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採集⑲

 ジュスティスは蜘蛛人アラクネ達が仕えることになったしまい頭を抱える事になったのだが、その事は後で考えようとジュスティスは当初の目的の砦を落とすことにする。


 といっても転がっている死体はイベルの使徒ばかりで蜘蛛人アラクネの死体はどこにも転がっていない。どうやら蜘蛛人アラクネは自分での治癒魔術が出来るようで負傷した場合は自分で治療できるらしい。負傷した場合に他者に治癒魔術、治療をしてもらわなければならないイベルの使徒達とでは戦死者に差が出るのは当然だった。


 また、蜘蛛人アラクネとイベルの使徒とでは戦闘力に開きがあり、蜘蛛人アラクネ一体当たりにイベルの使徒は3~40人単位でぶつかってようやく戦線を維持できるレベルらしく砦という地理的条件が加わったおかげでなんとか戦えているに過ぎないのだ。


「アムリ」


 ジュスティスは配下となった蜘蛛人アラクネのアムリに声をかける。


「はっ!!」


 声をかけられたアムリは一歩進み出て頭を下げる。まるで何年もジュスティスに仕えているような自然な動作だ。


「お前達、蜘蛛人アラクネは糸をどのように使う?」


 問われたアムリは淀みなく答える。


「はっ、蜘蛛の特性通り巣を作る、獲物を捕らえる縄代わり、罠などの使い方が一般的ですが、糸を束ね魔力を通す事で硬度を増し、むちのように使う者、糸を刃のように研ぎ澄ませ魔力を通し刃とする者もおります」

「そうか、魔力を使うと言う事は魔術で戦う者もいるというわけだな?」

「はい、オルメア、ギズフィなどは魔術が得意でございます」


 オルメアとアムリに紹介されたギズフィという蜘蛛人アラクネは一歩進み出て頭を下げる。


 実の所、ジュスティスは蜘蛛人アラクネが魔術を使う事を知っていたのだが確認のためにアムリに尋ねたのだ。転がっているイベルの使徒の死体の傷口は千差万別で、斬り殺されている者、凄まじい力により引きちぎられた者、凍り付いている者、焼き殺されている者など本当に様々だった。


「よし、魔術を得意とする者は逃げ出そうというイベルの使徒を捕まえる事に全力を注いでもらおう」

「「はっ!!」」


 オルメア、ギズフィと他の蜘蛛人アラクネが一斉に頭を下げる。


「他の蜘蛛人はちょろちょろと出てくる砦を取り囲んでくれ」

「はっ!!」

「俺が砦の正面を破る。するとイベルの使徒達は大いに動揺するだろうから、そこで一斉に蜘蛛人アラクネ達は総攻撃を開始してくれ」


 ジュスティスの言葉に蜘蛛人アラクネ達は一斉に頷く。


「今現在、奴等は破られたら終わりという思いだけが支えている。だからこそ、抵抗は激しい。抵抗が激しいと言う事はお前達の損害も大きくなる。ならばその心を折ってしまえば後は戦いにはならない」


 ジュスティスは事も無げに言うと、蜘蛛人アラクネ達はまたも一斉に頷く。


「もし、やつらが降伏した場合は受け入れるようにしてくれ」


 ジュスティスの言葉に蜘蛛人アラクネ達の顔が曇る。やはり口ではどう言おうとも人間が殺されるのには抵抗があるのだろうと捉えたのだ。


「誤解しないで欲しいのだが、別に許してやれと言っているわけじゃない」


 ジュスティスの言葉に蜘蛛人アラクネ達は首を傾げる。


「幸いあのイベルの使徒は死んでもまったくこちらの心が痛まないで済むという存在だ。だからどんな無茶で危険な事もさせることができる。その意味では蜘蛛人アラクネ達よりも貴重だ」


 ジュスティスの言葉に蜘蛛人アラクネ達は理解し、「おおぉ」という表情を浮かべる。

 ジュスティスは蜘蛛人アラクネを使い捨てにする気は無いと言う事を言語外に伝えたのだ。


「承知しました!!御方の覇道のための駒の確保をせよとおっしゃられる以上、配下として従いまする」


 オルメアがジュスティスに宣言すると蜘蛛人アラクネ達は一斉に頭を下げる。


「お、おう。頼むぞ」


 オルメアの言葉にジュスティスは動揺を隠そうとしたが上手くはいかない。微妙に声が上ずってしまった。


「それでは他の蜘蛛人アラクネ達にその旨を伝えてくれ。ああ、それからあくまでも降伏した者についてだけだ。降伏しない者は蜘蛛人アラクネの好きな風にして構わない」

「「「「「「はっ!!」」」」」」


 蜘蛛人アラクネ達は声を揃えて返事をすると一斉に散っていく。蜘蛛人アラクネ達を見送り、しばらくすると砦に群がっていた蜘蛛人アラクネ達が一定の距離をとり砦を取り囲んだ。


 どうやらアムリ達の説得に応じてくれたようだ。砦の中のイベルの使徒達は突然攻撃が止み砦をぐるりと取り囲んだ事に訝しんでいた。まぁその反応も当然だろう。落ちれば皆殺しという恐怖が砦の陥落を阻んでいたのに一息つくことが出来たのだ。そんな幸運が舞い降りるなんて信じられなかったのだろう。


(…さて、それじゃあ地獄をそろそろ味わってもらおうかな…)


 ジュスティスはイベルの使徒への砦に向かって歩き出す。


 イベルの使徒達にとって本当の地獄が始まったのだ。





「なんだ?蜘蛛達が下がっていくぞ?」

「た、助かったのか?」

「わからん」


 砦の中から絶望的な戦いを強いられていたイベルの使徒達は降って湧いたこの幸運に半ば呆然としていた。


「イベル様がご降臨されればあんな魔物如き…」

「イベル様の贄となる栄誉を与えてやろうというのに逆らいやがって!!クソ!!」

「クソ!!クソ!!こんな所で死んでたまるか!!」


 一息ついた事でイベルの使徒達は自分の境遇に不満を漏らし始める。自分達がいままでやってきた事の報いを受けているだけなのだが、男達は本気で理不尽な扱いを受けていると思っているようだった。


「おい…あれ見ろよ」


 イベルの使徒の一人が砦に向かって歩いてくる一人の男を見つけ周囲の仲間達に声をかける。


「あれ…吸血鬼ヴァンパイアじゃないのか?」


 歩いてくる銀髪の男の目が紅い事に気付いた男がそう周囲の男達に尋ねる。確かに歩いてくる男は吸血鬼ヴァンパイアの見た目そのものだ。


「ひょっとしてあいつが俺達を襲わせているんじゃないか?」


 一人の男が発した言葉を聞いた他の男達も敵意の籠もった視線を男に向ける。


 男は砦の正面の前に立つと砦にいる男達に言葉をかける。


「イベルの奴隷共!!死にたくなければ地べたに頭をこすりつけ慈悲を乞え!!そうすれば貴様らのようなクズ共に役目を与えてやろう!! イベルなどという下等な神に仕える卑しい貴様らにせめてまともな役目を与えてやる」


 男の言葉が投げ掛けられた時にイベルの使徒の反応は無かった。あまりな言い方に頭がついてこなかったのだ。やがてその意味が分かるとイベルの使徒達の忍耐力は一瞬で沸騰する。


「ふざけやがって!!!」

「なんだ!あの男は!!」

「イ、イベル様を下等な神だと!!!」


 一瞬で沸騰したイベルの使徒達の反応を見て吸血鬼ヴァンパイアの男は嗤う。もちろん吸血鬼ヴァンパイアはジュスティスだ。ジュスティスがここでイベルの使徒を挑発したのには理由がある。


 それはこちらに敵愾心を持たせそれを踏みつぶすことでイベルの使徒達の心を折る事だ。


(こんな安い挑発に乗ってくれるんだから、やっぱり頭の悪い連中だな…)


 憤るイベルの使徒達の雄叫びを聞いてジュスティスは軽蔑の度合いを強める。もちろん中には冷静なものもいるだろうが、少し煽れば反応するイベルの使徒がいるというだけで効果としては十分だった。


「じゃあ…生贄として犠牲となった方々の仇を討つか…」


 ジュスティスはそう言うと右手を掲げ魔力を集め出す。


「【爆発エクスプロージョン】!!!」


 イベルの使徒達の雄叫びはジュスティスの【爆発エクスプロージョン】の発した爆発音によりかき消えた。

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