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仮面①

 夜の国営墓地の見回りにアレン達はいた。


 まぁ、いつもの通り国営墓地の見回りに出ているのだが、今夜は人数が多い。アレン、フィアーネ、レミア、フィリシア、カタリナのいつものメンバーに加え、アディラ、メリッサ、エレナの3人にローエンシアの王太子アルフィスの合計9人だ。


 アルフィスとアディラは明日が学園が休みということで今夜は墓地の見回りに参加する事は前から決まっていたのだ。アディラが参加するということは必然的にメリッサとエレナも参加するということを意味する。


 報告にはすでにカタリナの事を上げており、新しい従業員としてカタリナは業務に真面目に取り組んでいた。


 ただ、国営墓地の管理人としてだけでなく自分の研究に役立つことを探すという側面があったのはカタリナの為人を考えればそれほど不思議な事ではない。


 アルフィス、アディラはカタリナに今夜初めて会ったのだが、お互いに自己紹介を行い互いに友人としてやっていけるような何かを感じたのだろう。和気藹々という感じでお互いに交流していた。


 アルフィスも最低限の礼儀を守ってくれれば文句をいうような人間ではないため、カタリナが普通に接することに忌避感をまったく持っていない。


 アディラはその一方でカタリナとかなり気が合うのか10年来の友人のような雰囲気を醸し出していた。


「ねぇ~カタリナはどんなホムンクルスを作りたいんですか?」

「そうねぇ~やっぱり魔術の素養は絶対に必要ね。そして几帳面な性格にしたいと思ってるのよ」

「几帳面?」

「そう、私って結構、研究以外の事は適当だから資料の整理とかをきちんと出来るようにしておきたい訳よ」

「あ~それいいわね」

「でしょ~」


 アディラとカタリナの会話を聞きながらアレンはアディラの意外な一面を垣間見た気がする。

 アディラはカタリナの研究に興味津々という感じでカタリナに質問をしていた。元々アディラは知識欲旺盛な性格だったが錬金術にまで食指が動くとは思っていなかったのである。


 いずれにせよ新しいメンバーであるカタリナと良い信頼関係を築くことが出来そうなのは嬉しいことであった。


 カタリナも自分の研究に興味を持ってくれているアディラに対して悪い感情など持つわけもない。『アディラと呼んで欲しい』というアディラの願いをカタリナあっさりと受け入れていた。


 カタリナ決して研究だけでなく人間関係構築に対してもそれなりの能力を有しているらしい。


「しかし、アレンのもとには人材が集まるな」


 アルフィスがアレンに話しかける。


「何言ってる。お前の方こそ人材が着々と集まってるじゃないか」


 アレンの言葉にアルフィスは苦笑する。アルフィスは魔神に対抗するために独自に人材を集め始めていたのだ。近衛騎士、騎士、兵士、傭兵、魔術師、冒険者などありとあらゆる方面から人材を集め始めていることをアレンは知っていたのだ。


「まぁな、でもこの国営墓地に入れるには、まだまだ実力が足りないから鍛えているところだ」

「お前が指導してるのか?」

「いや、指導内容に口を出しているが折れもいつも付きっきりで指導できてない」

「なるほどね」

「まぁ、人材育成はどの分野でも時間と金がかかるからな。じっくりやっていくさ。といっても何とか1年である程度の形にはしておかないといけないがな」


 アルフィスの1年という言葉にアレンは頷く。


 アレンは魔神が本格的に活動を開始するのに1~2年と見ていた。だが、それは揺らぎ始めている。理由は前回のエルゴアが同時に6体発生したことだ。今までの経験則に当てはまらない事が現実に起きている以上、アレンはいつ魔神が顕現しても良いように準備を前倒しし始めていたのである。


 アルフィスも前回のエルゴアの発生から魔神の活動が活発になっていることを察していたが人材育成を早めようとはしていない。成長を早めようとしてより厳しい訓練を課せばせっかくの人材がつぶれてしまう。芽にバケツで水をぶっかけてしまえばその芽は水を受け止めることは出来ずにつぶれてしまう。それは人間にも同じ事が言えるのだ。


 アレン達はのんびりと話ながら墓地を見回っているが、当然の事ながらアンデッド達は当たり前の様に出没していた。だが、この場にいるのはローエンシア、いや大陸最強の戦闘力を持つ一行だ。しかも今夜はアルフィス、アディラも参加しているためにいつものアレン達よりも戦闘力過剰になっている。

 そんな彼らがアンデッド達を片手間に斃していくのはもはや当たり前の事と言えた。むしろアンデッド達の方がアレン達一行に出会う方が不運以外の何ものでもなかった。


「ん?」


 そんなアレン達の前に人影が躍り出る。


 その人影は身長2メートルほど、上半身は裸、下半身には膝までの長さの革製のズボンを履いており腰に布を巻き付け余った部分を前に垂らしている。手には刃渡り80㎝程の剣を持っており友好的な雰囲気は一切見られなかった。


 だが、何よりもこの人物の特徴は『仮面』を被っていることだろう。その仮面は奇怪なデザインだった。頭部には二本の角が生え、眉毛は太く描かれ、目はつり上がっている。まるで憤怒を表現したかのような面相だった。

 目の部分はくり抜かれているが仮面の奥にどのような瞳があるのかは暗く判断できない。口元の部分は最初から作られていないので仮面を被った人物の顎先と口元があることから顔はあるようだった。


「アレン、友達か? ああ、紹介はしなくて良いぞ。同類と見られるのは嫌だからな」


 アルフィスが男を見て開口一番軽口を叩く。


「アルフィス…友人として忠告しておくが友達は選べよ。お前の将来が心配だ」


 アレンも軽口で返す。


 アレンとアルフィスの会話を聞いて他のメンバー達は呆れることもせずに男を凝視している。アルフィスとアレンの軽口は相手の反応を見るためのものであると同行者達は思ったのだ。これまでのアレンとアルフィスは戦いにおいて軽口すらも戦いのための布石であったため、今回もそうだと思っていたのだ。


 だが、今回のはアルフィスがつい、いつもの (平常時)のノリで軽口を叩いたのにアレンが何の考えもなく乗っかっただけだったのだ。そのため…


「アレン、反応がないわね。どうやら戦闘に対する考え方は柔軟性がありそうね」


 レミアの潜めた声がアレンの耳に届いたときにアレンは動揺したのだが、表面上はそれをおくびにも出さずにさも分かってましたという体を装う。


 それを見てアルフィスがニヤリと嗤う。どうやらアルフィスはわかっているらしい。


「さて…とりあえず退去を求めるか」


 アレンは仮面の男に向け退去を促すことにする。


「え~そこの御仁、まずはこの国営墓地に許可なく入る事は許されておりません。すぐに退去してください。しない場合は国営墓地管理のアインベルク家の名において排除します」


 アレンの口調にはまったく熱がこもっておらず完全な棒読みだ。元々、この仮面の男が素直に出て行くなど欠片も思っていない。この仮面の男がここに来た目的はアレン達を害する事に他ならない。


 いつものアレン達ならこのような怪しい男が前に現れた段階で有無を言わさず斃してしまうのだが、魔神の活動によるものかも知れないという思いが情報収集をしてみようという行動につながったのだ。


「とりあえず5数えますのでそれまでに退去の姿勢を見せてください。5…4…3…」


 アレンがカウントダウンを始める。


 そして、アレンが3を数えたところで、フィアーネ、レミアがナイフを投擲し、アディラが弓を放った。


 アインベルクのお家芸である『不意討ち』で仮面の男との殺し合いは幕を開けた。 

 うん、今夜も主人公達は通常営業です。

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