採集⑫
カタリナの言葉に従い、『黒剣』の側に配置された『デスナイト』『リッチ』『土槍兵』はジュスティス側とカタリナ側に移動を開始する。
カタリナの考えでは『土騎兵』『デスナイト』『リッチ』『負の剣闘士』に殿を任せてこの場から立ち去るつもりだったのだ。
「みんな、【暴食の蜘蛛】は上から襲ってくるから十分に気を付けて!!」
カタリナの注意に全員が頷く。そこに【暴食の蜘蛛】の投じた糸が投げ込まれる。【暴食の蜘蛛】は糸の先に粘着性の糸を巻き付けそれを獲物に絡め取るという猟を行う。
ジュスティスはその投じられた糸の一本を掴むと、無造作に引っ張る。その膂力は【暴食の蜘蛛】であっても抗しきれなかったのだろう。一体の蜘蛛が地面に落下する。
ジュスティスはその蜘蛛に鎖を放つ。鎖の先には刃渡り20㎝程のナイフが付けられており空中の【暴食の蜘蛛】の腹に突き刺さり、そのまま背後の木に突き刺さった。
腹を貫かれた【暴食の蜘蛛】はしばらく痙攣していたが、やがて動かなくなる。ジュスティスは鎖を引き【暴食の蜘蛛】から引き抜くと【暴食の蜘蛛】は地面に落下した。
その【暴食の蜘蛛】の死体に【深紅の蟻】達が群がり捕食する。
「ジュスティスさん、先頭を行って!!次は『黒剣』、エキュ達はそれに続いて!!」
カタリナの声が周囲に響く。
「わかった。みんな俺についてきてくれ!!【照明】の範囲外に出ると迷う危険があるから全員、慌てて逃げちゃ駄目だよ」
ジュスティスの言葉に『黒剣』、エキュ達の声が続いた。
「「「「了解!!」」」」
『『『『『ショウチ イタシマシタ!!』』』』』
先程のジュスティスの実力を見た以上、逆らうなどと言う無意味な行為を行うはずはない。
「荷物持ちは『紅い風』と一緒に行きなさい!! ただし『紅い風』の足を引っ張る事は許さないわ!!」
カタリナは次の指示を出す。
「「「「わかった!!」」」」
「「「「「承知しました!!」」」」」
『紅い風』のメンバーに連れられ駒の男達がエキュ達の後ろをついていく。
「ジェドとシアは私と一緒に最後尾を行くわよ」
カタリナの言葉にジェドとシアも快諾する。
「わかった。とにかく急ごう。先に行ったみんなとはぐれる」
「急ぎましょう。カタリナ」
ジェドとシアの言葉を受けてカタリナは微笑むとジュスティス達を追いかける。幸い【照明】の範囲外の所でははぐれる可能性があったためにそれほど急いでいなかった。
カタリナが背後を見ると、何体もの【深紅の蟻】が【暴食の蜘蛛】の糸に釣り上げられいく。上の方を見ると【暴食の蜘蛛】に釣り上げられた【深紅の蟻】が蜘蛛糸にぐるぐる巻きにされている。
【深紅の蟻】達も次々と【暴食の蜘蛛】が陣取る木の上に次々と昇っていきそこで【暴食の蜘蛛】に襲いかかる。
足をかみ切られた【暴食の蜘蛛】が地上に落下していき、そこで【深紅の蟻】が噛みつき、数秒で無残な肉片だけになる。
『土騎兵』『デスナイト』『リッチ』『負の剣闘士』はそのまま【深紅の蟻】に襲いかかっていく。こちらを追ってくる魔物は現段階ではいない。完全にカタリナ達一行は忘れ去られたのだ。
「よし…」
カタリナは自分の考えが上手くいった事に胸をなで下ろす。そして先程の場所から1㎞程離れた所で休息を伝える。カタリナから休息が伝えられると全員がまずははぐれたものがいないかを確認した。
短い点呼の結果、幸いにも一人もはぐれた者はいなかった。
全員が周囲を警戒しながらも木の陰などに座り、このまま朝を待つことにする。
「さて…一応見張りは出しとくか…」
ジュスティスはそう言うと魔法陣を展開する。先程『リッチ』『デスナイト』を召喚したような魔法陣だ。魔法陣から出てきたのは『スケルトン』だ。それぞれの手に武器を持っている。
「行け」
ジュスティスの言葉に従い召喚されたスケルトン達は五体ずつで一チームをつくり、カタリナ達一行から約10メートル程離れた場所で止まった。
「アンデッドが周囲にいたら気味が悪いと思うかも知れないけど我慢してくれ」
ジュスティスの言葉に全員が頷く。気味が良いものではないのは確かなのだが、この段階で「気味が悪いから下げてくれ」などと発言する者がいたらそいつは本物のアホに認定されてしまう事は間違いない。
「心配しないでいいわ。ジュスティスさん、助かったわ」
カタリナが礼を言うとジュスティスはニコリと微笑む。
それから、しばらくカタリナ一行は休息に入る。みなが体力の回復をしようと静かにしているところに何者かが動く気配がした。
「あ、あのさ…」
声を出したのは『黒剣』のリーダーであるアルガントだ。そして声をかけた相手はジェドだった。
「何?」
ジェドの言葉には刺々しい者はなかったが簡潔な返答はアルガントに何かしら含む者があるように思われる。アルガントはおずおずとジェドに話しかける。
「さっきは失礼な事を言って済まなかった。許してくれ」
アルガントの言葉はジェドにとって意外だったようだ。てっきり、何かしらまた難癖をつけるのではないかと思ったのだ。このように素直に謝られればジェドとしても謝罪を受け入れるという気にもなるというものだった。
元々、先程のアルガントの言葉は不快ではあるが大した実害はないのだからそれほど拘ってはいなかったのだ。
「ああ、あの事はもういいよと言いたいけど言葉だけじゃな」
ジェドの言葉にアルガントは沈黙する。周囲の者達も息を呑んだ。
「今度、俺達が調査したい場所があるんだが、その仕事を手伝ってくれれば水に流すよ」
ジェドがそう言うと張り詰めた空気が緩む。ジェドの言葉の真意を全員が悟ったのだ。冒険者達が仕事を持ちかけるのは『信頼の証』の一つであるのだ。命を張るような職業である冒険者にとって信頼の置ける相手としか組むことはない。一緒に仕事をしようという言葉は信頼する相手にしか言わないのだ。
「ああ!!その時はぜひ声をかけてくれ」
アルガントはジェドの言葉の真意を察し、嬉しそうに返答する。
カタリナ一行は少しずつだが信頼関係を構築し始めたのだ。
思った以上に長くなってます。やっと折り返しと言ったところでしょうか…よろしくおつきあいください。




