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採集㉔

「御方!!」


 ジュスティスがカタリナ達と合流し情報を交換していたところにアムリが声を掛けてきた。


 アムリは一体だけで来たのではなくイベルの使徒の捕虜を連れていた。その事にジュスティス達は気付き、アムリに言葉を促す。


「この者の持っている情報にいくつかお伝えするべきという者がございまして連れてきました」


 アムリは深々と頭を下げる。


 アムリの言葉を聞いたジュスティスはジロリと男を睨みつける。その視線に一切の情はない。カタリナ達も当然ながら視線に好意的な者は一切含まれていない。その事を察し、男はぶるりと体を震わせる。


「命があると言うことはお前は降伏したのだな。降伏した以上、お前は俺達の言うことに黙って従う……そうだな?」


 ジュスティスの言葉に男は何度も頷く。どう考えてもジュスティス達に逆らうのは無謀という言葉では足りないほどの愚かな行為だった。


「そうか…だが、嘘をついたとこちらが判断した瞬間に俺はお前を殺す。嘘をつくなら上手い嘘をつけよ?」


 ジュスティスの言葉に男は心臓を握りつぶされたかのような錯覚を覚えた程である。男は先程、礼拝堂にいたためにジュスティスの容赦の無さを思い知っており逆らうなど微塵も思ってはいない。


 だが、ジュスティスは男の顔を覚えていなかったので牽制したのだ。


「アムリ、この男はどのような有益な情報を持っている?」


 ジュスティスの言葉にアムリは男に「おい」と促す。


「は、依代の作成には『エメルト』という鉱石が必要であり、それがこのエルゲナー森林地帯にあり、その場所を特定しております。その場所をお伝えすることが出来ます」


 男の言葉にジュスティスは興味なさげに頷く。このエルゲナー森林地帯は公的にはローエンシア王国に所属する自分の義弟おとうとのアレンの領地だ。その事を知っている以上、ジュスティスは勝手に鉱石を持っていくつもりは全くなかったのだ。


 実際に、今回もアレンに許可をもらってこのエルゲナー森林地帯に入ってきているのだ。


「まぁ、そんな事よりも…」


 ジュスティスはもう一つの疑問点を男に問い質す。


「お前達イベルの使徒はなぜ、わざわざエルゲナー森林地帯で生贄を捧げた?」


 ジュスティスの言葉に男は項垂れながら答える。


「ここには…イベル様が…かつて顕現したという教義がございます…」


 男の言葉にジュスティス達一行は黙る。


(単なる教義の問題か? それとも何かしらの根拠が教義の中に残ったというわけか?)


 ジュスティスは男の返答について思いを巡らす。教義にわざわざ残すぐらいだから、このエルゲナー森林地帯には何かあるのかも知れない…そうジュスティスは結論づける。いずれにせよイベルの使徒の教団本部を落とせばはっきりするとジュスティスは考えるとニヤリと嗤う。


 ジュスティスは次に今回の採集の目的である『エキュシア』を持っているかを確認する事にする。もしあるというのならカタリナの目的は達成したことを意味するのだ。


「お前達はエキュシアを持っているか?」


 ジュスティスの言葉に男は頷く。


「はっ!!エキュシアは倉庫にございます!!」


 男はさらに深く頭を下げる。


「そうか…カタリナちゃん、思いがけないところでエキュシアが手に入ったな」

「ええ、回り道と思ったけど結果として近道になったわね」

「そうだね。アムリ」


 エキュシアがある事を聞き、カタリナの頬が緩む。どうやらカタリナの中ではすでに実験を始めているようだ。その事に微笑みそうになるが、それを止めアムリに声をかける。


「はっ!!」


 アムリはジュスティスに再び頭を下げる。


「お前達はこれからどうする?」


 ジュスティスはアムリに尋ねる。


「ははぁ、もし許されるのであれば御方に仕えとうございます」


 アムリはジュスティスに懇願する。アムリはジュスティスに仕えることを望んでいるのはジュスティスの庇護下に入る事で蜘蛛人アラクネの安全を得ようと考えていたのだ。


「そうか…俺へ忠誠を捧げる対価として、庇護下に入るというわけか」


 ジュスティスの言葉にアムリはびくりと体を震わせる。ひょっとして不快にさせたかとアムリの背中に冷たい汗が流れる。


「良いだろう。お前達の中でそれを是としない者がいるときは遠慮無く申し出るように伝えてくれ」

「ははぁ!!」


 アムリはジュスティスの言葉を聞き安堵の息を漏らす。


「差し当たってはお前達はこの砦を仕える状態にしてもらう。アレン君には後で報告をすることにするから…良いとして…」


 ジュスティスの言葉が終わるとカタリナがアムリに声をかける。


「アムリ、他にイベルの使徒は生き残っているの?」


 カタリナの問いかけにアムリは頷く。


「はっ、30名程が生き残っているとの話です」

「そう、ジュスティスさん、お願いがあるんですけど…」


 カタリナがそう言うと、ジュスティスは柔和に微笑み答える。


「なんだい?」

「イベルの使徒の捕虜達を貰えませんか?」

「良いけど、どうするの?」

「はい、まずはこの砦を使える状態にさせます。それが終わったらこの砦の周辺の地理、地形の調査に従事させ、私達の代わりに採集をさせようと思っています」


 カタリナの言葉に男以外は全員頷いた。男にとってカタリナの言葉は使い潰されると同義だったからだ。このエルゲナー森林地帯に送り込まれたイベルの使徒の消耗率は最前線並みだった。それだけこのエルゲナー森林地帯は人間にとって厳しい場所なのだ。


「良し、善は急げという事でアムリ捕虜達を全員ここに集めてくれ」

「はっ!!」


 アムリはそう言うと蜘蛛人アラクネ達が捕まえている捕虜達を連れてくるために走って行った。


「さて、最後にお前に聞いておきたい事がある」

「は、はい」

「生きている生贄はいるか?」


 ジュスティスのこの質問に男は歯をガチガチと鳴らしながら首を横に振る。


「そうか…生贄にされた方々の恨みは俺が晴らしておいてやろう」


 ジュスティスの言葉が冷たく響く。


「それでは、今回の採集任務は見事達成と言う事で良いかな?」


 ジュスティスはカタリナに向かって言うと、カタリナは頷く。


 こうして、思ったよりも短い期間でエルゲナー森林地帯の初めての採集は終わりを告げた。


 だが、これはとっかかりに過ぎないことをカタリナ達は感じていた。

 とりあえず、これで『採集』編は終了です。


 若干、尻すぼみだと思いますがご容赦ください。次回から新章です。

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