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報告

「お疲れ様」


 カタリナ達一向がアインベルク邸に帰還した時にアレン達の第一声がそれだった。


 アレン達の労いの言葉にカタリナ、ジュスティス、ジェド、シアは微笑みながら挨拶を返し、『紅い風』、『黒剣』のメンバー達は若干の緊張を持って挨拶を返した。


 そのまま、ジェド、シア、『黒剣』、『紅い風』は冒険者ギルドに依頼達成を報告に向かい、カタリナとジュスティスはそのままアレン達に事の顛末を報告した。


「まずは、カタリナはエキュシアを手に入れる事が出来たようで何よりだな」


 アレンの言葉にカタリナは頷く。


「うん、思わぬ所で手に入れる事が出来たから凄く助かったわ」


 カタリナの言葉にアレン達は話を促す。どうやら土産話を楽しみにしていたらしい。


「あのね、途中でイベルの使徒のアジトを見つけてね」


 イベルの使徒という言葉にアレン達の顔が不快気に歪む。あの狂信者共の非道な行いに思い至ったからであろう。


「うん…そのイベルの使徒共はアレン達の想像通り、かなり酷い事をしててね。その報いをくれてやったのよ」


 カタリナは多くを語らないがイベルの使徒という狂信者達に不幸が訪れたとの事なので大変喜ばしいことだった。あの連中はとことん地獄を味わって欲しいという思いをアレン達は持っていたのだ。


「まぁ、報いをくれたのはジュスティスさんよ」


 カタリナの言葉にジュスティスはニヤリと嗤う。


「お兄様が役に立つなんて…」


 フィアーネがやや驚いたように言う。フィアーネの中ではジュスティスは肝心な所が抜けている残念公子という位置づけなのだ。


「あのな…フィアーネ、お前もう少し兄を信じてくれても良いんじゃないか?」

「逆方向に信じてるから安心してお兄様」

「それって俺が失敗する事を信じてるって事じゃないか」

「もう、お兄様ったら、カタリナの話の途中で割り込まないでください」


 放っておくとどこまでも脱線しそうだったので、アレンはフィアーネの頭をはたく。ペシッという音が響き、フィアーネが頭を抱える。


「何するのよ。過激な愛情表現は控えてよ」

「はいはい…ゴメンゴメン」

「む~」


 フィアーネの抗議をアレンはサラリと流す。この辺りのやり取りは婚約者となった今でも変わらない。いや、婚約者になってからこのやり取りに甘い雰囲気が混ざっているようになっている。


「フィアーネ、話がずれてるからジュスティスさんにじゃれるのは後にしろ」


 アレンの言葉にフィアーネはわずかに頬を赤くする。アレンの言葉は完全に図星だ他のだ。なんだかんだ言ってもフィアーネとジュスティスは兄妹の仲は悪くない。いや、むしろ良好と言えるだろう。


「カタリナ、話の腰を折って済まない。続けてくれ」


 アレンはカタリナに話を促す。


「う、うん。そこでイベルの使徒のアジトにエキュシアがあったのよ」

「へぇ~じゃあ、イベルの使徒というクズを潰したらエキュシアを手に入れたというわけか。一石二鳥ってやつね♪」


 カタリナの言葉にレミアが嬉しそうに言う。


「それどころかイベルの使徒の残した資料も手に入ったし一石三鳥といえるわね」

「それは幸運でしたね」


 フィリシアもカタリナに言葉をかける。


「えへへ~何とその資料の中には私の研究に役立つものもあったのよ♪」


 カタリナの嬉しそうな声にアレン達は微笑みを向ける。カタリナはアディラ以外のアレン達にとって妹的な存在になりつつあったのだ。そしてアディラにとっては友人ポジションだ。


「なるほど、今回の採集はカタリナにとってかなりの収穫があったと言うわけだな」


 アレンの言葉にカタリナは満面の笑みで頷く。


「では、ジュスティスさんはどうだったんですか?」


 アレンは次にジュスティスに向かって尋ねる。ジュスティスがカタリナ達に同行してエルゲナー森林地帯に行ったのは、ダンジョン作成に役立つものを見つけるためであったのだ。


「ふふふ…良く聞いてくれたねアレン君!!」


 ジュスティスは立ち上がりドヤ顔をアレン達に向ける。将来の義理の兄だが、このドヤ顔はうざいと反射的にアレンは思ってしまった。だが、それを表面上に出す程、アレンは未熟ではない。ジュスティスは趣味のダンジョン作りさえ絡まなければ本当に優秀で頼りがいがある好青年なのだ。


「え、ええ…お聞かせ願いますか」


 若干、面倒くさいと思いつつアレンはジュスティスに尋ねる。


「実はね。蜘蛛人アラクネ達が私の配下に加わってくれたんだ」

「え?」

「は?」

蜘蛛人アラクネ…が?…え…達?」

「嘘ですよね?」


 ジュスティスの蜘蛛人アラクネが配下に入ったという言葉を受けてアレン達は全員が呆けた声を出す。


 蜘蛛人アラクネは、その気位の高さから他の種族に膝を屈すると言う事は無いというのが常識だった。しかも、ジュスティスは『達』という表現を使った。これは複数の蜘蛛人アラクネを配下に加えたという事を意味する。


 アレン達の言葉にジュスティスは満面の笑みを浮かべる。


(なるほど…蜘蛛人アラクネを配下に加える事が出来たというのならこのドヤ顔も納得だ)


 アレンがそう思っていたところにフィアーネが声をかける。


「やったじゃないですか!!お兄様、すごいです!!」


 フィアーネがやや上ずった声でジュスティスの偉業を称える。


「ふふふ~妹よ、兄の偉大さにやっと気付いたか!!」


 ジュスティスもかなり嬉しいのだろう。得意気だ。


「いや~今回のエルゲナーは本当に得るものが多かったよ。イベルの使徒の本拠地も分かったしね」


 ジュスティスの言葉にアレン達は驚く。


「え、あいつらの本拠地が分かったんですか!?」


 アレンの言葉にジュスティスは頷く。


「ああ、エジンベートにエルザームという所があるんだが、そこに本拠地はあるという話だ」

「エルザームに!?」


 ジュスティスの言葉にフィアーネがいきり立つ。


「ああ、幸いエルザームはジャスベイン家の領地だ。おかげですぐに全滅させることが出来る」


 ジュスティスが嗤う。その嗤顔は好青年のものではなく凄まじい獰猛な獣を思わせる。


「お兄様、私も参加させてくれませんか?」


 フィアーネの言葉にジュスティスは首を横に振る。


「フィアーネ…お前はアレン君達を助けるのが役目じゃないのか? ジャスベイン領の事は私の領分だ。その事の区別は付けなければならない」


 ジュスティスは静かに言う。その言葉はアレン達に異議を唱えることの出来ない威厳のようなものを感じさせる。


「…わかりました」


 フィアーネもその事を察したのだろう。おとなしく従う。


「それでは近いうちにイベルの使徒は本拠地を失うというわけだな」


 アレンがもはや決定事項のように言う。


「そうだね。あ、そうそう。私の配下となった蜘蛛人アラクネ達だけど、アレン君達の配下の亜人種達と喧嘩しないように言い含めてあるからそのままエルゲナー森林地帯に残してあるけど大丈夫だよね?」

「はい、勿論です」

「今、蜘蛛人アラクネ達の巣とイベルの使徒のアジトとアレン君達の配下の者達との集落を結びつけようとしているんだ。事後承諾になっちゃったけど大丈夫かな?一応カタリナちゃんに確認はとったけど…」


 ジュスティスは申し訳なさそうにアレンに言う。


「ええ、別に構いませんよ」


 アレンは快諾する。むしろ、拠点が森林地帯の中に出来た事は喜ばしいことだ。アレンにとって利益こそあれ不利益は感じられない。


「それから最後なんだけど、エルゲナー森林地帯にはやっかいな相手がいる」


 ジュスティスの言葉にアレン達は顔を見合わせる。


「実は妙な死体を見つけてね。妙なのはその死体の傷口だ。ゴブリンの死体だったんだけど服の部分の切り口は鈍いのに、その下の肉体の切り口は鋭いものだった。これが逆なら別に不思議じゃないんだが…」


 ジュスティスの言葉にアレン達は顔を見合わせる。


「魔剣ですかね?」

「かも知れないね。いずれにせよエルゲナー森林地帯はまだまだ人の手が入ってないから、どんな輩がいるかわからないから一応報告しとくね」

「ありがとうございます」


 ジュスティスにアレンは礼を言う。


「さて、それじゃあそろそろお暇するとするか…フィアーネはどうする?アレン君の部屋に泊まるのかい?」


 ジュスティスの際どいジョークにアレンは顔を真っ赤にする。


「ジュ、ジュスティスさん!! 俺は結婚までは婚約者に手を出しませんよ」


 アレンの反論にフィアーネは別の反応を示す。


「ふっふふ~♪ 甘いわねお兄様!!」


 フィアーネの言葉に全員の目がフィアーネに集まる。カタリナはフィアーネだけでなくアレン、レミア、フィリシアにも視線を移し、頬を染めている。フィアーネの言葉からどのような考えをカタリナが思ったかは明らかだ。


「私とアレンはもはや魂が結びついているのよ!! ふっふふ~♪もはや体の結びつきなどという段階はもうとっくに超えてるのよ!!」


 フィアーネの意味の分からない宣言に全員がフィアーネを可哀想な表情で見つめる。


「な、なによ? みんな…その生暖かい目は…」


 フィアーネは全員の自分を見る目の生暖かさに気付き狼狽えた声を上げる。


「…アレン君、みんな、すまなかったね…私がつまらない冗談を言ったばかりに…済まなかったなフィアーネ…こんな大ケガをするとは思わなかった…」

「いえ…良いんです。ジュスティスさんのせいじゃありませんよ」

「そ、そうですよ、これは事故なんです…」

「フィアーネ…まさか、こんな大ケガするなんて思わなかったんです。許して…」

「み、みんな、それ以上はフィアーネが流石に…」


 全員の発する痛々しい空気にフィアーネは頬を膨らませる。


「ムキ~!!何よみんなして!!アレンまで酷いわ~!!わ~ん!!」


 フィアーネが目を両手で覆い明らかな泣き真似をする。全員が「え~」という顔をしてるが、フィアーネは泣き真似を止める気配が全くない。時々、アレンの方をチラッと見るのが果てしなくうざかった。


 だが、いかにうざくともフィアーネをからかったのだから、そうそう無下にも出来ない。


 全員の視線がアレンに注がれる。


 その視線は「早く何とかしろ」と訴えていた。アレンはその視線の意味を把握していたので、恐る恐るフィアーネに近付くとフィアーネを思い切り抱きしめると耳元で「ゴメン、フィアーネ」と呟く。アレンはやるときにはやる男なのである。


 アレンに抱きしめられたフィアーネは驚愕し、アレンに抱きしめられている事に気付くと真っ赤に頬を染め、最後は『にへら~』と惚けてしまった。


「ふっふふ~♪ アレンのハグに免じて許してあげるわ」


 真っ赤な顔をしてフィアーネは復活する。その様を見て全員が苦笑を浮かべた。


「それじゃあ…帰るとするか」

「あ、お兄様、それじゃあ私も帰ります」


 ジュスティスの言葉にフィアーネも同意するとジュスティスは転移魔術を展開させると「それじゃあ」と一言かけて転移する。


 あとに残ったレミアとフィリシアはアレンの側によると「私達にもハグを」と迫った。


 その様子を見てカタリナはそっと部屋を出て行く。


「私も恋人欲しいな…」


 アインベルク邸の廊下を歩きながらカタリナは独り身の寂しさを嘆いた。


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