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採集⑨

「さて…あれか」


 ジュスティスの言葉にジェドとシアは頷きながら返答する。


「そうですね」

「悲鳴の数は少なかったけど死体の数は結構ありますね」


 ジュスティス達がいるのは先程の戦闘が行われたと思われる場所である。そこにはゴブリン、オーク、オーガの死体が散乱している。その数はざっと見て10を超えている。ほとんど一太刀で絶命させられているようで、悲鳴を発する事も出来ずに斬り伏せられたことが想像できる。


「ジェドくん…この死体の傷…」


 ジュスティスが【明かり(ライト)】の魔術を展開しゴブリンの傷口をジェドとシアに見せる。


 【明かり(ライト)】は【照明イルミネーション】よりも小さい範囲を照らす魔術である。【照明イルミネーション】は便利な術ではあるが、自分の位置を周囲の者に無造作にさらす事になる。この魔物が跋扈するような森林地帯ではあまり向かないのだ。


 【明かり(ライト)】はその意味ではかなり使い勝手が良いと言える。小さい範囲しか照らせないと言う事は周囲から発見されにくいと言う事をしめしているのだ。


 ジュスティスの言葉の意味がジェドとシアにもわかった。


 そのゴブリンは頭を頭頂部から真っ二つに両断されている。その斬撃はすさまじく容易にゴブリンの胸まで達している。だがひどくその傷はアンバランスだったのだ。ゴブリンの頭からの傷は凄まじく鋭利な傷口なのに、ゴブリンの身につけている革鎧、その下の粗末な服は切り口がかなり歪だった。別の言い方をすれば鎧と服だけは傷口が鈍く、その下のゴブリンの肉体は傷口が鋭いのだ。


「…これは…何やら生き物を殺すためだけの武器という事ですかね?」

「魔剣…ってやつかしら?」


 ジェドとシアの言葉にジュスティスも頷く。だが、その顔は笑っているようにもジェドとシアには見えた。


「このエルゲナー森林地帯は中々面白いものがあるね」


 ジュスティスの言葉にジェドとシアは苦笑する。ジュスティスほどの実力があればこのエルゲナー森林地帯は遊び場に過ぎないのかも知れないが、ジェドとシアはここを遊び場にするには少々荷が重かったのだ。


「とりあえず、確認は済んだと言う事で戻ろうか。間違いなく魔物がこの死体を食べに来るだろうから、移動するか隠れるかをカタリナちゃんに判断してもらおう」


 ジュスティスの言葉にジェドとシアは頷く。この一行のリーダーはカタリナであり、最終的な判断はカタリナがするべきなのだ。


「わかりました」

「さっそく、カタリナに伝えましょう」


 ジェドとシアは迷わず答える。


 それから三人はそろそろ準備が終わったであろう事を思ってカタリナ達のいる場所に戻っていったのだった。





------------------


 カタリナ達の元に戻ったジュスティス達は戦闘跡の様子をカタリナに報告する。


「なるほど…」


 カタリナは小さく呟く。こういう動くか留まるかという二者択一は正直な話、単なる賭なのだ。どっちの意見であってもそれぞれ危険性があるからだ。移動している時に発見される可能性もあれば、この場に留まっていてたまたま魔物の通り道にここがなっていた場合は戦闘となる。


「カタリナちゃん、言っとくけどこの場合は正解なんて絶対にわからないからね」


 ジュスティスの言葉に全員が黙る。


「移動しようが、留まろうがどっちみち戦闘になる可能性がある以上、悩んでも無駄だよ」


 ジュスティスの言葉はいい加減に見えて正論だった。カタリナもその事がわかっている以上、必要以上に悩むような事はしない。


「もちろん、移動するわ。理由はここに留まる方が危険と判断したからよ」


 カタリナの決断にジュスティスは何ら異を唱えることはしない。カタリナに決断を任せた以上、その事にぐだぐだ言うのはジュスティスは嫌いだったのだ。


「よし、エキュ達は俺達の後ろについて指示を出してくれ」


 ジェドがエキュ達に指示を依頼することにする。


「ちょっと待てよ。ここに留まった方が利口じゃないか?」


 『黒剣』のリーダーであるアルガントが反論する。これは別にカタリナへの反発心やジェドへの対抗心からの言葉ではない。


「言っておくがこれは別にあんた達に含むところがあるから言っているわけじゃない」


 アルガントは先程の事があるため誤解されないように付け足す。もちろん、カタリナもジェドもアルガントに言われるまでもなくその程度の事はわかっていた。


「言葉が足りなかったわね。私がここに留まる方が危険と判断したのは、死体の発する臭いを探知してここに集まってくるという魔物なら当然、私達がここに隠れている事に気付く可能性が高いと判断したのよ。死体をあさっている間に私達は少しでも距離をとろうと思ったのよ」


 カタリナの言葉にアルガントも沈黙する。当然想定していた答えだったが,アルガントにはもう一つの懸念があったのだ。その事を告げようとしたところにカタリナはさらに言葉を続ける。


「もちろん、あながが懸念しているのはこの暗がりの中、移動するの危険性、つまり迷う、はぐれるという可能性を心配しているのでしょう?」


 カタリナの言葉にアルガントは頷く。


「それは当然の心配ね。でもそれは闇雲に逃げて気付いたらはぐれてたと言う事がないように細心の注意を払ってもらうわ。襲われるという段階でない今なら、はぐれる危険性はかなり小さくなるはずよ」


 カタリナの言葉にアルガントも考え込む。


「ねぇアルガント、私は雇い主の言葉が一理あるように聞こえるわ」


 『黒剣』のレンジャーであるベシーがアルガントに告げる。


「…そうだな。わかった。あんたの決断を信じよう」


 アルガントがそういうと一行の行動が決定された。


「それじゃあジュスティスさん、申し訳ないけど今回も殿しんがりをお願いできるかしら?」

「もちろん。任せてくれ」


 カタリナの言葉をジュスティスは快諾する。


「それじゃあ、出発するわよ」


 こうしてカタリナ一行は夜間の移動を開始したのだ。



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