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採集㉑

 ジュスティスの発した言葉は礼拝堂からすべての音を奪ったかのような効果を生み出す。そんな空気を破ったのは続くジュスティスの言葉であった。


「ああ、別に自発的に吐く必要はないよ」


 その言葉にイベルの使徒達の顔が凍る。ジュスティスの言葉の意味するところは要するに拷問をして口を割らせると言う事だ。


「ふ、ふざける…ひぃ」


 大声でジュスティスを怒鳴りつけようとした一人の神官が腰を抜かしてヘナヘナと座り込んだ。足下に水たまりが出来ているところを見るとどうやら失禁したようだ。神官が年甲斐もなく失禁したのはジュスティスが凄まじい殺気を放って黙らせた結果だった。


「ふざけてなどいないよ。どうやらお前達は生贄を捧げればイベルを黄泉返させることが出来ると本気で信じているアホだから期待はしていないが、もう少し賢くなる努力をすべきだと思うぞ」


 ジュスティスの言葉にイベルの使徒達は鼻白む。ジュスティスの言葉、態度すべてが気にくわないがそれを上回る圧倒的な恐怖が神官達を黙らせたのだ。


「クズ共、少しばっかり耳を澄ませてみろ」


 ジュスティスの言葉に全員が何事かと耳を澄ませる。


「ぎゃああああああ!!!」

「助けて!!食わないでくれぇぇぇ!!」

「ひぃぃぃぃ!!」

「こんな所で死ぬのは嫌だぁぁぁぁ!!」


 爆発音に混ざりイベルの使徒達の断末魔の叫びが聞こえてくる。


「お前達、イベルの使徒はここで蜘蛛人アラクネに食われて皆殺しになるぞ」


 ジュスティスの言葉に全員が沈黙する。いかに誘拐した者を生贄として捧げるような連中でも食われて死ぬのは恐ろしいらしい。全員が顔を青くしている。


「まぁ神の元にいけるんだからお前らにとっては嬉しいことだろう。引き留めたりしないから安心して蜘蛛人アラクネ達の餌となってくれ」


 ジュスティスの言葉には『お前らを助けるつもりは一切無い』と確固たる意思がある。


「まぁ、そんな事はどうでも良い。お前ら今まで不幸を撒き散らしてきたんだから最後ぐらいは役に立て」


 ジュスティスの冷たい声はこの場にいるイベルの使徒達の耳を叩く。


「ふ、ふざけるな!!なぜ我らがお前に役に立ってやら…」

「俺に協力した者は命は助けてやる」


 イベルの使徒の抗議はジュスティスの言葉によって止まる。「助けてやる」という言葉に生存の可能性を見いだしたイベルの使徒達は生色を僅かながら取り戻す。


「ああ、助けるのは一人だ。お前ら如きの助けなどは本来必要ない。お情けでクズ一匹ぐらいは助けてやろうと思っている」


 ジュスティスの言葉には露骨にイベルの使徒を蔑んだ響きがあった。だが、今のイベルの使徒達にはそんな事は関係なかった。みな周囲の出方を伺っているのだ。


 その間にも礼拝堂の外では信者達の断末魔の声が響き渡っていた。耳を覆いたくなるような悲痛な声だ。


「お前らは立派だよ」


 ジュスティスの言葉にイベルの使徒達の反応は様々だ。訝しがる者、『全員を助けてくれるのか?』という期待を持つ者等様々だった。


「信仰を守って自らを供物として捧げるわけだな。よし望み通り全員が蜘蛛人アラクネの餌になる事を選択したわけだ」


 ジュスティスはコツコツと足音を立てて責任者と思われる神官に近付いていく。イベルの使徒達はジュスティスの前に立ちふさがることはせずに慌てて道を空ける。


「な、何をするつもりだ」


 責任者と思われる神官は顔を青くしている。本能的な恐怖が絶えず警鐘を鳴らしているのだろうガタガタと震えが走っている。


「お前が知る必要はない」


 ジュスティスは冷たく言うと極自然な動作で神官の額に手を置き、わずか口元を動かす。ジュスティスが額から手を離すと神官の額に魔法陣が描かれている。神官の額にある魔法陣はすぐに消えたのだが周囲で見ていた他の神官達は確かに見ていたのだ。


「き、貴様!!オゴーズ主教に何をしたのだ」

「ぶ、無礼にも程がある」


 神官達の喚き散らす声を制したのはジュスティスが額に手を置いたオゴーズ主教だった。


「この方への無礼は止めよ!!」


 オゴーズは他の神官達を制止したことに他の神官達だけでなくオゴーズ自身も信じられないという顔をしている。


「しゅ、主教…何をおっしゃられて…」


 一人の神官の呆然とした言葉に応えたのはジュスティスだ。


「ああ、そいつは俺の術で縛られてる。俺への敵対行為はとれないようになっているんだ」


 ジュスティスの言葉に全員の顔が凍る。


「まぁ、イベルを裏切らせる事も俺の思いのままなんだよな。お前達の信仰心が本物なら俺の術を破る事が出来るだろうけど…お前の信仰心は本物か?」


 ものすごく意地の悪い顔をしてジュスティスは言う。実際の所、ジュスティスの術は相手との実力差が相当無いと掛からないのだ。ただし、一度掛かってしまえばもはや意思云々ではなく自力で解除することはほぼ不可能だった。


「あぁ、時間がもったいないから尋問を始めるぞ」

「はい」


 オゴーズの顔にはもはや絶望しかないようだ。


「オゴーズ主教!!」

「主教!!」

「これはイベル様への反逆に等しい行為ですぞ!!」


 イベルの神官達がオゴーズを責め立てる。だが、自分がかかれば責められる立場に転がり落ちることをこいつらはまったく理解していないのだ。ジュスティスはその事を思い、ますますイベルの使徒への侮蔑の念を深めていく。


 こいつらは結局の所、想像力が足りないのだ。生贄に捧げられる者の絶望の気持ちを思いやることも出来ないし、捧げられた者達がどれだけこいつらを憎んでいたかを想像することが出来ないのだ。自分の身に置き換えることの出来ない想像力貧困を極めた者達、それがイベルの使徒なのだ。


 ジュスティスが拳を振るい一番近くにいた神官を殴り飛ばす。見せつけるために相当手加減したが、それでも顎が砕け、歯と血を撒き散らして他の神官の元にぶつかり、ピクピクと痙攣をする様を見て神官達の非難の声は止まった。


「黙ってろ」


 続くジュスティスの放った声に神官達の敵愾心は朝日を浴びた霜柱のごとく消え去る。それを確認するとジュスティスはオゴーズに向かい尋問を続ける。


「お前達のこのエルゲナー森林地帯でやってた事を吐け」


 ジュスティスの言葉にオゴーズは顔を青くしながら答える。


「偉大なるイベル様をこの世に呼び出すための依代を作るためでございます」


 オゴーズの言葉にジュスティスはニヤリと嗤った。


 

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