魔女④
アレン達が墓地の見回りをしながらカタリナと話しているとアンデッドに遭遇する。
遭遇したアンデッドはリッチ、この国営墓地ではそれほど珍しいアンデッドではないし、アレン達ならまず問題なく斃す事の出来るアンデッドだ。
だが、それはアレン達の実力がずば抜けているからで、普通はリッチが出没したと言うだけで軍の出動が当たり前のように行われるという上位のアンデッドであった。
「リッチか…とりあえず斃すわね」
カタリナの声に何も気負いはない。かと言ってリッチという存在を知らないわけでもないことは言葉から窺い知ることが出来る。
カタリナは持っている箒の柄の部分を地面に立てる。するとほぼ同時に地面に魔法陣が展開される。浮き上がった魔法陣は青白い光を放ち一種の幻想的な空間を演出する。
「土人形召喚」
カタリナが言葉を発すると魔法陣の中から土で出来た人形が10体現れる。そのゴーレム達には顔がなく個性は一切見られない。
「行け!!」
カタリナの命令に従って無個性な土人形達はリッチに向かって突っ込んでいく。リッチとの距離は100メートル程だ。
アレン達はカタリナの土人形召喚の目的は、カタリナが魔術師である事を考えれば魔術の詠唱をするまでの壁の役目を果たすためと察する。だが、アレン達の予想は大きく外れていた。
リッチは自分に向かってくる土人形達に向かって【魔矢】を放つ。放たれた【魔矢】は40本を超えていたようにアレン達には思える。
土人形達に【魔矢】が命中し、土人形達を貫く、腕や足、頭部が欠損する。土人形達を貫いた矢はそのまま勢いを落とすことなくアレン達に向かってくる。
アレン達が回避行動をとろうとするともう一度、カタリナが箒で地面をもう一回つき、再び魔法陣が展開される。今度の魔法陣はアレン達全員をその範囲に収めた。
魔法陣から光が放たれリッチの放った【魔矢】が光の壁に阻まれ消滅する。
「見たことのない防御陣ね」
フィアーネの言葉にカタリナが振り返り自信たっぷりな顔で言う。俗に言うドヤ顔というやつだ。
「この防御陣は私のオリジナルだから見たことなくて当然よ」
「へ~カタリナはその年でオリジナルの術を開発したのね」
フィアーネの声にはカタリナへの素直な賞賛があった。
術の開発はよほど才能のある魔術師でも成功させるのは至難の業だった。それをカタリナはわずか15という年齢で行ったというのだ。これだけでもカタリナの実力がずば抜けている事がわかる。
「あれ…」
レミアがリッチを指差すと決着が付くところだった。
リッチの背後に地面から鎧を纏った戦士が巨大な戦槌を振り上げている所だった。リッチはその事に気付いていないようだ。戦士は容赦なく振り上げた戦槌を振り下ろし、リッチを頭から粉砕する。
リッチの体を粉砕した後に戦士は転がったリッチの核をこれまた容赦なく踏みつぶす。
「カタリナ…あのリッチを背後から襲ったのは?」
アレンがカタリナに問う。アレンが指摘してすぐにリッチを粉砕した戦士は崩れ去り、単なる土塊に戻る。
「あれは私の土人形よ」
「カタリナの作り出した土人形って最初の十体だけじゃなかったのか?」
「ううん、私の土人形の形は決まってないの。最初突っ込ませた土人形をリッチが魔術に打ち砕いたでしょ」
「ああ」
「実はあれは別に土人形は完全にやられたわけじゃないのよ」
「でも土人形の土はまったく動いてないぞ?」
「まぁね、私の土人形には核があるのよ」
「核?」
「ええ、その核によって周囲の土を使って様々な形にするというわけ、でリッチによって打ち砕かれたわけだけどその時に核を移動させリッチの背後をとり、今度は戦士の形にして背後から攻撃したという訳よ」
カタリナの説明を聞いてアレンは納得する。どうやら基本的な原理はアレンの闇姫、狂とかと同じらしい。
「なるほど、じゃあ、ついでにもう一つ」
「何?」
「大きさも変えれるのか?」
「大きい方は勿論使用する土の質量以上のものは作れないわ。逆に核よりも小さいものになる事はできないのよ」
「ふーん…でもかなり使い勝手の良い術である事は間違いないな」
「ええ、重宝してるわ」
アレンはカタリナのこの術は実際にかなり使い勝手の良い術であると思っている。
「…アレンさん」
そこにフィリシアがアレンに声をかける。墓地内に発生した気配を察知したからだ。フィリシアの声には警戒が色濃い。
「ああ、わかってる」
アレンもフィリシアの言葉に周囲に気を配ると警戒の色を強めた。
「何故…だ?あいつの差し金か」
アレンの言葉にフィアーネ、レミア、フィリシアも疑問の表情を浮かべる。一方でカタリナは何か発生したのは感じているがそれがなんだか分からないのだろう首を傾げている。
「カタリナ…悪いがここから退去してくれ。エルゲナーへの立ち入りは許可する。カタリナの実力なら問題はない」
アレンの言葉にカタリナは訝しがる。許可が出たのは喜ばしいがアレン達の様子からただ事でないのは明らかだったからだ。
「そう…と言いたいところだけど、私で良ければ手伝うわよ」
カタリナの言葉にアレンは考え込む。正直な話、この異常事態にカタリナほどの手練れの助力は有り難い。アレンは三人に目をやるとそれぞれやむを得ないという表情を浮かべて頷く。
「正直、助かる。カタリナ…異常事態がおこった。手を貸してくれ」
アレンの言葉にカタリナは頷く。
「それで何が現れたの?」
カタリナの声に警戒がこめられる。
「ああ、さっき話していた『エルゴア』が発生したようだ」
アレンの言葉にカタリナが「ほう」という表情を浮かべる。
「今までの発生サイクルから考えると次の発生は1ヶ月先のはずだ。しかも…」
アレンの言葉をカタリナは黙って聞いている。
「今回の発生は6体だ…」
アレンの声は最大級の警戒が込められていた。




