魔女⑪
「本当にこんな簡単に斃せるなんて…」
カタリナはあまりにも簡単に作戦が上手くいき逆に戸惑っていた。アレン達の立てた作戦は本当に子どものいたずらレベルの罠だったからだ。
罠自体は子どもが足をひっかけるのと同じだった。
まずカタリナの召喚した土人形を予め形を変えて地面と同化させておく。そしてレミアにエルゴアが転倒すると予想される場所の上に転移魔術の拠点を作っておく。
最後にアレンがエルゴアと一騎打ちを装い仲間達から離れて歩み出せば終了だ。
あとはより速くより力強くアレンに突進しようとするエルゴアの足を地面と同化した土人形に足を引っかけさせるだけだ。意識をアレンに集中し、攻撃だけ行うと思っていたエルゴアは罠が張ってあることすら想定していなかったため、子どものイタズラレベルの罠にもしっかり引っかかってくれた。
バカは生き残れないという事だろう。
「まぁ、逆にこんなしょうも無い罠だからこそ掛かるのかもね」
フィアーネの言葉にカタリナは『そんなものなのかもしれないわね』と思った。
「ねぇカタリナ」
フィアーネがカタリナに話しかける。
「どう、私達と一緒にこの国営墓地で働かない?」
「え?」
「カタリナの腕前は私達が背中を預けるに足る実力だわ」
「そうですよ。カタリナの実力なら私達も安心だわ」
フィアーネの勧誘にフィリシアも入ってくる。
「なんだ、もう始めてるのか」
アレンとレミアがフィアーネとフィリシアがすでに勧誘を始めていることに驚いていないことを見てカタリナはこれは全員の意見なのだという事を察した。
そこでカタリナは考える。
この国営墓地は自分が思っていた以上に危ない場所だ。だがそれ以上に興味深い場所だった。エルゴアが発生し、先程の地面からの突起物など通常の場所とはかけ離れていることは間違いない。これだけの場所を代々管理するアインベルク家の有している情報はどんな錬金術師も及ばないのではないかと思わせるものだ。
もし、彼らの仲間になれば堂々とアインベルク家の持っている情報に触れることが出来るだろう。それにアレンは侯爵だ。という事は普通の身分では入れないような場所にだって入ることが出来るだろう。
(あれ?アレン達の元に就職すれば研究の面で良い事しか無いじゃない!!)
頭の中でソロバンをはじき終えるとカタリナはニヤリと嗤う。
「どう?」
フィアーネの言葉にカタリナは答える。
「そうね、悪くない話だけど条件があるわ」
カタリナの言葉にアレン達はもっともだという風に頷く。
「まず、私はホムンクルスの研究を止めるつもりはないわ」
「当然だな。他には?」
「給料はもらうわよ」
「もちろんだ」
「研究のために時々、発生したエルゴアをサンプルとしてもらえる?」
「ああ、それはかまわない。ついでにアインベルク家が代々行っているアンデッドの研究も手伝ってくれると助かるんだが」
「それについてはこちらからお願いしたいぐらいよ」
「そりゃ助かる。もうないか?」
「あと一つ…エルゴアを貫いた無数の突起物は何?」
カタリナの最後の問いにアレンは自分の知っているところを答える。最初は驚いていていたカタリナだったが、どんどん興味に満ちた表情となり最終的には鼻息を荒くし始める。
「すごいわ!!そんあレアな研究材料がこの国営墓地には眠ってるのね!!くきゅきゅきゅきゅ!!!私の理想郷はここだったのね!!」
興奮のあまり『くきゅきゅ』という怪しすぎる笑い声を上げ始めたカタリナに対し、アレン達は『あれ?この娘って仲間にしちゃ駄目なタイプじゃね』と思い始めていた。
「よし!!アレン、フィアーネ、レミア、フィリシア!!」
「は、はい」
「これからよろしくね!!さぁこれから楽しくなるわ♪」
カタリナのハイテンションぶりにアレン達は顔を見合わせる。
「…ああ、よろしくな」
「まぁいいか、カタリナこれからよろしくね」
「こちらこそよろしくね」
「よろしくお願いしますね」
カタリナの言葉にアレン達も返事を返す。
「ところでアレン」
レミアがアレンに言葉をかける。
「何?」
「どうしてさっきの突起物を斬るときに最初から魔力で強化しなかったの?」
レミアの言葉にフィアーネ達の視線がアレンに集まる。
「ああ、魔神に攻撃が通じるかどうか試してみたんだ」
「試す?」
「ああ、魔神にどの程度の攻撃が効くかをな」
「それで最初は強化せずに斬ったという訳ね」
「その通り、斬撃自体に対して差は無かったから魔力で強化しないと魔神に攻撃は通じないと考えた方が良さそうだな」
「なるほどね、それで合点がいったわ」
アレンとレミアの会話を聞き、カタリナがアレンに声をかける。
「なるほど、アレンも私と同じで研究者なのね!!」
カタリナの言葉にアレンは少し戸惑う。カタリナの研究への情熱を見るととても同じとは思えない。というよりも思われたくない。
「まぁ、それは置いといてとりあえず今夜は帰ろうか」
「うん」
「わかったわ」
「わかりました」
「よし、明日からがんばろうっと」
こうして今夜の見回りは終わった。頼りになる仲間が出来たことはアレン達にとって嬉しい誤算だった。
性格の方も誤算だったのは愛嬌というものだろう。
アレンはちらりと突起物が出た場所に視線を移す。
(お前って…俺達にとって警戒すべき相手だけど絶望するほどの相手じゃないんだぞ…復活したら覚悟しとけ)
アレンの宣戦布告は口から出ていないために誰の耳にも届かなかった。
とりあえずこれで『魔女』編は終了です。次回から新章になります。




