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採集⑰

 アムリの先導に従いカタリナ一行が現場に到着した時、まだ決着はついていないようだった。


 イベルの使徒の住処はちょっとした砦のようになっており、周囲に堀が張り巡らせられており、それなりの防御力はあるようだ。だが、イベルの使徒が想定していたのはゴブリンやオークなどの亜人種らしい。


 だが、今砦を襲っているのは蜘蛛人アラクネだ。ざっと見たところ蜘蛛人アラクネの数は20かそこらだ。砦にこもり必死に戦っているイベルの使徒の数は砦の規模から3~400といった所だろう。


 言い換えれば、3~400の狂信者とも言えるし、生贄に捧げるために誘拐をくり返すクズの集まりだという事だ。それらは必死に戦っているようだが、蜘蛛人アラクネは所々で壁を崩しそうになっている。砦が落ちるのは時間の問題だろう。そしてそれはもう目前だった。


「クズ共のくせに結構頑張ってるな」


 ジュスティスの言葉には隠しきれない負の感情が含まれているのを全員が感じていた。


「助けないのか?」


 アルガントがジュスティスに尋ねるが、ジュスティスの言葉は簡潔だった。


「助けない」


 その簡潔すぎる返答に全員がジュスティスが本気で助ける気がないのを察する。アルガントにしても本気で助けようとは思っていない。

 先程のように残虐に生贄を捧げるようなイベルの使徒に対し嫌悪感、怒りがあるのは事実であり、ジュスティスの返答は当然という意識がアルガントにもあったのは事実である。


「一応、聞いておくが、あいつらがイベルの使徒でなければ助けたか?」


 アルガントの言葉に対し、ジュスティスは答える。


「もちろん、助けたさ。だがイベルの使徒と言うだけで助ける気は一切無いね。あいつらは今までそういうことをしてきたんだ。今報いを受けている。それだけのことだ」


 ジュスティスの言葉にカタリナも頷く。


「そうね。見捨てられるような事を今までしてきたんだから、あいつらはそのツケを払ってるのに過ぎないわ」


 カタリナの言葉にシアが同調する。


「カタリナの言うとおりだと思うわ。あの人達は自分の変態行為を宗教のせいにして正当化しているだけの紛れもないクズよ。そんな連中のために蜘蛛人アラクネと戦うのは絶対に嫌よ」


 カタリナの言葉にアルガントは頷く。


「いや、確かにそうだな。イベルの使徒がここで俺達に見捨てられても文句は言えないよな」


 アルガントの言葉にアムリの背に乗せられている男は暴れる。どうやら会話が丸聞こえらしい。なにかしらの抗議活動のつもりらしい。だが当然ながらカタリナ達はその抗議を無視した。


「助けるつもりはないのは分かったが、皆殺しになれば結局の所、イベルの使徒の目的が分からなくなるんじゃないか?」


 『紅い風』のメンバーのマルトがカタリナに言う。


「そうね、でもそれならそれで一向に構わないわね。責任者の持っている資料を押収すればあいつらの意図は分かるわ」


 カタリナの言葉に全員が納得したような顔をする。


「でも、そんな重要書類なら処分されるんじゃないか?」


 『紅い風』の神官戦士であるキースが疑問を呈する。


「ええ、そこでジュスティスさんにお願いがあるのよ」

「ん?」

「イベルの使徒の砦に乗り込んで、重要書類を奪って欲しいのよ」

「なんだ、そんな事かい。どんな難しい事を言われるかと思ったよ」


 ジュスティスの返答に全員が苦笑する。普通に考えれば砦の中に侵入し重要書類を奪ってくるというのは難易度が非常に高い。


「この中でジュスティスさんが一番適任なのよ。本来、私が行くべきなんだろうけど…」


 カタリナの申し訳なさそうな言葉にジュスティスはニコニコと微笑みながら返す。


「大丈夫だよ。カタリナちゃんの術なら砦ごと吹き飛ばしそうだしね。土人形ゴーレムじゃあ目的の書類を判断できないからね」


 ジュスティスの言葉に冒険者達は言葉を無くす。『砦ごと』という言葉が彼らから言葉を奪ったのだ。


「それじゃあ、行ってくることにしよう。アムリ」


 ジュスティスはアムリに声をかける。声をかけられたアムリは畏まりジュスティスに視線を移す。


「ははぁ!!何でございましょうか」

「これから、砦の中に入るから蜘蛛人アラクネに話を通してくれるか? 襲ってくれば容赦なく斃すつもりだが、それはアムリからすれば複雑だろうから頼むぞ」


 ジュスティスの言葉にアムリは首を何度も縦に振る。


「みんなはどうする?」

「私達も蜘蛛人アラクネの所にいくわ。ここにいると事情を知らない蜘蛛人アラクネが襲ってくるかも知れないしね」

「そうだね」


 カタリナとジュスティスの会話に全員が頷くと砦に向かって歩き出した。





 カタリナ一行に気付いた蜘蛛人アラクネ達はカタリナ一行に警戒する。


 数体の蜘蛛人アラクネ達はカタリナ達に向かってあからさまに敵意を向けるてきた。どうやらアムリを捕まえて脅していると捉えているのかもしれない。まぁ、あながち誤っているとはいえない。


「みんな落ち着いてくれ!!この方々は我々の敵ではない!!」


 アムリが慌てた声で蜘蛛人アラクネ達に叫ぶ。もし、蜘蛛人アラクネが攻撃しかければ確実に皆殺しになる未来しか見えない。出会って間もないがアムリはカタリナ一行についてほぼ正確に把握していた。


 この人間達は敵対者にはまったく容赦しない。かといってあちらがこちらを支配しようと動くとは思えない。基本他者への支配欲というものが感じられなかったのだ。


「どういうことだアムリ?そいつらは人間ではないか…あいつらの仲間ではないのか?」


 蜘蛛人アラクネの一体がアムリに話しかける。


(この蜘蛛人アラクネは髪が短い、あっちは三つ編み…、蜘蛛人アラクネには思った通り個性があるのね。一括りにするのは止めないといけないわ)


「誤解だ。この方達はむしろ、あそこに籠もる人間達と敵対する方々だ」


 アムリの言葉に蜘蛛人アラクネ達は顔を見合わせる。


「そ、それではその者達が私達の味方であるとは言えないのではないですか?」


 別の蜘蛛人アラクネが言葉を投げ掛ける。この蜘蛛人アラクネは他の蜘蛛人アラクネよりも随分と若い感じがする。容貌だけで見るとカタリナと同年代と言って良い。


「キアム、確かにそう言えるかも知れないが、何もこちらから敵対の道を選ぶことはないだろう」


 アムリの言葉にキアムと呼ばれた若い蜘蛛人アラクネは言葉を詰まらせる。どうやらアムリの言葉に一理あることを認めたらしい。


(この蜘蛛人アラクネは、どうやら話が通じるみたいね。話が通じるなら敵対よりも友誼を結びたいものね…そうすれば色々と教えてくれるかも知れないわね)


 カタリナは蜘蛛人アラクネについて認識を改めていた。話がまったく通じないイベルの使徒などよりもはるかに好感を持ったぐらいだ。まぁイベルの使徒とは最初から友誼を結ぼうと思っていないために比べること自体、比較対象が誤っているのだが…。


「え~とね。私達の目的は蜘蛛人アラクネじゃないわ。あなた達がこちらに敵対行動をとらない限りあなた達に敵対行為はとらないわ」


 カタリナの言葉に蜘蛛人アラクネ達は怪訝そうな顔を浮かべる。他種族の事を信用しきれないのだろう。それも当然だ。同種族ですら信用するようになるのは時間がかかるのだ。他種族ならさらに時間がかかることだろう。


「信じたくなければ、信じなくても良いわよ。それで私達と敵対するというのなら構わないわ。私達はあなた達と戦うまでよ」


 カタリナの言葉に動揺を示したのはもちろんアムリだ。カタリナの言葉が脅しではなく本気である事をアムリは察していたのだ。


「お、お待ちください!! 我ら蜘蛛人アラクネは御方達と敵対するつもりはございません!! もうしばらくお待ちください!! 必ず敵対行為をとらせませんので!!」


 アムリは顔を青くしながらカタリナに懇願する。その様子を見て蜘蛛人アラクネ達は困惑する。アムリのあまりの卑屈な態度に驚いていたのだ。


「ア、アムリ…?」

「あなた…どうして?」

「アムリさん…」

「お前達!! この方達と戦って本当に生き残れると思っているのか!!」


 蜘蛛人アラクネの困惑の声にアムリが大音量で叫ぶ。その叫びに蜘蛛人アラクネ達はビクリと体を震わせる。


「この方達がその気にならば我々などすでに死んでおるわ!! 証拠?そんなもの今我々が生きていること、それ自体が証拠だ!! その程度の事もわからんのか!!!!!」


 アムリの叫びは止まらない。あまりにも必死な形相にその場にいる者全員が呆然としていた。


「ホクラ!!ビアジト!!キアム!! そんなに私の言う事が信じられぬか!! 御方達の寛大な心により殺されていないだけだ。お前達が殺されるだけでなく、ここにいる蜘蛛人アラクネも巻き込んで殺すつもりか!!」


 あまりのアムリの剣幕に蜘蛛人アラクネ達はアムリに謝罪する。


 実際の所、アムリは蜘蛛人アラクネの中でも戦闘力が高い方なのだ。そのアムリが完全にこの人間達に怯えきっている事が蜘蛛人アラクネ達にとって衝撃だったのだ。そして、この人間達の戦闘力が蜘蛛人アラクネを完全に上回っている事の可能性に思い至ったのだ。


「馬鹿者!!私に謝罪してどうする!!御方達に謝罪せよ!!」


 アムリの言葉に蜘蛛人アラクネ達はカタリナ一行に謝罪する。


「「「も、申し訳ありませんでした!!」」」


 蜘蛛人アラクネの謝罪を受けてカタリナ達も苦笑する。元々、ここで蜘蛛人アラクネと敵対するつもりはないのだ。少々脅しつけたのは戦いを避けるためである。


「良いわよ。アムリが必死になって敵対しないようにしているんだから、こちらとしても事を荒立てるつもりはないわ」


 カタリナの言葉にアムリは胸をなで下ろしている。


「それじゃあ、話は済んだと言う事でちょっと行ってくるね」


 ジュスティスの言葉にアムリは慌てる。この場にいない他の蜘蛛人アラクネがジュスティスを襲う危険性があったのだ。もちろん危険なのはジュスティスではなく蜘蛛人アラクネの方である。


「お、お待ちください!!このまま行けば御方の事を知らない蜘蛛人アラクネ達が無礼を働くやも知れません」


 アムリは必死の形相で止める。


「心配しなくて大丈夫だよ。アムリやそちらの蜘蛛人アラクネさん達の行動から事情がわかれば敵対行動をとらない事は確認したから、蜘蛛人アラクネを殺すような事はしない。きちんと手加減するから安心してくれ」


 ジュスティスの言葉にアムリや他の蜘蛛人アラクネ達は顔を見合わせる。ジュスティスの言葉は有り難いが、もし度を過ぎた挑発を行った場合には容赦なく蜘蛛人アラクネ達を駆逐するかもしれないのだ。


「そ、それならば私も御方に付いていき、仲間達に手を出さないように忠告したいと思います」


 アムリの提案にジュスティスはすぐに了承する。


「そうだな、確かにアムリ達がついて来てくれた方が蜘蛛人アラクネとの戦いを避けれるな」


 ジュスティスの言葉にアムリは平伏する。


「それじゃあ、みんな行ってくるから少し待っててね」


 ジュスティスは一言言うとアムリを連れて砦の方に向かっていく。



 カタリナ一行は思いがけない寄り道をすることになったのだ。


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