採集②
アレン達一行は冒険者ギルドの扉を開ける。
冒険者ギルドの中は活気に溢れていた。冒険者達が情報を交換しているようで併設されている酒場には冒険者達が酒を煽りながら楽しそうに話しているのを視界の端にとらえる。
アレン達が冒険者ギルドに入るとアレン達に気付いた何人かの冒険者達がアレン達をチラチラと盗み見ている。いや、より正確に言えばアレンの婚約者達のフィアーネ、レミア、フィリシアに視線が集まっている。次いでアレンに嫉妬のこもった視線を向けてくるのはもはやテンプレと言って良いだろう。
(まぁ、こんな美少女達を連れ回していれば嫉妬も買うよな)
アレンは当然ながら自分に注がれている視線の意味を当然ながら理解している。それゆえに別に睨み返したり文句を言ったりはしない。ある意味、余裕の現れと言って良いだろう。
カタリナも十分、美少女にカテゴライズされる容姿をしているのだが、いかんせんフィアーネ達に華がありすぎてそれほど目立たなかったのである。
(はぁ…わかってはいるけど、この3人と一緒にいると何というか差を感じるわ…)
カタリナのぼやきは音を発するものではなかったので誰の耳にも届かなかった。
「おい…あれって『戦姫』じゃないか? やっぱ良い女だな」
「と言うことは銀髪の娘が『雪姫』か…すげえ美人だな」
「あっちの赤毛の娘が『剣姫』というわけか…俺は『剣姫』派だな」
「甘いな…この場に来ていないアディラ王女こと『月姫』こそが至高…」
「ふっ…『雪姫』様の美しさを見落とすとは…」
「なにぃ?」
「おいおい、『戦姫』の凜とした美しさこそ至高だろ?」
「何言ってやがる。『剣姫』の清楚な美しさこそ俺達をいやしてくれる御方じゃないか」
冒険者の話題が自然と情報交換から『戦姫』『雪姫』『剣姫』『月姫』のうち誰が一番好みかに話題が移っていく。
「なんか…すっごく恥ずかしいんだけど…」
「私もよ…」
「ああ、ついに口げんかから殴り合いにまで発展…私達のせいじゃないですよね?」
「安心しろ…絶対に四人のせいじゃないから…」
アレン達は冒険者達の諍いを見なかったことにして受付で冒険者の雇用の申し込みを行う。
「すみません」
アレンの言葉は穏やかでありそこには一切の威圧的なものは含まれてはいない。だが、声をかけられたギルドの受付の女性は緊張を露わにする。
「ひゃ、ひゃい!!」
声をかけられた女性の声にアレンは『う~ん、かなり怖がられてるな』という事を察した。見たところ、アディラと同年代であり新人のようだ。アレンとすればいつものサリーナという女性に受付をして欲しかったのだが、今は席を外しているようなので仕方がなかったのだ。
「あの、『ミスリル』の冒険者であるシアとジェド、冒険者チームを二つ雇いたいので、依頼の申し込みをお願いしたいのですが」
アレンの言葉に受付の少女は明らかに緊張していた。
「は、はい、それではアインベルク侯…こちらの書類って、あれどこ行ったの?」
少女は手にしていた書類が目的のものと違っていたために慌てて正しい書類を探し始めた。わたわたと書類を探す少女の雰囲気が小動物に思えて微笑ましい。
「なにやってんのよ、クレア…」
「サリーナさん、書類を間違えてしまって…」
見かねたのだろう。いつもの受付のサリーナが奥から出てきた。どうやら新人教育の一環としてわざと席を離れていたらしい。
「ほら、ここよ。アインベルク卿、申し訳ありません。新人ですので…ご容赦を」
サリーナはアレン達に謝罪の言葉を告げると一礼する。元々、大して申し込みに滞っている訳ではないので気にしないように伝えた。
「あぅ…それではこちらの用紙に必要事項を記入願います…」
クレアと呼ばれた受付嬢は上手く出来ない事を恥じているのだろう。しょんぼりとした雰囲気が出ている。
「まぁ、いきなりすべてが上手くいくわけじゃないから、これから少しずつ出来るようになっていってくださいね」
アレンがクレアを慰めるとクレアが少しだけ微笑む。
「はい、ありがとうございます」
用紙を受け取ったアレンは必要事項を記入しクレアに手渡す。用紙を受け取ったクレアは確認作業に入る。横でサリーナも一緒にチェックを入れているところを見ると安心だ。するとサリーナがアレンに視線を移すと質問をしてきた。
「アインベルク卿、いくつか質問してもよろしいですか?」
「はい」
「今回の目的地はエルゲナー森林地帯にある『エキュシア』の採集、並びに森林地帯の調査…とありますが」
「はい、ご存じの通り、私はこの度陛下よりエルゲナー森林地帯を下賜していただきましたのでエルゲナー森林地帯を調査しようと思っているのです」
「具体的にはどのような調査を?」
「まずは地形、地理の調査が一点、出没する魔物の種類、数が一点、最後に群生している植物の種類の調査です」
「う~ん…結構な内容ですね」
「はい、といってもその調査を行うのは彼女ですから冒険者の方々は彼女の護衛をと…」
「なるほど…そちらのお嬢さんの護衛というわけですね」
「はい」
サリーナはカタリナに視線を移す。その視線に不快なものは一切感じられないために、ただの確認という感じだった。
「それでは『ミスリル』『プラチナ』『ゴールド』とそれぞれ指摘している理由はなんです?」
「ああ、一言で言えば予算の都合です。幸いシアとジェドは私達と面識がありますので依頼料については勉強してくれるという話だったのです。そのため、『プラチナ』『ゴールド』の冒険者チームを一つずつ雇う余裕が生まれたんです。本心を言えば『プラチナ』クラスの冒険者を2つか、『ミスリル』クラスをもう一つ雇いたかったんですがそれだと予算を超えてしまうための措置です。そうそう、『ミスリル』を依頼に入れたのはシアとジェドの査定を考えてのことです。そうしないとシアとジェドのランクがあがりませんからね」
本当の理由は『プラチナ』『ゴールド』の冒険者の実力の基準を知るためであるのだがそのことは触れない。
「わかりました…ただ『プラチナ』クラスの冒険者は引く手数多で忙しいためご希望に添えれるか…」
サリーナは申し訳なさそうに言う。隣のクレアは不安げにアレン達とサリーナを交互に見やった。
「その時は『シルバー』クラスの冒険者チームでも構いません。ですが、エルゲナー森林地帯は大変危険な場所ですので『シルバー』の冒険者チームでは厳しいですので、もし『シルバー』の方が希望された場合は危険性をしつこいぐらい伝えておいてください」
アレンとすれば基準をつくるという事を考えれば『シルバー』でも構わないのだが、それだと実力的に厳しいため死亡の危険性が跳ね上がってしまうのだ。アレンは別に冒険者達に死んで欲しいわけではないのであんまり低レベルの冒険者には関わって欲しくなかったのだ。
「わかりました。それではギルドの方でいくつかのチームに声をかけますので、最終的には雇うかどうかはそちらで決定してください」
サリーナの言葉はそれなりに評判の良い冒険者グループを紹介する事を意味していることをアレン達は察する。質の悪い冒険者チームを紹介しアレンに睨まれるというのは勘弁して欲しかったのだ。
「お願いします。それでは5日後までに決定したいと思いますので冒険者の方で参加しても良いと言う方はアインベルク邸にご足労願います」
「わかりました」
アレンとサリーナの会話は終わり、とりあえず用事は済んだとしてアレン達は冒険者ギルドを後にした。
「あの…サリーナさん」
アレン達がギルドを出て行った後にクレアがサリーナに声をかける。
「ん?どうしたの」
「アインベルク侯って噂と違って別に…」
「怖くないって事?」
「は、はい」
「まぁね、アインベルク卿は礼儀正しいし穏やかな性格をされているわよ」
「そ、そうですよね」
「でもね…クレア」
サリーナの声に真剣さが増す。
「だからといってアインベルク卿を甘く見ちゃ駄目よ。ああ、見えて国営墓地の管理を代々続けてきたアインベルク家の現当主であり、『あの』ゴルヴェラ達11体を全滅させるような実力者よ。ひょっとしたら王都にいる冒険者達が束になっても勝てないのかもしれないわよ」
サリーナの言葉にクレアはゴクリと唾を飲み込む。
「はい、わかりました」
クレアの言葉にサリーナは満足気に頷く。
「さて、それじゃあアインベルク卿に失礼な態度をとらないような評判の良い冒険者を紹介するからクレア、リストアップを手伝ってちょうだい」
「はい」
サリーナの言葉にクレアは頷くと受付を他の同僚に任せ、二人は冒険者の名簿を開きリストアップを始めるのであった。




