凶王③
ちょっと短いです。ご容赦ください。
「ぐぅぅ…」
崩れ落ちたフォルグの口から苦痛の声が漏れる。それに一切の興味を示すことなくイリムは地面に落ちたフォルグの剣を拾い上げる。
その瞬間、イリムの頭の中に呪詛の言葉が響く。
『斬れ…斬れ…』
魔剣は使うものの精神を大きく消耗させる。そのため魔剣を使いこなすには強力な精神力が必要になる。フォルグは結局の所、魔剣を手にしたときに精神を大きく消耗させたのだ。
精神を消耗させたフォルグは魔剣の洗脳に対してもはや抵抗することは出来ずに凶行に及んだ。フォルグは自分の欲望を解放したと思っていたが実際の所はそうではない。魔剣によってそう思い込まされただけだったのだ。
自分の欲望のために人を斬っていたと思っていたが実際の所は魔剣に血を捧げるために動いていたにすぎない。
かつてユーノスがそしてイリムがフォルグの事を『奴隷』と呼んだのはそのためであった。
「ふん!!」
イリムは気合いを入れると魔剣ヴァディスは沈黙する。イリムの精神力はヴァディスを屈服させるに十分すぎるものだった。イリムはヴァディスにただ心の中で告げただけである。
その告げた内容は『調子に乗るな』だけだったが、ヴァディスは屈服したのだ。
「さて…もうこんな所に用はないな」
イリムはヴァディスを鞘に収め、自分の落とした剣を拾い上げるとフォルグに一瞥もくれずに立ち去ろうとする。
「ま、待て」
去ろうとするイリムにフォルグが声をかける。その声を聞き、イリムは立ち止まる。
「お前の…目的は…その剣…いうわけか」
「そうだ」
フォルグの言葉にイリムの冷淡なそしてそっけない言葉が響く。
「お前の持っている魔剣はある男と戦うのに必要なのだ」
「誰…だ」
フォルグはイリムの言葉に驚く、自分をまったく寄せ付けなかったイリムが戦うために準備をするほどの相手がいる事にフォルグは驚いたのだ。
「ローエンシアの墓守…アレンティス=アインベルク」
イリムの返答にフォルグは目を見開く。自分が殺そうとしている男と同姓だったからだ。
20年前に出会った少年の子である事を察した。
「ア…インベルク…だと?」
「そうだ、奴は俺よりも強い…」
イリムの言葉はフォルグの心に絶望を与えるには十分だった。それは20年以上腕を磨いていた斃した男よりも20年前に自分を圧倒した少年の子どもは強いという事実は、自らの20年間がまったく無意味なものに思われたのだ。
「…そうか、俺の20年は…無意味だった…か」
フォルグの言葉にイリムは冷たい視線を送る。
「ああ、そうだ。お前は20年何一つ努力をしてこなかったのだろうな」
「な…に」
「お前は自分の意思で戦っていたと思いたいのだろうがそうではないことに気付いているだろう」
「…」
「この魔剣に支配されていた以上、そこにお前の意思など存在しない。お前は魔剣の人形だ。意思持たぬ人形風情が俺に勝てるわけ無いだろう」
「俺が…人…ぎょ…う」
フォルグは力なく笑う。イリムは立ち去ろうとしたが、ふと思うことがあったのか戻ってくる。
「凶王よ、どうする?」
「な…に?」
「選ばせてやる。このまま死ぬか、とどめを刺してもらうか、それとも俺に仕えるか…」
「どういう…ことだ?」
「意思を持った貴様は人形とは言えない。意思ある者ならば俺の配下としよう」
イリムの言葉にフォルグは即答した。
「俺はこのまま死ねぬ!!アインベルクと戦わねば…死ねぬのだ!!」
フォルグはそう言うと体を起こす。
「いいだろう…凶王フォルグよ。お前を我が配下としよう」
イリムはそう言うと足下に魔法陣を展開する。魔法陣はフォルグまでその範囲内に入れる。
「こ…これは…?」
「ベルゼイン帝国へ行く」
「べ…ルゼイン…」
イリムは転移魔術を展開しフォルグを連れてベルゼイン帝国に転移する。
この後、凶王フォルグ=メヴィールはイリム=リオニクスの忠実な部下となった。フォルグ=メヴィールの名がベルゼイン帝国に鳴り響くのはこれからすぐの事である。
最初はフォルグはここで退場させるつもりだったんですが、彼の使い道を思いついたので急遽生存させることにしました。何か…年が明けてもこの辺の適当さは治りませんね。




