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魔女③

 カタリナは先程の宣言通り、ほぼ無理矢理アレン達についてくることになった。正直な所速やかにお帰り願いたいのだが、カタリナはジャスベイン家の面々と似た精神構造をしている事を考えると、多分無駄だろうという思いをアレンは事実として受け止めている。別の言い方をすれば諦めたというわけであった。


 アレンの心を知っているにも関わらず、フィアーネ達はカタリナの事を結構気に入っているらしい。


「ねぇ、カタリナっていくつなの?」

「私は15歳ですわ。フィアーネは?」

「私は18よ」

「15だったらアディラと同い年ね」

「アディラって王女様の?」

「そうよ、とっても良い子よ」

「へぇ~そうそう、レミアとフィリシアはいくつなの?」

「私は17よ。であと2ヶ月で18」

「私は18です」


 フィアーネ達とカタリナはきゃいきゃいと楽しそうに話しながら墓地の見回りを行っている。


 美少女同士が楽しそうに話している姿というのは正直なところ眼福なのだが、楽しそうに話している場所がアンデッドが出没する墓地であるという事を忘れてはならない。例えフィアーネ達が忘れていようとも自分だけは覚えておかなければならないとアレンは思っていた。


「あのさ、カタリナ聞いて良いか?」

「何ですの?」

「お前さっき、ホムンクルスは誰も成功していないって言ってたろ」

「はい」

「でもさ、『エルゴア』って人造兵士がいるぞ?」

「『エルゴア』というのはホムンクルスとはまったく別物ですわ」

「そうなのか?」

「ええ、『エルゴア』は単なる怪物でそこに知性は一切ありませんもの」

「?」

「『エルゴア』は知性の無いただの化け物であり、言わばゴーレムのようなものです。ところがホムンクルスは知性があり化け物などでは決してありませんのよ」

「なるほど、そういう位置づけなのか」


 カタリナの説明を聞き、アレンは一応納得する。そしてもう一つ聞きたいことがあったためにこちらも聞いておく事にした。


「それともう一つあるんだが」

「何ですの?」

「カタリナはなんでそんなお嬢様言葉を意図して使ってんだ?さっきの怒った時の口調の方が随分と馴染んでいたぞ」


 アレンの指摘にカタリナは痛いところを突かれたという表情を浮かべる。アレンはフィアーネ達に視線を移すとフィアーネ達もアレンを援護する。


「そうね、確かにさっきのアレンに啖呵を切ってたときの方がカタリナにはずっと馴染んでたわ」

「確かにフィアーネの言う通りね」

「こちらに心を開いてくれないようで少し寂しいですね」


 フィアーネ達の援護射撃によりカタリナは『う~ん』と唸る。結局の所、カタリナはアレンが侯爵である事を考えてお嬢様キャラで行こうと思っただけなのだ。


「分かったわよ。そんなにいうなら素で話すわよ」


 カタリナの返事にアレン達は微笑む。なんだかんだ言ってカタリナは素直な良い子なのだ。


「ああ、そうしてくれ。こちらも遠慮無く話せるからな」

「それにしてもアレンって侯爵なのにその辺の事はあんまり気にしないのね」

「まぁな、侯爵と言ってもなったばかりだし、いきなり出来る事が増えたという訳でもないしな」

「そんな緩い感じでいいのかしら」

「いいんだよ。ここは公的な場ではないからな」

「わかったわ。それじゃあ他に人がいるときはきちんと敬語を話すから安心してね」


 アレンはカタリナの言葉を聞き感心する。カタリナはアレンの『公的』の言葉で言わんとした事をきちんと察したのだ。フィアーネ達もカタリナの言葉からカタリナのずば抜けた知性を感じずにはいられなかった。


「私も聞きたいことがあるんだけど良い?」


 アレンとの会話が一段落した所でレミアがカタリナに尋ねる。


「もちろんよ。私に話せることだったら大丈夫よ」

「それじゃあ、『魔女』と『魔術師』の違いって何?」


 レミアの質問は実の所、アレン達も知りたいところであった。


「う~ん…私の定義で良ければ…話すけどそれでも良い?」

「うん」

「まずは自称ね。その人が魔女を名乗ればそれで魔女となるのよ」

「自称なの?」

「うん、私は『魔術師』と『錬金術師』の二つを兼ねているから『魔女』と名乗っているの」

「なるほど、カタリナの定義は二つの肩書きを『魔女』という肩書きにまとめたというわけね」


 レミアがカタリナの言葉をまとめてみたようだ。そのレミアの言葉にカタリナは頷く。


「まぁ、あくまで私の定義だけどね。他の人は、一定レベルの魔術を身につけたら名乗っている人もいるし、薬師を兼任している人は魔法薬を一定数開発した時に名乗った人もいるわ」

「なるほど」


 カタリナの言葉にアレン達は素直に頷く。確かに魔女の定義は自分達で決めるべきものだというのなら他者がとやかくいう必要はないだろう。


「じゃあこちらからも聞きたいんだけど」


 今度はカタリナがアレン達に質問するつもりらしい。


「何?」

「アレンってこの三人意外にも王女様とも婚約してるんでしょう?」

「ああ」

「普通に考えればあり得ない話よね。確かにローエンシア王国の貴族は一夫多妻が認められているけど、フィアーネもレミアもフィリシアもすごい美少女なんだしアレンに拘る必要はないんじゃない?」


 カタリナの質問はかなり際どいものであったが、アレン達は別に気分を害したりしなかった。一夫多妻が認められているとは言っても実際は家同士の関係から妻は一人というのが大部分の貴族のあり方であった。

 何と言っても妻同士が対立することとなり争いに敗れた方が離婚するという事が往々にしてあったのだ。


「ふ…甘いわね、カタリナ」

「へ?」


 フィアーネの返答にカタリナは呆けた返答をしてしまう。チラリとレミアとフィリシアを見るとフィアーネの意見に反対はしていないらしい。


「私はアレン以外の男なんてまっぴらよ」

「私もよ。アレン以外の男と結婚なんてゴメンだわ」

「私もです。アレンさん以外の人と結婚するぐらいなら一生独身でいきます」


 三人の婚約者の言葉を受けて、アレンは恥ずかしいのかそっぽを向いてしまった。


「はぁ…要するに三人ともアレンが大好きなのね。となるとこれほどの美少女達を惚れさせるのだからアレンは大した男という訳ね」


 うんうんと頷きカタリナはアレンを見る。どうやらアレンの品定めを始めたようだった。


「顔は整ってるし、性格も良さそうね。爵位も侯爵様なんだから財産についても大丈夫よね。でもそれだけじゃあ…これだけの美少女達を侍らす理由としてはちょっと弱いわよね…」


 カタリナの言葉はアレン達に何も答えない。カタリナの言葉はどちらかと言えば独り言に近いものであり本人もアレン達に聞こえている事を失念しているようだったからだ。


「となると…『夜の生活』か…体の相性が良いと言う訳ね」


 カタリナは顔を赤らめながら独り言を続けている。どうやらカタリナの脳内ではかなりの想像が展開されているらしい。


「待て!!カタリナ、俺はまだ婚約者達とそんな関係になってないぞ」


 アレンがこれ以上のカタリナ妄想を許せば何かしら面倒な事になると考え、すかさず止めに入る。


「え?そうなの?私はてっきり…」


 カタリナは三人に視線を移す。すると残念そうなフィアーネ達の表情を見てアレンの言葉が真実である事を察する。


「アレンはこの三人に何か不満でもあるの?こんな美少女達が慕ってくれているのに手を出さないなんて」

「不満なんかあるわけないだろう。フィアーネもレミアもフィリシアもアディラもいない人生なんか今更考えられない。それだけ大事なひと達だ」


 アレンの言葉にフィアーネ達がこんどは照れる番だった。


「ふっふふ~アレンの気持ちなんか私はとっくに気付いていたわよ♪」

「えへへ~アレン、あなたは私にとっても大事なひとよ♪」

「アレンさんにここまではっきり言われると照れますね♪でも嬉しいです♪」


 惚気だしたフィアーネ達を見てカタリナは何というかアホらしくなった。独り身としては他人の惚気話を聞かされるのは正直言って楽しいものでは無い。


「何かむかつく~、ふん良いもんね。私にも絶対に格好良い恋人が出来るんだからね」


 カタリナが拗ねたように言うのを聞き、アレン達はこの話を打ち切った方が得策とやや強引に話題を変える。


「ところでカタリナはどんな戦い方をするんだ?」


 アレンのかなり強引な話題変更に意図的なものを感じていたが、カタリナはそこに突っ込むことはしない。


「それは実際に見てもらった方が早いわね」


 カタリナは自信たっぷりに言う。アレン達もカタリナの放つ魔力から手練れである事は十分理解している。おそらく現時点のシアとジェドの二人であっても勝ち目は薄いと思われるほどの実力であるのは間違いない。


 そして、アレン達は自分達の見立てが誤っていない事をすぐに知ることになった。




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