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魔女⑩

「こっちに向かってくるわね」


 フィアーネの言葉に全員が頷く。エルゴアは気配を絶って近付くという事をしないようだ。


「どうやら強くなってもエルゴアはエルゴアというわけだな」


 アレンの声にはため息をつくのを堪える響きがある。実際にアレンとしてみれば警戒してたのがアホらしいという感じだったのだ。


 力や速度は確かに戦いにおいて勝敗を決する重要な要素である事は間違いない。だがそれは勝敗を決定付けるものでは無い。もし力や速度だけで勝負が決まるというのならなぜ人は技を生み出すのか。なぜ戦法、戦術、戦略などという言葉が存在するのか。


 アレンは力や速度だけに拘って戦いを組み立てるような者など一切恐れない。アレンにしてみればそのような連中など単なるカモ意外の何者でもない。


 ところがこのアレンの考え方は結局の所、少数派であって世の中の多くの人は力と速度ばかりに目をやっている。アレンにしてみればおかげで楽が出来ると皮肉に思うのだった。


「バカが治らなかったのが結局の所、エルゴアの悲劇ね」

「仕方ないわよ。所詮は知性が無い人造兵士ですから」

「あんた達の基準って特異すぎて正直ついて行けないわ…」


 すでに迎え撃つ容易をしているアレン達にとってエルゴアが来るまで待つしか無いのだ。そのためアレン達はエルゴアが来るまでに迎え撃つ準備をしてのんびりとお喋りとしているというわけだった。


「来たわよ」


 フィアーネの言葉に全員がエルゴアを見る。先程、アレンにやられて逃げ出したのに今は随分と自信たっぷりにこちらに歩いて来ている。


「まぁ、何というか。惨めなピエロだが油断しないようにな」


 アレンの言葉に全員が頷く。いかに戦い前に緩んだ空気を出していようともこと戦いの臨む時にはそこに一切の油断はないのがアレン達である。今からやるのは試合ではない。負ければ命を失うのだ。そこに油断などあるわけがなかったのだ。


 アレン達に『惨めなピエロ』扱いを受けているとも知らずにエルゴアはニヤニヤしながら近付いてくる。先程エルゴアを斬ったために調子に乗っているのだろう。


「あのエルゴア…何ニヤニヤしてるのかしら?」


 フィアーネが首を傾げている。確かに放つ威圧感などは先程よりも強いのは事実だが、所詮は頭が追いついていない以上、ピエロであることに変わりない。


「じゃあ、行ってくるか…」


 アレンがそう言ってエルゴアに向かって歩き出した。


「じゃあ、手はず通り頼むな」

「うん」

「了解」

「わかりました」

「え~と…いいのかな、これで…」


 アレンの言葉に婚約者達は何の気負いもなく答えるがカタリナだけは明らかに戸惑っている。アレン達の作戦にカタリナは『いや…それ駄目じゃないの』と思っていたからだ。


 作戦の内容は『いくらなんでもそんな手にかかるの』というレベルのものであり、もしこれでエルゴアが討ち取られでもしたら、とことんピエロという事になってしまう。


 カタリナは知性など無いはずのエルゴアにちょっと同情していたのだ。


 アレンは10歩程進んだところで停まる。


 それも打ち合わせ通りだった。


 エルゴアはまったくアレンが停まった事に違和感を持っていないようだ。カタリナはその様子をじっと見つめている。


 エルゴアは身を屈めまるでこれから動きますよと言わんばかりだ。それを見てアレンの口に露骨にエルゴアを見下す嗤いが浮かぶ。


(本当に惨めなピエロだ…)


 アレンがそう思った時に、エルゴアが引き絞られた矢のように動く。


 だが…



 エルゴアは三歩目を踏み出すことが出来なかった。突然、エルゴアが転んだのだ。アレンがその瞬間に動く。

 そしてほぼ同時にレミアも転移魔術により転倒したエルゴアの上空に転移する。空中に突如現れたレミアの手にはすでに双剣が握られており、そのままレミアはエルゴアの背に双剣を突き刺す。


 ドシュ…ドシュ…


 レミアの双剣が心臓の位置と腎臓の位置に突き刺さる。心臓も腎臓も血が集まるところでありそこに剣を突き立てられれば失血死は免れない。


 レミアはアレンが跳躍したのを視界の端にとらえると、エルゴアを貫いた双剣を抜いて離れる。レミアが離れた一瞬後にアレンの剣がエルゴアの延髄に差し込まれる。


 エルゴアが貫かれた箇所を中心に痙攣を始める。


(よし…仕留めた)


 アレンはニヤリと嗤い。決着がついた事を察する。


 その時…



 エルゴアの体を地面から飛び出た突起により貫いた。アレンはすばやく地面からの突起を避ける。


 エルゴアの体は5メートルほどの高さに持ち上げられる。以前の魔人エーケンと同じく魔神がこのエルゴアの生命力を吸収しようとしているのだろう。


「何あれ…」


 カタリナの口から分かりやすい心情が吐露される。確かに初めて見ればカタリナの反応は至極まっとうなものだ。だが、すでに2度目であるアレン達にとってはそうではない。


 アレンは動く。


 アレンは今晩のエルゴアの複数発生、時期から逸脱した発生を魔神の差し金と考えていたためにまったく動揺していなかったのだ。それどころか魔神が現れれば試しておこうと思った事があったために良い機会とすら思っていたのだ。


 アレンはエルゴアを持ち上げている突起の一本を斬りつける。


 ガギィィィン!!


 がアレンの斬撃を突起物は弾く。だが、アレンに動揺はなく次の斬撃を繰り出す。


 シュパァ!!!


 今度の斬撃は突起物を斬り落とした。だがアレンが二振りする間にエルゴアの体から生命力は吸われてゆき、前回の魔人同様に干涸らびてゆきやがてボロボロと崩れ始める。

 地面に落ちたエルゴアの死体は粉々となる。


 地面から突き出た突起はエルゴアの死体が崩れ落ちるとほぼ同時に再び地面の中に潜っていく。アレンは突起物が地面に戻り攻撃がこないことを確認すると警戒をといた。


「ふぅ…これでやっと重要な仕事に取りかかれるな」


 アレンはそういうとカタリナに目を向ける。


 今夜の最重要任務がこれから始まるのだ。

 呆気ない終わりで落胆したかも知れませんが、振り返ってみると主人公達ってこういう戦いばかりしてるので大丈夫ですよね。

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