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採集⑳

 砦の正面の門に叩きつけられたジュスティスの【爆発エクスプロージョン】は容赦なく砦の門を吹き飛ばした。


 砦には防御魔術が施されている。そこに正面の門にもさらに強力な防御魔術が施されていたのだがジュスティスの【爆発エクスプロージョン】はそんなイベルの使徒達の努力の結晶を文字通り粉砕してしまった。


 門を吹き飛ばしたジュスティスは砦に向かって歩き出す。その様子をイベルの使徒達は呆然と眺めている。先程のジュスティスの自分達への神への暴力に憤っていたのにそれを上回る力を見せつけられ以降が停止してしまったのだ。


「お、終わりだ…」


 誰かが発した声が周囲の男達の心を抉る。防御魔術が施されていたからこそ今まで蜘蛛人アラクネの攻撃に耐えることが出来たのだ。だが、その防御魔術は今男達の目前で消しとんだのだ。


「あ、諦めるな!!俺達にはイベル様のご加護がある!!その俺達があのような異教徒に敗れるわけがない!!!!」


 一人の男がそう叫び仲間を鼓舞しようとする。だが、一度折れた心を回復させるにはどう考えても時間が足りない。


「ひっ!!来るぞ!!」


 男の声に他の男達は周囲を見渡すと周囲を囲んでいた蜘蛛人アラクネ達が少しずつ向かってきているのを視界に捉える。


「み、みんな武器を取れ!!」


 男の上ずった声が響く。だが男達の動きは緩慢だ。張り詰めていた糸が切れてしまい疲労が一気に襲ってきたのだ。


 イベルの使徒達の地獄がついに始まったのだ。





 防御魔術を消しとばしたジュスティスは砦の方へ歩を進める。その動きを見て蜘蛛人アラクネ達も進撃を開始する。何体かの蜘蛛人が砦に向かって魔術を放つ。


 放った魔術は、【火球ファイヤーボール】、【魔矢マジックアロー】、【雷撃ライトニング】など様々なものだ。先程までは防御魔術により砦の塀に到達するまでに弾かれていたのだが、防御陣のなくなった事で遮るものはなくなりそのまま砦の塀に衝突する。


 防御魔術がなくなった以上、砦の壁は魔術の前にあまりにも無力である。壁の周辺にいたイベルの使徒達は蜘蛛人アラクネ達の放った魔術により多くの死傷者を出すことになった。


「ぎゃああああああああ!!!!」

「ひぃぃぃぃ!!」

「もう駄目だぁぁぁ!!」


 砦の内部は一気に混乱に叩き込まれた。もはやこの砦は自分達を守ってくれないのだ。その事に気付いたイベルの使徒達は死の恐怖に心臓を鷲づかみにされ冷静さを失った。


 死の恐怖は誰にでもある。それを乗り越えることは誰にとって容易ではない。イベルの使徒達はついに理不尽に命を奪う側から奪われる側になったのだ。その事に思い至ったのだろうが悔やむのが遅すぎたのである。


 ジュスティスは蜘蛛人アラクネの魔術が放たれ塀を破ったのを見ると駆け出す。


(もう事実上、この砦は陥落したからな。責任者が書類などを処分し始めるかも知れない)


 ジュスティスはそう考え、一気に駆け出したのだ。粉々に砕け散った門の中に入ると数人のイベルの使徒達が苦痛に呻いている。ジュスティスは苦痛に呻いている男達を無視すしながら砦の中央にある大きな建物に向かって駆け出す。


「貴様!!何者…」


 一人のイベルの使徒がジュスティスに向かって剣を抜こうとしたが、ジュスティスは一瞬で間合いを詰めると容赦なく跳び膝蹴りをイベルの使徒の顎に入れる。


 ボギャ!!


 異様な音を耳に聞き、顎の砕ける感触を膝に感じる。まともに膝蹴りを受けた男は数メートルの距離を跳び地面を転がった。


「ふん」


 ジュスティスは哀れな被害者に一瞥もくれることなく再び駆け出した。


 目指すのはこの砦の指揮官の部屋だ。ジュスティスは中央の建物の扉を容赦なく蹴りつけた。ジュスティスの凄まじい蹴りにより扉の蝶番は扉を留め置くという使命を果たすことなく弾け飛び、扉は凄まじい速度で建物の内部に蹴り込まれ内部を破壊する。その時にいくつかの悲鳴が聞こえたが、ジュスティスはまったく気にした様子もなく建物の中に入る。


 凄まじい破壊音を聞き、イベルの使徒達が集まってくる。身につけている神官服からここにいるのは高位の神官達であることをジュスティスは察した。


「な、なん…」


 ジュスティスを詰問しようとした神官は最後まで言葉を発することは出来なかった。ジュスティスが一瞬で間合いを詰めると声を上げようとした神官の顔面に拳を叩き込んだ。もちろん手加減をしたのだが神官は歯を撒き散らしながら数メートルの距離を飛び地面を転がる。

 撒き散らされた歯と血が『手加減とは何ぞや?』と抗議をあげているようだった。


「さて…クズ共、時間がないから手短に離せよ。ここで一番偉いのはどいつだ?」


 ジュスティスの言葉は容赦というものは一切無い。ただ冷徹な意思があるだけだ。


「き、きさ…」


 おそらく『貴様は何者だ』とでも聞きたかったのであろう50代半ばと思われるその神官はかつてない理不尽な暴力に晒された。


 ジュスティスはまたも一瞬で間合いを詰めると凄まじい速度でその神官の膝を蹴り砕き、叫び声を上げようとしたところに顔面を捕まれると柱に叩きつけられ一瞬で意識を失った。


「なぜ俺がお前らの質問に答えなければならない? 貴様らはただ黙って俺の質問に答えれば良いんだ」


 ジュスティスの傍若無人な言葉に神官達は怒りを覚えたがそれを表面に出すことはしない。先程の規格外の力で踏みつぶされる未来しか見えない。


「おい、お前、答えろ」


 ジュスティスの言葉に指でさされた神官は狼狽え口ごもる。するとジュスティスはほとんど瞬間移動をしたような動きで間合いを詰めると神官を殴り飛ばす。殴られた神官は吹き飛び壁に激突してそのまま動かなくなる。


「本当に仕えないクズだな。自分達の中で一番偉い奴も知らんのか」


 ジュスティスの露骨すぎる蔑みの声に全員がゴクリと喉を鳴らした。


「こ、この先の礼拝堂におります」


 40代前半の神官が震える声でジュスティスに告げる。他の神官達がその神官を睨みつける。その理由が、告げたことに対する非難の目なのか、抜け駆けをした事に対するものなのかは判断できない。


「ふん」

 

 ジュスティスは一声そう言うと、他の神官達を殴り飛ばし始める。


 バギィ!!


「げはぁ!!!」


 ドゴォ!!


「ぎゃああ!!」


 ゴギャァァァァ!!!!


「ぐはぁ!!」


 ジュスティスの容赦ない一撃は神官達にはかなり強力だったらしい。ジュスティスに居場所を告げた神官だけがジュスティスの暴力にさらされなかった。その事にほっと胸をなで下ろしたが、それもジュスティスが神官の顔面を掴んだまでだった。


「もし、そこにいなかったらその瞬間にお前の顔面を握りつぶしてあげるからな」


 優しげなジュスティスの声であるが、その内容は苛烈そのものだ。神官はここまで優しげな声で苛烈な内容を語ることが出来る事を人生で初めて知った思いだった。


 ジュスティスは神官の顔面を掴んだまま礼拝堂の扉を開ける、というよりも蹴破った。


 礼拝堂には最後の時を過ごそうという絶望に満ちた表情のイベルの使徒達がいた。蹴破って入ってきた男が蜘蛛人アラクネでなかった事から一様に安堵の表情を浮かべる。


「おお、我らを助けに来てくれたのか!!」


 祈りを捧げていたと思われる神官達の顔に喜色が満ちる。同時に礼拝堂に歓声が満ちた。


 ジュスティスはその様子を冷たく一瞥すると顔面と掴んでいた神官を離す。神官はそおまま地面に落ちると頭を打ったようで苦痛に呻いている。


 そこでようやくジュスティスが自分達を助けに来た存在でない事に気付いたようだ。


「さて、勘違いしているようだから言っておくが、俺はお前達を助けに来た者じゃない」


 ジュスティスの言葉に礼拝堂は水を打ったように静かになった。


「お前達、イベルの使徒がここで何をしてるのかを吐いてもらおうか」


 ジュスティスの冷たい声が礼拝堂に響き渡った。



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