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採集⑮

蜘蛛人アラクネ】…


 上半身は人間、下半身は蜘蛛という魔物だ。上半身の人間の形をしたものは人語を解し。コミュニケーションをとることも可能だし、魔術を使う事も当たり前のようにできるのだ。


 また、蜘蛛特有の能力である糸を精製し、その糸を使って巣を作ったり、罠を作ったりすることも可能だ。『暴食の蜘蛛(グラトニースパイダー)』に魔術師が同居していると言えば良いのかもしれない。


「た、助けてくれ!!!!」


 必死に逃げる男の視線に、カタリナ達一行が目に入り、生存の可能性を見いだした男はカタリナ達一行に向かってきていた。


「あ、あれ、間違いなくイベルの使徒だね」


 ジュスティスの言葉に隠しきれない嫌悪感が滲んだ。ジュスティスが男をイベルの使徒と断じた理由は男の服装である。男が身につけているのはイベルの使徒の神官服であり、その胸には、でかでかとイベルの使徒の紋章が刺繍されていたのだ。カタリナ達は男がイベルの使徒に誘拐されてきた生贄にされそうなであれば助けるつもりであったが、イベルの使徒なら助ける理由はない。


「はい。撤収」


 カタリナの言葉に全員が踵を返す。その様子に男は慌てて声をかける。


「ま、待ってくれ!!!!見捨てないでくれ!!」


 男の言葉に心を動かされるような者はカタリナ一行にはいなかった。先程の残虐な行為の跡を見れば助ける気が起きないのも仕方がなかった。


「ひっ!! うわぁぁぁぁぁぁ!! 頼む食べないでくれ!!!!!」


 背後で男の声が命乞いに変わったところを見ると、どうやら蜘蛛人アラクネに捕まったらしい。あの蜘蛛人アラクネがこちらにちょっかいをかければ戦うのだが、イベルの使徒なんぞのために命を張るのはアホらしいという思いがカタリナにはあったのだ。


「うわぁぁぁぁぁ!! 助けてぇぇぇぇぇ!!」


 男の絶叫が響き渡るがカタリナ一行は無視して歩き出す。そこにカタリナ一行でない女の声がかけられる。


「待て!!そこの人間達!!」


 声の主は蜘蛛人アラクネだった。蜘蛛人アラクネに声をかけられた以上、カタリナ達一行も無視するのは得策ではないと思ったのだ。蜘蛛人アラクネは非常に知性の高い魔物だ。もし争うことに利あらずとなれば無意味な戦闘を避けることができるかもしれないのだ。


 せっかく相手が交渉のきっかけを作ろうというのだから、わざわざ自分から捨てる必要はない。カタリナ達一行が振り返ると下半身の蜘蛛の部分でイベルの使徒の男を糸でグルグル巻きにしているところだった。


 男は必死に体を動かそうとしているところからまだ死んではいないようだ。だが口元を糸で猿ぐつわのようにふさがれているので声が出せないようなのだ。


「何?」


 カタリナは現在この一行のリーダーのために代表して蜘蛛人アラクネに答える。だが、これから交渉を行うというのにカタリナの声はそっけない。


「お前達は私がこの人間を殺すのを止めないのか?」


 蜘蛛人アラクネの顔には露骨に蔑んだ雰囲気がある。仲間を見捨てて逃亡しようという風に蜘蛛人アラクネは思っているのかもしれない。もちろん、カタリナはその男の仲間でも何でもないし、むしろイベルの使徒を蜘蛛人アラクネが始末してくれればこちらも生成すると思っていたのだ。


 だが、蜘蛛人アラクネの言葉を聞いて捕らわれた男は縋るような目でカタリナ一行を見ていた。生贄を捧げ多くの不幸を撒き散らしているイベルの使徒がこの語に及んで助かろうという浅ましさにカタリナは怒りを覚える。


 カタリナ達がイベルの使徒を見捨てる選択をしたのは先程、踵を返す事で十分わからせたつもりであったのだが、どうやらイベルの使徒の男には伝わっていないようだ。こういう輩にははっきり言ってやらないとわからないのだろう。


「止めない!!」


 カタリナの言葉は簡潔すぎた。簡潔すぎる意思表示は誤解の温床となるのだが、この場合は誤解しようのない意思表示だったのだ。


 男はカタリナの言葉を聞いた瞬間に暴れ出す。それがカタリナへの抗議なのか、助かる見込みを失った事への最後の抵抗なのかはわからない。


「そうかい、冷たいねぇ~」


 蜘蛛人アラクネは露骨に馬鹿にした雰囲気を醸し出した。カタリナは、いや一行はその蜘蛛人アラクネから発せられる蔑みの雰囲気に気分を害する。


「ええ、私は冷たいのよ。だからもう言っていいわよね? 餌ならそのとこだけで十分でしょう?」


 カタリナの言葉に少し剣呑なものが含まれ始めている。蜘蛛人アラクネがカタリナ一行を餌と見始めていることを感じたのだ。


「ふふふ……確かに餌としては十分だけど、保存食として確保しておくのも悪くない選択じゃないのかね?」


 蜘蛛人アラクネはこちらを見ながら舌なめずりを始める。


「カタリナちゃん、この蜘蛛もう殺すよ?」


 ジュスティスの発した言葉は蜘蛛人アラクネの耳にも入ったのだろう。蜘蛛人アラクネは愉快そうに嗤う。


 だが…。


「人間如きが随分と大ぐ…ひぃ!!」


 蜘蛛人アラクネはカタリナ達に挑発を行おうと言葉を発していたのだが、その途中で露骨に怯え始める。蜘蛛人アラクネの明らかに恐怖に支配された様子はジュスティス以外の者を驚かせる。


 ジュスティスはにこやかな笑顔を浮かべながら蜘蛛人アラクネに向かって歩み始める。ジュスティが歩を進める度に蜘蛛人アラクネの震えが大きくなっている。


「心配するな…俺は優しいから、ちゃああんとトドメはさしてやるさ」


 ジュスティスの声色はどこまでも穏やかなものだが、その内容の苛烈さは蜘蛛人アラクネの恐怖を少しも和らげない。


「まったく…せっかく見逃してやろうと思ったのに…」


 そのジュスティスの言葉に蜘蛛人アラクネは心の中で何かが決壊したらしい。下半身の蜘蛛の足を折り曲げ、上半身の人間の部分を折り曲げて命乞いを始める。


「お、お許しください!!!! あなた様の寛大なお心に気付かない愚かな私をお許しください」


 蜘蛛人アラクネはガタガタと震えながら必死に弁解している。蜘蛛人アラクネの心を折るほどの威圧感をジュスティスはぶつけていたのだろう。


「いや、あとで裏切られれば面倒だし。後腐れないようにここで殺しておく」


 ジュスティスの言葉は蜘蛛人アラクネの死刑宣告だった。その死刑宣告を覆すために蜘蛛人アラクネは先程以上の熱意のこもった声でジュスティスに命乞いを行う。


「裏切るなど!!そのような事は決してございません!!このアムリ必ずやあなた様のお役に立って御覧に入れます!!!」


 アムリと名乗った蜘蛛人アラクネは生き延びるために舌を高速回転させる。


「ふむ…まぁ良いだろう。ではいくつか質問するから正直に答えろ」


 ジュスティスの言葉にアムリは頷くのであった。  

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