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採集⑭

 『駆除』というカタリナの言葉は全員に何とも言えない空気を生み出した。


 だが、ジュスティス、ジェド、シアはカタリナの言葉に忌避感を持ってはいないようだ。


 ジュスティスは、自分の妹のフィアーネを付け狙うイベルの使徒に対し、当然ながら良い感情どころか、殺意しか湧かない。実際に領内にイベルの使徒が小さなアジト作ったときにジュスティスは自ら乗り込み、イベルの使徒のアジトを叩きつぶした。全員ご丁寧に両手両足を砕かれ、肋骨も砕かれており、話を聞いた面々はジュスティスは容赦がないと思われたのだが、アレン達は息があるという事でジュスティスが細心の注意を払った事を知っていた。

 もしジュスティスがそのつもりであったらイベルの使徒は原形を留めていなかっただろう。


 ジュスティスが捕まえたイベルの使徒達は裁判にかけられ、ぐうの音も出ない程の正論と証拠を裁判官、検事に突きつけられ最後には『お前らのようなクズが生きる場所はこのエジンベートにはない!!お前らのようなクズが信仰するゲスな神の元に送ってやるから感謝しろ!!』という裁判官、検事としてはあり得ないレベルの暴言を吐き、処刑場に送られた。


 もちろんイベルの使徒達とすれば殉教の気持ちで満たされた気分だったかも知れないが、処刑する側も『貴様らのようなクズが消えて清々する』という言葉を投げつけて処刑され、怒りに打ち震えたイベルの使徒達は『神の威光を理解しない不信信者ども』に呪詛の言葉を叩きつけたが、刑が執行される直前になって恐怖のために打ち震え始めた。どうやら最後の最後になって自らの神を信じられなくなったらしい。


 そんな事があってからイベルの使徒は完全にジャスベイン家を神の敵をみなしていたが、明らかに実力の違うジャスベイン家の面々に煮え湯を飲まされ続けている。


 ジェドとシアも友人であるフィアーネを付け狙うイベルの使徒に対して好意的にはまずなれないし、それでなくても生贄のために誘拐をくり返すような犯罪者に2人はまったく容赦する気はなかったのだ。


「あなた達が誘拐した中にも生贄に捧げられた人達がいたんでしょうね」


 カタリナの吐き捨てるような言葉が刺々しい視線と供に駒の男達に向けられる。駒の男達はその視線と言葉に顔を青くする。自分の罪をまざまざと見せつけられた事とここで冒険者にバラされたことでどのような扱いを受けるか心配になったのだろう。


「どういうことだ?」


 アルガントがカタリナの言葉に反応する。当然ながら困惑の感情がその声には含まれている。


「ああ、その駒達はね。もともとジャスベイン領に流れ着いた盗賊達よ。アレン達を誘拐しようとして返り討ちに遭ったマヌケで、刑罰としてアインベルク家の奴隷として使い潰されるのよ」


 カタリナの言葉に一切の慈悲は感じられない。カタリナは自分が罪を犯しておきながら『自分はもっと可哀想だ』などと言う輩が大嫌いだったのだ。


「そうか…こいつらはそんな奴等だったのか。でもこれでゴブリン達にさえ丁寧に扱うあんたが、荷物運びの男達にはどこか冷たいのがわかったよ」


 アルガントの言葉にはカタリナを責める響きは一切無い。


「そうね。私はこいつらの扱いを変える気はないわ。死んでくれたら死んでくれても一行に構わないわ」

「しかし、荷物の運搬に支障が出るだろう?」

「誤解しないでね。私が気にしてるのは荷物であってこいつらじゃないわ。ジュスティスさんがアンデッドを召喚できるからアンデッドに運んでもらえばこいつらは別に必要ないわ」


 カタリナの言葉は駒の男達にとって死刑宣告にも等しい。もし、ここでカタリナに見放されてしまえばこのエルゲナー森林地帯で魔物の餌になるだけだ。その事がわかっているために駒の男達の動揺は大きかった。


 カタリナとすればここで、駒の男達をいたぶっても仕方がない。イベルの使徒の非道を目の当たりにした怒りの矛先が駒に向いたに過ぎない。だが、この駒の男達も人身売買で誘拐をくり返し間接的にイベルの使徒に関わった可能性もあるのだから被害者面するのは論外だろう。


「まぁ…イベルの使徒が現れれば私は容赦しないわ。生まれてきたことを後悔させてあげる」


 カタリナの言葉にジュスティスも同調する。


「あのクズ共が生きる必要はないから、イベルの元に送ってやるさ。誰を敵に回したかをそろそろ知るべきだな」


 ジュスティスの言葉は日頃の好人物からは想像もつかないような激しいものだ。冒険者達はゾクリと背筋に冷たいものが走るのを感じる。駒達はジュスティスの静かな怒りを受けて体の震えがまったく止まらないようだ。


「まぁ、2人とも落ち着いて、俺達の目的はあくまでエキュシアの採集…ジュスティスさんはダンジョンに何かしら使えるものを探すために来た…でしょう?」


 ジェドが2人に声をかける。


「そうだったわ…」

「そうだね。すまないね。ちょっと熱くなってたね」


 ジェドの言葉にカタリナとジュスティスは少し冷静さを取り戻したようだった。いや、より正確に言えば『紅い炎』が『蒼い炎』に姿を変えたに過ぎない。逆にこのような状態の方が遥かに恐ろしい。ジェドもシアもその事に気付いているが、あえて指摘しない。


「とにかく、この遺体を弔ってから出発しよう」

「そうね…せめて弔うぐらいの事はさせてもらいましょう」


 カタリナはジェドの提案を承諾すると箒でいつものように地面を突き、魔法陣を展開させると土人形ゴーレムを20体召喚すると、土人形ゴーレムに墓穴を掘らせる。その間に冒険者に吊された生贄の面々を地面に下ろしてもらう。


 カタリナ、ジェド、シア、ジュスティスは生贄の人々の死体を布に包んで墓穴に運び安置する。布はジュスティスの空間魔術によりジャスベイン家の倉庫から持ってきたものだ。


 生贄となった人々を弔うと再び出発する。





 生贄となった人々を弔って出発して2時間程たった所で一行は小休止に入った。昨日と違って今日はまだ1回も魔物に襲われていない。周囲に魔物の気配はあるのだが襲ってくる感じはないのだ。


 一行にデスナイトとリッチがいる事で二の足を踏んでいるのかも知れない。魔物達にとってもアンデッドというのは避けるべき対象なのかも知れない。もし単純に強さだけならカタリナとジュスティスのいる一行に手を出すはずもないからだ。


 休息に入ると同時にそれぞれが携帯食料を取り出し口にしていく。


「なぁ…ジェドさん…」


 アルガントが恐る恐るジェドの名を口にする。ジェドはその言葉を聞き、苦笑しながら言葉を返す。


「俺とあんたは年も変わらないから呼び捨てで構わないよ」

「そ、そうか、それじゃあジェドと呼ばせてもらうから、ジェドも俺をアルガントと呼んでくれ」

「ああ、わかったよ。それでなんだい?」

「昨夜、調査を一緒にやって欲しいって言ったろ。その事について、どんな内容なのか教えてくれないか?」

「ああ、100年ぐらいに滅んだ村でウルク村ってやつがあるんだが、そこに一つの屋敷があってな。そこに済んでいる人に話を聞きに行くというのが大まかな内容だ」

「…ん? 今一よくわかんないんだが…」

「まぁ、その屋敷の住人がひょっとしてまずい奴かもしれないから一緒についてきて欲しいってわけだ」

「なるほどな…なんか厄介な事があるというわけだな」

「ああ」


 ジェドの言葉にアルガントはニヤリと笑う。


 その様子を見ていた面々も不器用なアルガントとジェドも一つの友情が育まれていくところを微笑ましげに見つめている。そこにジュスティスが立ち上がり遠くに目を凝らすと全員に言葉をかける。


「おや? 誰かがこちらに来るな…しかも何かに追われてるな」


 ジュスティスの言葉に全員に緊張が走る。


「人間が魔物に追われていると言ったところだ。こんな所にいる人間はイベルの使徒というクズの可能性が高いな」


 ジュスティスの言葉に全員が嫌悪感を露わにする。先程の惨劇の跡を見せられれば当然の反応だろう。


「まぁ、一応は確認するとしよう。イベルの使徒の場合は俺は手を貸さないから、心の広い方はイベルの使徒とかいうクズを助けてあげてね」


 ジュスティスの言葉に全員が苦笑する。いかに心が広くてもイベルの使徒のために命を張るなんて事はしたくなかった。


「私も嫌よ。むしろそいつが魔物を引きつけてくれれば一石二鳥じゃない」


 カタリナも手を出さない方針らしい。


「俺もお断りだね。助けは奴等の神に任せようじゃないか」

「そうね。せっかくゲスな神様の奴隷となっているのだから主人が助けるべきよ」


 ジェドもシアも容赦がない。


「俺達もご免だな。あんな酷い事をするような奴等のために命を張るのは嫌だな」


 アルガントが言うと『黒剣』のメンバー達も一斉に頷く。


「もちろん、俺達もお断りだ。あんな外道をする奴等を助けるのはお断りだ」


 フィグルの言葉に『紅い風』も同様に頷く。


 完全に全会一致で追われている者がイベルの使徒であるならば見捨てることが決定した。イベルの使徒などという外道をこの状態で助けると言う事は言い換えればイベルの使徒のために命を張るという事だ。


「それじゃあ、一応確認しましょう。全員、何時魔物と戦闘になっても大丈夫のようにしましょう」


 カタリナの言葉に全員が頷くと警戒しながら進み始める。


 見ると1人の男性が必死の形相でこちらに向かってきている。背後には20代半ばの容姿の女性が男性を追いかけている。だが、追いかける女性は人間ではないのは明らかだ。その女性の下半身は体長2メートルほどの大きさの蜘蛛だ。上半身を入れれば全長3メートルにも届きそうだ。


 女性は美しい容貌をしているが目が8つあり、頭部に蝶のような触覚と思われる器官ががついている。


「『蜘蛛人(アラクネ)』か…」


 カタリナの言葉に全員が緊張を高めた。



 う~ん、我ながらグダグダしすぎの気がします…。


 いよいよこの『採集』編で目的のものが登場です。

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