顔に他の者達は戸惑いを隠せない。


「はぁ……あの野郎…何でわざわざ今夜来やがったんだ? まさか俺が来ることを知ってて来たのか…? あの野郎ならありえるな…」


 アルフィスの言葉にも隠しきれない徒労感が見える。


「アディラ」


 アレンが意を決したようにアディラに声をかける。他の者達はアレンのこの言葉を聞いてから「あ、これアディラを懐柔する気だ」と察する。


「俺は今夜はみんなと一緒に少しでも一緒にいたい。今夜は屋敷でみんなまったりと凄そうじゃないか」


 あまりにもあからさまな懐柔に全員が呆れ顔だ。いや、アルフィスはアレンの言葉にうんうんと頷いている。


「アレン様…いくらなんでも、私がそんな…単純な手にひっかかる訳ありませんよ」


 アディラの言葉には「心外だ」という思いが込められていることをアレンもアルフィスも察していたが、珍しく少年2人は引かなかった。


「いいか、アディラ、今夜はアレンに甘え放題だぞ? こんな機会が一体どれだけあるというのだ? ん? フィアーネ嬢、レミア嬢、フィリシア嬢も今夜はアレンと好きなだけイチャイチャして良いぞ? カタリナ嬢も研究を進めることが出来るぞ? メリッサとエレナはアディラがアレンと仲良くするのは望むところだよな?」


 アルフィスの言葉に女性陣は訝しげな視線を向けていた。


「ぐへへ~アレン様に甘えて良い…ぐへへ」

「ふっふふ~アレンと甘い一時♪」

「くふふ。アレンに『あ~ん』としながら…きゅふふ♪」

「えへへ、アレンさんに抱きしめてもらうというのも良いですね」

「やりかけの実験が…ありね」

「嬉しそうなアディラ様を見れるのは良いですね」

「この機会にアディラ様とアインベルク侯が…きゃ~」


 女性陣の発言にアレンとアルフィスは上手くいくのかと嬉しそうに微笑む。


「…なんていうと思ってるんですか?」

 

 フィリシアが静かな声で言う。その声は非常に静かだったがアレンもアルフィスもビクリと体を震わせる。


「そんな甘言に乗るわけ無いでしょ」


 レミアは苦笑しながら言う。


「王太子殿下もそんな餌で釣るような事をしないでください」


 カタリナの声は多分に呆れの感情が含まれている。メリッサとエレナも頷く。


「わ、私もそんな事少しも信じてないわよ」


 フィアーネは力強く宣言しているが、何かを誤魔化すような不自然な声量に女性陣は微妙な視線を向けている。


「わ、わたひゅもそんな事を本気で言ったわけじゃないでしゅ」


 アディラは動揺しているのだろう噛みまくっている。これまた分かりやすい。


 アルフィスとアレンも顔を見合わせ肩を落とす。どうやら観念したらしい。いや、アルフィスだけはまだ諦めていないようだ。ややわざとらしく不自然な声を上げる。


「あ、そうだった!! 俺は大事な公務があるんだった…。いや~残念だな~それじゃあ公務があるからこれで」

「お前、自分だけ面倒ごとから逃れようとは良い度胸だな」


 去ろうとするアルフィスの手をアレンがとっさに掴むとアレンは黒すぎる嗤顔をアルフィスに向ける。


「放せ、アレン、俺は王太子だぞ!!偉いんだぞ!!お前よりも立場は上だ!!」


 アレンの嗤顔にアルフィスは顔を引きつらせながら喚き始める。


「うるさい!! 自分だけ逃げられると思ってんのか!! 恥を知れ!!恥を!!」

「恥ずかしい人生を送っておりますコノヤロー!!」


 アレンとアルフィスの見苦しすぎる言い合いに全員の目が呆れ始めている。


「2人とも止めてください。アレンさん、きちんと事情を話して貰えますか?」

「そうよ、いくら何でもおかしいわよ」

「そ、そうですよ。いくら何でもアレン様もお兄様もいつもの感じがまったく無いじゃないですか」

「アレンも王太子殿下も何にそこまで警戒してるの?」


 婚約者達の言葉にアレンとアルフィスは項垂れると、アレンが口を開く。


「あの野郎の気配がしたんだよ…」


 アレンの言葉に全員が聞き入る。


「『隠者ハーミット』のエルヴィン=ミルジオード」


 アレンの言葉にアルフィス以外の全員が首を傾げた

 


 今章はちょっと毛色が違うと思われるかもしれません。

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