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脅迫②

「トルトの首を持ってこい…そうすればベルゼイン帝国は見逃してやる」


 ジュラスの言葉にオルディは顔を凍らせた。人間を見下しているオルディにとってこのような言葉を人間から投げかけられると思っていなかったのだ。


「聞こえなかったのか? トルトの首一つでベルゼイン帝国は見逃してやろうと言っているのだ。頭の悪い第三皇子の首一つで許してやろうという私の寛大な取りなしだぞ。感涙にむせび泣け虫が」


 ジュラスは国王としての威厳ある態度ではない。まるで猛獣の威嚇のような刺々しい殺意を放つ。


「お前達は下がっていろ」


 ジュラスは近衛騎士達に一声かけると立ち上がる。


「「「「はっ!!」」」」


 四人の近衛騎士達は国王の言葉に黙って従う。本来の彼らの役目を考えるとこの行動は明らかにおかしいのだが、ジュラスの発する怒気が近衛騎士達から反対という選択肢を奪った。


「このクズは誰に何を言っているか分かってないのだろうが…それでも度が過ぎる」


 ジュラスの声には明確な怒りがある。


 そう、ジュラスは怒っていたのだ。自分をアレンの命を犠牲にして安寧を買うような男と思う最大限の侮辱を受けた事に対してだ。


「最後の警告だ…トルトの首を持ってこい」


 ジュラスは念押しするがまったく期待していない。オルディはやっとジュラスの言葉の意味を理解したのだろう。怒りのために顔が歪む。


「貴様!!人間如きがトルト様の首だと!!」


 オルディが手刀を作る。するとオルディの爪が50㎝程の長さに伸びた。オルディの両手の伸びた爪はまるで刃の様に研ぎ澄まされている。


「貴様の首をもぎ取り城門に捧げてくれるわ!!」


 オルディはそう言うとジュラスへの間合いを詰めようと一歩目を踏み出す。


 だが…。


 オルディはその一歩目を踏み込むことは出来ない。オルディが踏み込もうとした瞬間にジュラスが先に踏み込み、拳を顔面にめり込ませたからだ。


 まるで転移魔術によりオルディの眼前に現れたかのようであったが、ジュラスは純粋な体術によりオルディとの間合いを詰めたのだ。


 ジュラスの拳をまともに受けたオルディは背後の壁に激しく激突する。執務室の壁は特殊な防御陣により覆っており壁を破壊することは困難を極める。並の魔術師ならば100人がかりでも破壊することは出来ないだろう。


 ジュラスならばその気になれば破壊も容易なのだが、そんな力でオルディを殴りつければ間違いなくオルディは一発で肉片と化してしまう。そのためにジュラスは手加減したのだ。


 まぁ手加減したとは言ってもそれはジュラス基準でありオルディ基準では致命傷の一歩手前という一撃だったのだが。


 倒れ込むオルディの右手の甲をジュラスは容赦なく踏みつける。


 ビキィ…


 乾いた音がオルディの踏みつけられた右手から発する。どうやら骨が折れたらしい。ジュラスは右手を踏みつけ、オルディを固定すると容赦なく脇腹に強烈な蹴りを入れる。


 ドゴォォォォォ!!!!


 凄まじい打撃音が執務室に響く。近衛騎士達はその音の凄まじさに身を縮ませる。


 本来であればまたも壁に激突するところだったのだろうがジュラスに右手を固定されていたために吹き飛ぶことはなく重力に引かれて床に落下する。


 オルディはすでに意識を失っている。というよりも意識を失っていなければ凄まじい苦痛がオルディを襲っていたのだろうから意識を失ったのは一種の自己防衛と言えるのかも知れない。


「さて…さっさと終わらせるか…」


 ジュラスは意識を失ったオルディに対し瘴気を集め始める。ジュラスは拳大に集まった瘴気を意識を失ったオルディに放つ。ふよふよと瘴気の塊はオルディの元に向かい、オルディの体に触れた瞬間に形が壊れオルディを覆う。


 まるでスライムが獲物を吸収するように瘴気がオルディを覆っていく。オルディを覆った瘴気は少しずつオルディの中に入っていく。10を数える間に瘴気はオルディの中にすべて吸収される。


「へ、陛下…これは?」


 近衛騎士の一人がジュラスに恐る恐る尋ねる。


「ああ、私の伝言をこの者に伝えてもらおうと思ってな」


 ジュラスの言葉に近衛騎士達は顔を青くする。ジュラスの言葉は額面通りならこの魔族を放免するという事を意味していた。だが、近衛騎士達は誰もそれを無罪放免、おとがめ無しという意味でない事は明白だった。


「アガン、治癒術師を呼べ」


 ジュラス王の言葉に声を掛けられた近衛騎士は一礼すると治癒術師を呼びに退出する。


 この後、治癒術をかけられ意識を取り戻したオルディはなおも襲いかかろうとしたが、自分の体がまったく自由に動けないことに驚愕する事になる。


 その後、ジュラスに伝言を伝えろとだけ言われ放免されたのだ。







 ベルゼイン帝国に転移魔術により帰還したオルディは青い顔をしたまま、ベルゼイン帝国第三皇子であるトルトの元に出仕し事の顛末を伝えることになった。


「おお、オルディ…首尾はどうだ?」


 ベルゼイン帝国第三皇子トルトはさっそくオルディに尋ねる。


 イグノール=リオニクスを斃したというローエンシアの墓守を人間の手で殺させる。それが最も手っ取り早いと考えたトルトは、さっそく動いたのだ。


 問われたオルディは沈黙したままだ。トルトの周囲に控える騎士達がオルディの行動を訝しむ。


「で、殿下…」


 オルディは絞り出すような声を出す。


「?」


 ただ事でないオルディの様子にトルトは訝しむ。


「がっ!!がぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁっぁぁああっぁぁぁぁ!!!!!」


 オルディは突然苦しみ出す。その様子にトルトや他の騎士達は驚愕する。


「オルディ!!」

「オルディ殿!!」


 周囲の騎士達がオルディの元に駆け出す。するとオルディ自身が手を掲げ騎士達を制止する。


「はぁ…はぁ…で、殿下…ローエン…シアに…手を出してはなりませ…」


 オルディが途切れ途切れにトルトへ伝える。


「何?」


 トルトはオルディの言葉に不快感を刺激され声が尖る。


「お、お願いで……ございます…このオル…ディのさ…」


 オルディが途切れ途切れの声をなんとか紡ぎ出したところで突然、オルディの声が変わる。オルディの口から発せられる声は知らない男の声だ。


『余はジュラス=ローエン、ローエンシア王国の国王である。この魔族が余に与えた侮辱は言葉では表すことは出来ない。魔族すべてがこの品性の欠片もない者達でない事を祈るばかりだ。トルトよ…おとなしく首を差し出せ。さすれば他の魔族は見逃してやろう。トルトよ、今回の件を貴様の命一つで水に流してやる。もし断ると言うのならすべての魔族はこのような無残な命の終焉をあたえてやろう』


 オルディから発せられる声が止まると同時にオルディの体は痙攣を始める。


 余程の苦痛なのだろう。オルディの目から涙がこぼれる。オルディの顔の皮膚が裂け始める。トルトも周囲の騎士達もその様を呆然と眺めている。


 裂けた皮膚から瘴気があふれ出す。


 ゴトリ…


 オルディの左腕が床に落ちる。次は右足…が切り離されオルディは床に倒れ込む。それからすぐに頭も細切れになりオルディは無残な屍をトルトの前にさらした。


 オルディの死にトルト達は呆然としていた。



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