聖女Ⅱ⑧
守護者が自分達に向かってくるのをエンリケ達護衛騎士達は迎え撃つ。
聖女ファリアの護衛に選出されるエンリケ達の実力ははラゴル教団において突出していると言って良いだろう。実際にエンリケ達の実力は高く一個大隊であれば勝利を収める事も可能だった。
聖騎士の実力は高く普通の兵士達とは一線を画すのだ。その聖騎士達の中においてさらに選出された存在が聖女の護衛隊なのだ。
聖女ファリアの護衛として修羅場をくぐり抜けてきたという自負がエンリケ達護衛騎士にはある。それが揺らぎ始めたのは昨年、ローエンシア王都にある国営墓地の浄化任務においてであった。
国営墓地に出没するアンデッド達は自分達がこれまで相手にしてきたアンデッド達など比較にならないほど強力だった。デスナイト、リッチなどのアンデッドどころかスケルトン、グールなどの下位のアンデッド達を斃す事すらおぼつかなかったのだ。
さらに彼らに衝撃を与えたのは、国営墓地の管理者であるアレンティス=アインベルクとその婚約者達の異常な実力であった。自分達があれほど苦労したアンデッド達をまるで草を刈るように駆除したのだ。
護衛騎士達はこの時、自分達がいかに狭い世界にいたのかを思い知らされたのだ。それから護衛騎士達は必死に修練を重ねるようになった。護衛騎士達はファリアを守るために実力をつけねばならなかったのだ。
それからも護衛騎士達は過酷な修練を自らに課した。その成果は如実に表れ他の部署の聖騎士達との模擬戦ではまったく危なげなく勝利を収める事が出来るようになったのだが、アレン達という遥か彼方にいる存在を見てしまえば傲る気にもならない。
その護衛騎士達が守護者と戦いを繰り広げる事になったのだ。
守護者が向かってくるのをカハラ、アルバート、ジェイクが迎え撃つ。
守護者は剣を振りかぶり護衛騎士のアルバートに斬撃を放つ。アルバートはその斬撃を剣で受けることにかろうじて成功するが、その斬撃の重さに吹き飛ばされてしまう。吹き飛ばされたアルバートは何とか立ち上がるが自分の剣が根元から折れ曲がっていることに気付く。しかもアルバートは剣を持っていた手をたった一度の斬撃によって挫くという負傷のおまけ付きだった。
「くっ…」
アルバートは護衛隊の中でもジェイクと並んで面倒見の良い人物であり、加えて物事には動じない性格である。そのアルバートの口から動揺の一言が漏れ出たのだ。そしてアルバートはたった一度の攻撃を受けただけで悟ってしまったのだ。
『勝てない』
だが、彼は逃げるわけにはいかないのだ。護衛騎士としての矜持もあったが、信頼する仲間達を置いて逃げ出すことなど絶対に出来ないのだ。
アルバートは根元から折れ曲がった剣を投げ捨てるとナイフを抜く。はっきり言って何かの役に立つとは思えなかったのだが無いよりはマシだと思ったのだ。
「アルバート、下がってろ!!」
エンリケの言葉にアルバートは悔しそうな顔を浮かべるが黙って従う。この場において剣を失い、負傷した以上前線に立つのは自殺行為であり、それ以上に足手まといであった。
「いくぞ!!」
エンリケの言葉にエンリケも突っ込み、そこにシドも参戦する。魔術師のリーファは魔術の詠唱に入っており、いつでも放つ事が可能だが守護者の周囲に仲間がいるために魔術を放てないでいる。
カハラ、ジェイクはエンリケとシドが参戦したことによりなんとか戦線を維持することが出来た。もし、即座にエンリケがアルバートが負傷したと同時に参戦しなければあっという間に護衛騎士達は為す術なくやられていた事だろう。
アルバートは冒険者達の戦いに目を移す。『暁の女神』の面々が守護者を追い詰めているのがいた。
エヴァンゼリンの長剣により守護者の剣を封じたところにリリア、ミアが襲いかかっている。少しずつ敵の戦力を削りとどめを刺そうという戦法である事がアルバートにもわかる。
そして、シアとジェドの戦いも同じように意識を逸らし攻撃を加えているのを見る。
冒険者達の戦い方を見てアルバートは自分達との戦い方との差を考えずにはいられなかった。彼らの連携は隙がないのだ。自分達の連携とは何かが違っていると考えずにはいられない。
「ぐおっ」
カハラの発した声にアルバートは目線を移す。カハラは守護者の盾に殴られ吹っ飛び地面を転がる。
シドが守護者の間合いに飛び込むと縦横無尽に剣を振るうが、守護者はそれらを剣と盾を使って防ぎきる。すべてを防ぎきったときに守護者は反撃に転じる。
「くっ…」
シドは圧倒いう間に劣勢に立たされる。エンリケ、ジェイクもシドを庇い守護者に攻撃を加えるが、あまりシドの負担は減っていないように見える。
エンリケは剣を振るい守護者に斬撃を繰り出すが守護者の剣術の前にすべて弾かれている。
アルバートは守護者が嗤っているように見えている。髑髏のために表情など無いはずなのにアルバートは確かにそう感じたのだ。これはただの思い込みなのかも知れないがアルバートにしてみれば他の冒険者が守護者達にとどめを刺しているのに護衛騎士なのに関わらず苦戦しているという劣等感からなのかも知れない。
そこに『暁の女神』のアナスタシアから支援が入る。アナスタシアは周囲に護衛騎士がいるというのに【魔矢】を放ったのだ。アナスタシアが放った魔矢は振りかぶった守護者の剣に命中する。魔矢が命中した守護者の剣は中頃から折れ飛んだ。
思わぬ方向からの攻撃に守護者はアナスタシアを睨みつけるように見える。だが、それで終わりではない。今度はシアの放った魔矢が左足に命中する。守護者はシアの放った魔矢により足を払われた格好となり転倒する。
その様子を護衛騎士達は呆然と眺める。特に驚いていたのはリーファだ。リーファは周囲に仲間がいるため同士討ちを恐れ魔術を放つ事が出来なかったのだが、アナスタシアもシアも躊躇うこと無く魔術を放ったのだ。
そこにリリア、エヴァンゼリン、ミア、ジェドが斬り込んでくる。
転倒した守護者は何とか立ち上がったがもはや戦いの流れは守護者にない事は明らかであった。
エヴァンゼリンの剣が守護者の腕を斬り飛ばし、ジェドの剣が守護者の盾を持つ手を斬り飛ばす。両腕を失った守護者は棒立ちとなりそこにリリアの剣の一閃が守護者の首を斬り飛ばした。
そこにユイメが戦槌に先程同様に【聖閃】を込めた一撃を斬り飛ばされすでに頭部が無くなっている部分に叩きつける。
ゴゴォ!!
戦槌が守護者の鎧に食い込んだ瞬間にユイメは【聖閃を放つ。鎧の隙間から光が漏れ出し守護者の体を消滅させると守護者の鎧は地面に転がるとバラバラに散らばった。
「ふぅ…」
ユイメの言葉に守護者達がすべて斃れた事を全員が察する。それからしばらくして全員が神盾『リキオン』に目を移した。
とりあえず新たな守護者は発生する気配は見られない。
これで、どうやら呪いを浄化する下準備が整ったのであった。




