聖女Ⅱ⑦
ちょっと読みづらいかもしれません。ご了承ください。
「シア!!行くぞ!!」
ジェドの声にシアは答える。ただし言葉で答えるのではなく【魔矢】を放つというのがその答えである。
シアの【魔矢】が放たれた。
だが、シアが狙ったのは守護者ではなく、その足下であった。足下への着弾に守護者は足が止まった。
守護者の足が止まった所にジェドが斬りかかる。戦いにおいて多くの人が考慮するのは、力、速度に主眼を置きがちである。だが、シアもジェドもロムやキャサリンの指導によりそれだけでないことを認識していたのだ。
シアとジェドが重視するのは『意識』だ。人間に限らず多くの生物は意識を持っている。意識の状態によって運動能力は大きく上下するのだから、相手の意識を操作しようというのは当然だった。
今回の守護者の足下に魔矢を着弾させたのは守護者の気勢を削ぐためである。いかにアンデッドであっても足下に着弾すれば勢いは止まる。もしそのまま突っ込んでくれば足をそのまま射貫いてしまえば良いのだ。どちらにしても二人に不利益はない。
守護者の勢いを殺したところにジェドが斬りかかる。ジェドの斬撃を守護者は盾で受ける。だが、守護者は反撃できない。なぜならジェドが盾で守護者の剣を持つ腕を殴りつけたからだ。
ジェドの戦いの基本戦術はまずは敵の武器を奪うことから始めるのだ。最初から首を狙うのも悪い手では無いが、ジェドはまずは敵の武器を奪い弱らせてからとどめを刺すことを徹底している。
以前、ゴルヴェラのジ・バルに油の入った瓶を投げつけることで戦斧を奪い取るようにしたのもその考えに基づいてのことだった。
ジェドが盾で守護者の腕を殴りつけたことで剣が弾かれる。そこにジェドは守護者の肘の内側から斬撃を見舞い斬り飛ばす。
鎧の継ぎ目を狙い斬るという行為は実際には難易度がとても高い。それをジェドは難なく成功させる。ジェドの剣はローエンシア屈指の腕前に成長していたのだ。
腕を斬り落とされた守護者はジェドの動きに気をとられる。だが、それは悪手であった。
ジェドとシアはジェドが攪乱し、シアがとどめを刺すというものだったのだ。
守護者が意識をジェドに向けた瞬間にシアが魔矢を放つ。今度は守護者に着弾する。守護者の全身鎧はかなりの業物であったのだろう。シアの魔矢は全身鎧を貫くことが出来なかった。
だが…
それは想定していたことだった。
とどめを刺すのは確かにシアの魔術である。だが、それはここではなかった。シアの魔術でとどめを刺すためにはもう少し守護者を弱らせる必要があったのだ。
シアが魔矢をここで放ったのは意識をシアに向けさせるためだ。別の言い方をすればジェドから意識を逸らすためである。
ジェドは自分が守護者の意識から外れた事を察すると、油の入った瓶を守護者に投げつける。瓶は守護者の胸の鎧の部分に当たって砕けると油が守護者を汚す。
そこにシアは【火球】を放つ。数個の火球が守護者に直撃した。詠唱無しでの魔術なので守護者を斃す事は出来ないのは百も承知だった。
目的はもちろん、守護者の体についた油を燃やすためだ。
ゴゥ!!
二人の目論見通りに油に燃え広がり守護者の体は炎に包まれる。
「よし!!ジェド!!」
シアがジェドに声をかける。シアが守護者を炎に包ませた理由は守護者の視界を塞ぐことにあった。炎に包まれ視界がふさがれた守護者はジェドがどのような行動をとっているかを把握することは出来ない。
「ああ、まかせろ!!」
ジェドはシアの声を受けて守護者の背後に回り込むと膝裏の位置に斬撃を放つ。膝裏は鎧の継ぎ目となっておりジェドの剣は難なく守護者の右足を斬り飛ばした。
片足を斬り飛ばされた守護者は当然の如く立っている事は出来ない。炎に包まれたまま地面に転がる。
「シア!!とどめ!!」
「任せて!!」
ジェドの言葉にシアは威勢良く答えると走り出す。片膝を立ててなおも立ち上がろうとする守護者の眼窩にシアは【爆発】を直接、放った。
守護者の体は未だ炎に包まれていたが、シアは防御陣を形成しており炎の中に直接手を入れても炎に灼かれると言う事はなかったのだ。シアの手によって押し込められた押し込められた【爆発】は空虚な体の中を落ちていく。
シアは守護者の体の中に放つと同時に守護者から距離をとる。当然、下がるときには防御陣を形成し衝撃に備えていた。
そしてシアの【爆発】が発動する。
ドゴォォォォォォン!!!!
すさまじい爆発が起こり、守護者を内部から吹き飛ばした。
爆発が収まった時に守護者が粉々に吹っ飛んだことをシアとジェドは確認する。
「ふぅ…」
守護者が粉々に吹っ飛んだことを確認したシアとジェドは安堵の息を漏らす。もちろん、終わった訳ではなかったが最低限の仕事を成し遂げた事が二人に安堵の息を漏らさせたのだ。
「ジェド、大丈夫?」
「ああ」
「ほぼ、予定通りだったな」
二人が微笑み周囲の様子を伺う。
『暁の女神』の方を見るとすでに守護者は消滅し鎧だけとなっているのがわかる。
「流石は『暁の女神』だな」
「うん」
二人は反対側を見ると『オリハルコン』の冒険者の二人が守護者を斬り伏せているのが目に入る。
「あっちも、大丈夫だな」
「そうね。あそこにも応援はいらないわね」
そして、最後に護衛騎士達が戦っている方を見る。すると二人は顔を引き締めると言葉を交わす。
「いくか…」
「うん」
シアとジェドは護衛騎士達の応援に駆けつける事にしたのだ。




