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魔女②

「今、俺達が厄介事に巻き込まれたようだな」


 アレンの言葉に三人が頷く。アレンが厄介事と発言した理由は国営墓地への侵入者を察知したからだ。


 いつかの魔人のように結界を破って侵入したわけではない。堂々と門から入ってきたのだ。現在のアレン達の位置は門からかなり離れているのだが、この侵入者は一切気配を隠す様子がなかったため、アレン達もすぐに察知できたのだ。


 しかも、この侵入者は凄まじい魔力を発しており並の術師でないことは明らかである。


「どうかしらね…」

「う~ん…」

「不快な感じはしませんね…」


 婚約者達は侵入者から悪意を感じることがないためか戸惑っている。実の所、アレンも侵入者から悪意、殺意の類を感じる事が出来なかったので戸惑っていた。


「こちらに敵意がないかも知れないけど、この国営墓地に侵入してきたという事は厄介事を持って来たと見るべきだろうな」


 アレンの言葉に三人は頷く。


 今のところ、敵意は感じないがこれからの展開でどう転ぶかまったく判断がつかないのだ。となると用心に超したことはないのだ。


 アレンは瘴気を集めると闇姫を2体製作するとほぼ同時にフィアーネがデスナイトを2体召喚する。


 レミアもフィリシアも同時に剣を抜き侵入者との接触に備える。


 アレン達が用意を済ませてしばらくするとこちらに向かってくる足音がする。


 こちらに向かってくる侵入者は少女だった。年齢はアディラと同じか、1つ2つ若いだろう。顔立ちは中々整っていると言って良かった、まず美少女と言って差し支えない容姿の持ち主だった。髪はブラウン、背中まである髪を三つ編みにしている。

 服装は黒いローブ、頭には三角帽子、手には箒を持っている。物語に出てくる『魔女』そのものの格好だ。


 その少女はアレン達のギリギリの間合いまで近付きそこで止まる。この行動だけで、この少女の実力がかなりのものであるのは間違いない。


「初めまして、アレンティス=アインベルク卿と婚約者の方々」


 少女は優雅に微笑むと一礼する。その仕草にアレン達は一切、不快なものを感じる事はできない。


「あなたは?」


 アレンが尋ねるとその少女は名乗る。


「申し遅れました。私はカタリナ=レンス。見ての通りの魔女ですわ」


 あっさりと名乗ったのでアレン達も名乗ることにする。


「これはご丁寧にどうも、私はアレンティス=アインベルクです」

「フィアーネ=エイス=ジャスベインです」

「レミア=ワールタインです」

「フィリシア=メルネスです」


 アレン達も名乗った事でカタリナは微笑む。


「それでカタリナ嬢はどのようなご用件でここに?」


 アレンがさっそく切り出す。腹芸をこの少女相手に使う必要はないと判断した以上、カタリナの目的を聞くのは当然である。


「私の事はカタリナで結構ですわ」

「そうですか、それでは対等な相手として話をさせてもらおう。俺の事はアレンでいい」


 アレンの言葉にフィアーネ達も続く。


「私もフィアーネって呼んでちょうだい」

「私もレミアで」

「私もフィリシアでいいですよ」


 アレン達の言葉にカタリナは緊張がかなりほぐれたようだった。


「それではそのようにいたしますわ。私がここに来たのはアレンに頼みたいことがあって来たのですわ」

「頼みたいこと?」

「はい、単刀直入に言うと『エルゲナー森林地帯』に入る許可を頂きたいのですわ」

「エルゲナーに?」

「はい、私は『魔女』としてでなく『錬金術師』としても活動をしておりますの」

「はぁ」

「『エルゲナー森林地帯』には『エキュシア』がございますの」

「エキュシア?」

「アレンは『ホムンクルス』というものをご存じ?」

「確か人造人間というか、人造的に作られた生命体とかそんな感じだった気が…」

「まぁ、そんな所ですわ」

「エキュシアってのがあればホムンクルスが作れるのか?」

「そんな事わかりませんわ」


 カタリナはあっさりと言う。あまりにもはっきり言うのでアレン達は呆然としてしまった。


「だって、ホムンクルスはまだ誰も成功していないんですもの。エキュシアは数ある可能性の中の一つでしかありませんもの」


 カタリナの目に何かしら妖しい光が宿ったことをアレン達は感じ取る。それに気付いた以上、アレンとすれば警戒する必要があった。


「それで、カタリナはなんでホムンクルスを作ろうと思ったんだ?」

「え?」


 アレンの言葉にカタリナは『はて?』と首を傾げている。


「それは単純に作ってみたいと思っただけですの」

「は?」

「だから作ってみたいだけですの」


 カタリナの返答にアレン達は頭を抱えそうになるのをなんとか堪えていた。


「そんなはず無いだろう。目的もなくホムンクルスなんてものに手を出すなんて考えられない」

「そんな事を言われましても私としてはただ単に作ってみたいと思っただけなんですの」


 カタリナは『確かな理由がなくてごめんなさいね』という感じで少し語気を荒げる。


「ねぇ、アレン…」


 フィアーネがアレンに声をかける。


「カタリナからは、なんか私の家族と似た者を感じるわ」

「フィアーネの?」

「本当はアレンもそう思ってるんじゃないの?」

「うっ…」


 実の所、アレンはカタリナを警戒していたが悪人でない事は何となく察していた。理由は『エルゲナー森林地帯』に入る事をアレンに許可をもらいに来て、さらにその理由を隠すことなく伝えたからだ。

 もし、ホムンクルスを悪用するつもりならここで適当な理由をでっち上げるだろうし、そもそも最初からアレンに立ち入り許可を求めたりしない。

 この辺り、趣味のためなら他の事に一切気を配らないジャスベイン公爵家と精神的な共通点をアレン達は感じていたのだ。


「…何か、残念な奴だな」


 ポツリとアレンが言った言葉にカタリナだけでなくフィアーネも怒りを露わにする。


「ちょっとどういう意味ですの!!」

「アレン、残念ってどういう意味よ!!」


 二人の反応にアレンは「やべっ…つい声に出しちゃった」という顔をする。レミアとフィリシアはその様子を見て肩をすくめている。ちなみに二人とも剣はすでに仕舞っている。


「すまん、つい出ちゃったんだ」


 アレンの何の弁解にもなっていない言葉に二人の腹の虫は当然ながらおさまらない。見かねたレミアとフィリシアが二人を宥めることで何とか収まった。


 考えて見ればフィアーネの家族を残念と言ってしまったのは確実にフィアーネにとって不愉快だったことだろう。アレンは反省し誠心誠意謝ろうと決心する。


「フィアーネ、すまなかった。お前にしてみれば家族を侮辱されたに等しいのだから怒って当然だ」


 アレンはフィアーネに頭を下げる。


「いいわ。私もアレンが悪意を持っての発言とは思ってないわ」


 フィアーネはニッコリと微笑むとアレンの謝罪を受け入れる。


「さ、アレン仲直りのキスをしましょう」


 フィアーネがアレンに抱きつく。両手をアレンの首に回すと目を閉じキスをせがむ。アレンは徐々に近付いてくるフィアーネの唇の間に手を入れフィアーネの口付けを止める。


「む~なんでキスしちゃ駄目なの~」


 フィアーネはまたむくれてしまう。アレンは話が進まないとフィアーネの抗議をさらっと流した。


「はぁ…済まなかったな。話が逸れた」


 アレンはカタリナに許可の件を返答することにした。


「カタリナ、悪いが許可は出せない」

「私はホムンクルスをただ作りたいだけです。悪用なんかしませんわ!!」


 カタリナはアレンの言葉に反発する。


「違う。カタリナがホムンクルスを悪用する気がないという事は判っている。不許可の理由は安全面のためだ」

「安全面?」

「ああ、エルゲナーは現在、様々な要因が重なって非常に危険なんだ。さすがに許可を出してカタリナが死んだりしたらこちらも寝覚めが悪い」

「平気よ。私だって魔女なんだから戦う術くらい持っていますわ」

「そりゃ、そうだろうけどエルゲナーは今、危険なんだから落ち着くまで待ってくれ」

「どれぐらい待てば良いのです?」

「1ヶ月から1年ぐらい…」

「ちょっとお待ちになって、何でそんなに幅がでかいのです?アレンのその言葉から考えると要するにいつになるか判らないってと言う事ではないの?」

「…」

「冗談じゃないわ、それじゃあこっちの研究がストップしちゃうじゃない!!」


 カタリナは怒りのあまり、今までのお嬢様の口調が変わっている。おそらくこちらの口調が素なのだろう。


「と言われてもな…」

「要するにアレンは私の命が危険なんだから許可を出せないと言ってるんでしょ、という事は逆に言えば危険が無ければ許可を出すという事よね」

「…そうなるな」

「そう、それじゃあ私の実力を試験なさい」

「試験?」

「そうよ、私の実力が分かれば許可を出さざるを得なくなるわ」


 カタリナは腰に手を当て宣言する。


 その様子を見てアレンは…


(やっぱり…面倒な事になった)


 と小さくため息をついた。



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