聖女Ⅱ⑥
リリアに導かれ全員が扉の前に立つ。その扉は高さ2メートル50㎝程、横3メートルほどのかなり巨大な扉で、細かい装飾が施される豪華なものであった。
「ここです」
リリアが振り返ると目的の場所に着いたことを知らせた。
「それでは行きますよ」
リリアはそう言うと迷わず扉を開ける。扉を開けた先にはかなりの広さの部屋があった。どうやらこの城が統治に使われていたときには夜会の会場となっていたと思われる。
その奥に一つの盾が安置されているのがわかる。その盾は遠目にも神々しさを感じさせるものであり、中央に一つ巨大な宝石が埋め込まれ、その周囲に中央よりかは小さいが四つの宝石が中央の宝石を守るように配置されている。
あの盾が神盾『リキオン』であることは間違いでないだろう。
扉を開けたリリアを先頭に冒険者、護衛騎士が入室する。ファリアは室内に入らず扉の外で待つ。一応念のためにファリアの側にエレリアとシュザンナが護衛に付くことになった。
入室した冒険者、護衛騎士は歩を進める。部屋の半分に達したときに四つの魔法陣が展開されると冒険者、護衛騎士達は散会し守護者達を迎え撃つために立ち止まった。
「あれが…」
ファリアの声が不安げに発せられる。ほぼ同時に展開された魔法陣は光を放ち、その光の中から四つの影が浮かび上がる。
その四つの影は異様な集団だった。頭部は髑髏であり目の奥には赤く光を発しており、ただの髑髏ではない事は明らかだ。体に纏う全身鎧はまるで磨き上げたかのような黒曜石のような輝きを放っている。
両手には剣と盾を持ち四つの髑髏の騎士に見た目において差を見いだすことは難しい。
先程のリリアからもたらされた情報と完全に一致する容貌だ。ただ前情報があろうがなかろうが守護者が不気味な容貌をしている事にかわりはない。
「さて…行きますよ」
リリアの言葉に全員が頷くのと魔法陣の中の守護者達が動くのはほぼ同時だった。
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「リリア、行くよ!!」
『暁の女神』の前衛であるエヴァンゼリンは長剣を構えると真っ先に守護者に向かっていく。
それを皮切りに全員がそれぞれの担当の守護者に向かっていく。
エヴァンゼリンは先陣を切り守護者に斬りかかる。そこにリリアも続く。
『暁の女神』は個々の能力も一流だがチーム戦であればその戦闘力はいい気に跳ね上がる。今回の守護者の相手も『暁の女神』はチームで乗り切るつもりだったのだ。
突っ込むリリアとエヴァンゼリンの背後から詠唱無しでアナスタシアが魔矢を放つ。数十本の魔矢が守護者に向かって放たれるが守護者は盾をかざし魔矢を受け止める。
守護者はアナスタシアの魔矢を真っ正面から受けるような事はせず斜めに構えることで力を逸らしたのだ。
その戦いを見て『暁の女神』は気を引き締める。守護者はいわゆるアンデッドとよばれる存在ではあるがそこに戦術がないわけではないのだ。ひょっとしたら前回とは違う行動をとるかも知れない以上、油断することは出来ない。
「リリアは右に、私は真っ正面から、ミアは左ね」
エヴァンゼリンの言葉にリリアとミアは頷くと左右に分かれ三方向から守護者に斬りかかる。
「でやぁぁっぁぁぁぁぁ!!!!!!」
エヴァンゼリンがややわざとらしく雄叫びを上げ守護者に斬りかかる。上段から振り下ろされる斬撃を守護者は剣で受け止める。
キィィィィィン!!
金属同士の打ちつける澄んだ音が室内に響く。エヴァンゼリンの目的は守護者の剣を封じることだ。魔力によって膂力を強化したエヴァンゼリンの斬撃を守護者は受けた事で鍔迫り合いに持ち込まれ剣を封じられた形になった。
そこにミアが腰の剣と手斧を抜くと守護者に斬撃を繰り出す。ミアの剣は刃渡り50㎝程の長さのものであり俊敏さを持って戦うミアの戦法にあっている剣だ。もちろん、ミスリル製の武器であり並の武器であれば両断する事も可能だった。
キィィィン!!
ミアはまず守護者の盾があるところに斬撃を加え盾で受け止めさせると同時に手斧を盾の横に引っかけ横に薙ぐ。
突然の発した横の力に守護者は対応できずに体が崩れる。ミアは迷わず盾を持つ左肩の部分に斬撃を繰り出し鎧の継ぎ目に刃を入れる。よろいの継ぎ目に入ったミアの剣であったが守護者の左腕を斬り飛ばすまではいかなかった。
「くっ…」
ミアの口から攻撃をしくじった事に対する悔しさが滲む声が発せられる。だが、ミアと同時に反対側から攻撃していたリリアが胴を薙ぐ。
魔力によって強化されたリリアの斬撃が守護者の全身鎧を切り裂き斬撃は鎧の内部にまで達する。鎧の内部は瘴気で満ちており、リリアの剣により切り口から瘴気が噴き出す。
守護者は苦痛により体をよじらせたかのように『暁の女神』の面々には見えた。だが、まだ戦う力は残っているようで守護者は剣と盾をめちゃくちゃに振り回し始める。
リリア、エヴァンゼリン、ミアは一端距離をとる。すると守護者は落ち着いたのか再び盾と剣を構えて『暁の女神』に突進してきた。
そこにアナスタシアが【炎鎖縛】を放つ。アナスタシアの放った炎の鎖が守護者を雁字搦めに縛る。
「よし!!」
アナスタシアの放った鎖が守護者を縛るのを見てアナスタシアが上手くいったと喜びの声を上げる。
そして、守護者が縛られると同時にユイメが動いた。ユイメは神官戦士であるため対アンデッドの神聖魔術を習得しており、その中でも【聖閃】を自らの戦槌に纏わせる術を得意としていた。
神聖魔術が込められたユイメの戦槌が、動きを封じられた守護者に振り下ろされる。
ゴシャァァァァッァァ!!!!!!
ユイメの戦槌が守護者の頭部に振り下ろされると、守護者の頭部は粉々に打ち砕かれた。戦対は勢いを落とさず鎧まで達すると、そこで【聖閃】を放った。
鎧の内部に直接、【聖閃】を放たれた守護者の鎧の隙間から【聖閃】の光が漏れ出した。光が収まった時に守護者は骨と瘴気に覆われていた体を失いガラガラと崩れ落ちた。
「ふぅ…まずは一勝ね」
暁の女神のリーダーであるリリアの口から勝利の声が発せられた。




