聖女Ⅱ①
タイトルから想像つくと思いますが、久々に聖女の登場です。
「う~ん」
ラゴル教団の総本山があるラゴル教の神殿にある聖女の自室でファリア=マクバインは唸っている。
ファリアは聖女に就任してから数多くの浄化任務をこなし、歴代有数の実力を持つ聖女としてその名声は高まっていた。しかも清楚な雰囲気と朗らかな人柄のために信者達のみならず国民にも人気があった。
ファリアがこのように唸る姿を見せるのはファリアが気を許した者達のみに限られる。
「ファリアどうしたの?」
ファリアの護衛騎士の一人であるエレリアがファリアを気遣う。エレリアは30代前半の女性の聖騎士だ。また既婚者で二人の子どもがいる。夫はラゴル教団の神官であり、温和な人柄でエレリアとは幼馴染みという話だ。
エレリアはファリアを娘、もしくは姪のように可愛がっている。またファリアを非常に頼りにしていた。
「エレリアさん…私このままで良いのかなと思って」
ファリアは公的な場では聖女として振る舞い、護衛の聖騎士達を呼び捨てにするし、命令もするが、私的な場では敬語や敬称をつけて話すし、頼み事はするが命令はしない。
「このまま?」
エレリアはファリアの言葉を聞いて首を傾げる。ファリアは聖女としての役目を十分に果たしているとエレリアは思ってる。これは贔屓目ではなく冷静に考えた結果だった。それだけファリアは結果を出しているのだ。
「はい、確かに私はいくつか浄化任務を達成しましたけど実力不足だと思うんです」
ファリアの声が沈む。エレリアにはファリアがそう思う理由に一つ心当たりがあったのだ。
「ファリア、正直な話、アインベルク卿と自分を比べるのは意味ないわよ」
エレリアの言葉にファリアがピクッと反応する。
「それから、あのアインベルク卿の婚約者の娘達を基準に考えるのも無意味よ」
「でも」
「あの子達を目標にするのは構わないと思うわ。でも彼らと自分を比べて劣等感を持つのは明らかに間違いよ」
「…」
「まぁ私も『アインベルク』という存在があそこまで規格外と思わなかったわ」
エレリアが苦笑する。
「それは確かにそうですけど、私達はアインベルク卿に2回も救われました。1回目は墓地で、2回目は禁忌の騎士の件で…」
「確かにそうね」
「でも私達は彼に受けた恩をまったく返せてません」
「でも、私達の実力でアインベルク卿を助けるのは不可能よ」
「そうなんです。アインベルク卿は私達の助けなどまったく必要でないんです。それが悔しいんです…」
ファリアの言葉にエレリアはさらに苦笑する。ファリアのアインベルク卿への言葉は、純粋に受けた恩を返せない自分への歯がゆさから来ているということをエレリアはわかっている。だが、その事を知らないものが聞いたらファリアがアインベルク卿に想いを寄せていると勘違いされかねない。
「そうファリアはシドじゃなくてアインベルク卿に心奪われたというわけね」
「ふぇ!!」
エレリアの言葉にファリアが驚く。慌てふためく様子を見てエレリアは笑う。
「な、なんでそうなるんですか!!ア、アインベルク卿は私達にとって大恩人というわけです!!大体私が好きなの…あっ」
ファリアはうっかり口が滑るところでなんとか自重した。エレリアはニヤニヤしながらファリアに言う。
「ほ~やっぱりファリアには好きな男がいるんだ~」
「あぅ~」
エレリアは実の所、ファリアの思い人がシドであると言うことは当然知っていた。というよりも気付かない方がおかしい。そしてシドの方もファリアの事を好きだというのは当然わかっていた。
この不器用な二人の恋を肴にして楽しむというのが聖女の護衛隊の密かな楽しみだったりするのだ。
「まぁシドも見た目も良いし、将来有望だし、実はモテるからね。急がないと誰かに持って行かれちゃうわよ」
「にゃ、にゃんでそ、そこでシドの話になるんですか!!」
ファリアの慌てぶりからエレリアは心の中で『バレバレだよ』と独りごちる。実際の所、シドの人気は中々のものだったのだ。エレリアは何でも神殿の若い女性信者や侍女達がシドの事を噂しているのを耳にしていたのだ。
「エレリアさんったらもう知りません!!」
頬を膨らませプイッとファリアは横を向いてしまう。その子どもっぽい仕草にエレリアはついつい頬が緩んでしまう。
「ふふふ、ファリア機嫌を直してちょうだい」
「も~全然、反省してくれないじゃないですか!!」
ファリアはエレリアの態度に半ば諦めモードとなっている。
コンコン…
そこにファリアの自室のドアをノックする音が響く。ファリアはドアの向こうの相手に優しい声で返事をする。
「どうぞ」
ファリアの許可をもらい訪問者が扉を開け入室してくる。
「失礼します」
入ってきたのは護衛隊の魔術師であるシュザンナだ。彼女は美人であるがややつり目でキツイ印象を与える。だがファリアはシュザンナが優しい女性である事を知っていた。ファリアにとってエレリアがお母さん、叔母さんという位置づけならシュザンナはお姉さんのような存在である。
「どうしたんですか?」
「ええ、ファリア、突然で悪いけど浄化任務が急遽入ったわ。すぐに準備をしてちょうだい」
シュザンナはファリアに同僚に話すような言葉遣いをする。シュザンナもエレリア同様に周囲に他の者がいない時には同僚に話すような口調で話すのだ。
「わかりました」
ファリアはすぐに立ち上がると愛用の杖である『エルム』を手に取る。聖杖『エフェルミア』はラゴルの秘宝とも言うべきもでありそう易々と持ち出せるものではない。前回の禁忌の騎士の時はそれだけの出来事だったのだ。
今回持ち出した『エルム』は代々の聖女が使用する杖であり、所有者の魔力を著しく増大させるものである。
「行きましょう」
「「はっ!!」」
ファリアの言葉にエレリアとシュザンナが短く返答し付き従う。ファリアは聖女としてのスイッチを入れたのだ。
自室を出るファリアはすでに聖女としての顔をしていた。
2017年1月7日にPV 400万に到達しました。
読者のみなさま方本当にありがとうございます^_^




