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閑話~デート:アディラ編③~

 アレンとアディラは連れだって中央公園まで歩き出す。中央公園はアインベルク邸より徒歩で1時間というところだ。本来であれば王女であるアディラが歩くような距離ではない。

 だが、アディラは何のためらいもなくというよりも自ら望んで徒歩を選んだ。


(えへへ~幸せ~アレン様と一緒に歩けるなんて~♪)


 アディラは心の中で幸せを噛みしめる。


 一方でアレンはアディラと連れだって歩くことに対して嬉しさ9割、警戒1割と言ったところだった。何しろアディラはローエンシアの王女だ。誘拐されそうになった事も1度や2度ではない。


 今こうしている間にもアディラを狙っている者がいるかもしれないのだ。アレンが完全に警戒を解かないのは当然の事だった。とはいえ、墓地の見回りよりははるかに危険の少ない昼間の王都だ。アレンはいつもより警戒レベルを大分引き下げていた。


 アレンとアディラは中央公園までの道を途中の店を見たりしながら歩いて行く。


(それにしても今日のアディラの格好は…良いな)


 アディラを横目で見ながらアレンは口元が緩みそうになるのをなんとか堪える。フィアーネ、レミア、フィリシアとデートをしたが、その時も口元が緩みそうになるのを必死に隠していたのだ。もっとも3人にはアレンのその気持ちを所々で見破られていたのだが。


「アレン様、あれ見てください」


 アディラが指差した先には大道芸人がジャグリングをして道行く人を楽しませている。


「行ってみようか」

「はい♪


 アレンが言うとアディラはニッコリと微笑み言う。


 アレンはアディラの手を握り大道芸人の近くまで行く。手を握られたアディラはびっくりしたような表情を浮かべるがそれも一瞬の事で頬を染めて嬉しさを全開にしていた。


(ぐへへ~アレン様が私の手を握っているわ♪ぐへへ)


 表面上は花も恥じらう可憐な美少女であるアディラであったが内面ではかなり残念な事になっていた。だが、それは表面にはまったく現れていない以上、周囲の者はアディラの可憐さに目を奪われていたのである。


 ジャグリングを行う大道芸人はその華麗な技を披露していく。周囲の人達の反応も良いのは単純にこの大道芸人の技が素晴らしいだけでなく、人々を楽しませようという観点で芸を披露しているからだろう。


 大道芸人が芸を終えると周囲の観客達は拍手を送る。勿論アレンとアディラも惜しみない拍手を送った。大道芸人はかぶっていた帽子を脱ぐと一礼して帽子を逆さまにして観客達に向ける。


「アレン様、いくらぐらいが適正なのですか?」


 アディラがアレンに尋ねる。アディラのこの質問はアディラが使うお金が税から捻出されているという事を念頭に置いたものであった。


「アディラ、適正価格なんて存在しない。問題は彼の芸にアディラがいくら支払う価値があるかというアディラの感覚なんだ」


 アレンはアディラに優しく言う。アレンにとって人にお金を支払うという根本は感覚的なものであると思っている。店に並べられている商品に対して納得が出来れば買えば良いし、高いという感覚があれば買わなくても良いのだ。


「じゃあアレン様はいくらぐらい支払うんですか?」

「俺は銅貨10枚ぐらいだな」

「他の人達よりも多いですね」

「ああ、俺は彼の技だけでなくそれにつぎ込んだ努力の質と量での敬意がこめてだな」

「なるほど…」


 アレンの言葉を受けてアディラは考え込む。


「それでは私は銅貨5枚にしておきます」

「ほう、理由は?」

「あくまでこの場の芸にしようと思ったんです」

「なるほどな」


 アレンが微笑みながら頷く。


「でも、次回見たときに今回以上の芸を見ることが出来たのなら慢心せずに研鑽を積んだ証拠になるはずです。その時は彼の実力と努力に敬意を支払おうと思います」


 アディラはしっかりとした声でアレンに言う。アディラの言葉は王族として的確に判断しようとして自分なりに考えた事なのだろう。

 アディラはアレンが絡むと残念な所が出てくるが、やはり王族としての意識をきちんと持っている事をアレンは理解する。アディラは物事の本質を見ようと心がけている事がアレンにはわかったのだ。


 アレンとアディラは帽子の中に合わせて銅貨15枚を入れる。その心を察したかどうかはわからないが大道芸人はニッコリと微笑み一礼する。


 アレンとアディラは微笑みで返すと再び中央公園に向け歩き出した。




 それからアレンとアディラは少しずつ寄り道をしながら中央公園に到着する。寄り道したせいで思いの外時間がかかり既に時間は正午前といったところだ。


この中央公園は市民の憩いの場として多くの人で賑わっている。特に今日は休日の為だろういつもよりも公園でのんびりしている人が多いようにアレンには感じる。


「アレン様、あそこに座りましょう」


 アディラが指差した先は芝生の一角である。周囲には家族や恋人達が座り談笑していた。


「ああ、そうだな」


 アレンはアディラに手を引かれ芝生の一角に到着する。アディラは持って来ていたバスケットの中から敷物を取り出すと芝生の上に広げる。


「えへへ。アレン様お弁当作ってきたんです♪」


 さっそくアディラがバスケットの中にあるサンドウィッチをアレンに見せる。


 アディラの広げたサンドウィッチは彩りも素晴らしく、見ただけで食欲をそそる出来映えだ。


「すごいな、これアディラが作ったのか?」

「はい♪」

「うまそうだ」


 アレンがそう言うと同時にサンドウィッチに手を伸ばす。


 アレンの言葉にアディラの幸せゲージは振り切れそうになるがそれを表面に出すような事はしない。


 アレンがまず手に取ったのはタマゴサンドだった。ゆで卵を潰し、塩、胡椒で味付けしただけのシンプルなものだったが、逆にシンプル故にごまかしがきかないのだ。実はアディラが一番気をつけたのがこのタマゴサンドだったのである。


 アディラはアレンが食べた時の表情をよく見ることにする。アレンは優しさでおいしくなくても『おいしい』というだろう。だが、それはアディラの望むところではないのだ。


 アレンがタマゴサンドを口に含んだ瞬間に口元が僅かに緩むのを見てアディラはほっと胸をなで下ろす。それを確認してからアディラの表情に笑顔が浮かぶ。


「あ、これもうまい」


 アレンは次のハムサンドに手を伸ばすと頬張ると素直な感想を口にする。


「アレン様、お茶もどうぞ」


 アディラが水筒から取り出した紅茶をカップに注ぎアレンに手渡す。


「ありがとう。アディラも食べよう」


 アレンは礼を言うと、アディラにも促す。


「はい♪」


 アレンに進められたアディラもサンドウィッチを手に取り食べ始める。


(アレン様に褒められただけでなく一緒にピクニック出来るなんて~♪)


 アディラはおいしそうに自分の作ったサンドウィッチを食べるアレンの姿を見ながら幸せそうに微笑んだ。


 すべてのサンドウィッチを食べ終え、アディラがアレンに尋ねる。


「アレン様、どのサンドウィッチが一番お気に召しました?」


 アディラの言葉にアレンは考え込む。


「そうだな…どれもおいしかったのだが、俺が一番おいしかったのは『タマゴサンド』だな」


 アレンの言葉を聞いてアディラは喜ぶ。もちろんすべてアディラがつくったものだったのだが、焼いた肉を挟んだサンドウィッチだけは王城の料理人のソースを使って味付けしたものだったからだ。ある意味、あれだけは味付けはプロの料理人なのだ。

 ところが、アレンが選んだのはタマゴサンドだったのだからアディラが喜ぶのも当然だった。


「ありがとうございます。一番の自信作だったんですよ」


 アディラの喜ぶ姿にアレンも微笑む。


「あのアレン様…」


 アディラがアレンにやけに真剣な顔で尋ねる。その顔を見てアレンは居住まいを正す。


「腕を組んでもよろしいですか?」


 頬を染め遠慮がちに告げるアディラにアレンは快く頷く。そのままアディラはアレンに寄りかかりまったりと過ごす事にする。


「アレン様…私…しあ…」


 しばらくしてアディラに睡魔が襲ってきたようだった。うつらうつらとし出すのを見てアレンはアディラの頭を撫でる。


 そのままアディラは幸せそうな表情を浮かべて寝息を立て始めた。





 アディラが次に目を覚ましたときにアディラは何だか懐かしい感じがした。


「ん…?」


 アディラの声にアレンが声をかける。


「起きたかアディラ」

「…アレン様?」


 アレンの声に徐々にアディラの意識が覚醒し出す。意識が覚醒するに従い自分の状況を理解し始めたのだ。


「ふぇ!!」

「こら、暴れるな」


 状況を把握したアディラが激しく動こうとするのをアレンが声で制する。アディラはアレンにおぶられ家路を帰っていたのだ。


「ア、アレン様…下ろしてください」


 アディラの顔は羞恥のために真っ赤だ。まさかアレンにしがみついたまま眠ってしまい大切なデートの時間を失ってしまったのだ。しかもその後もアレンにおぶられ帰るなどという淑女にあるまじき行動に情けなくなったのだ。


「アディラ…」


 アレンが優しくアディラに声をかける。


「はい…」


 アディラが小さく答える。アレンの口から失望したなどと言われてしまえばアディラは立ち直るのにかなりの時間を要することになるだろう。


「昔もよくアディラをおぶったな…」

「はい」


 昔、アディラはアレンのおんぶをよくせがんでいたのだ。


「あの時とは色々と変わったな」


 アレンの言葉にアディラも頷く。あの時は子どもだった。何も気にする必要などなかったのだ。子どもだからと言う理由で多くの事を許されていたのだ。


「はい」

「あの時はただの幼馴染みだったな」

「はい」


 アディラは口では『はい』と答えたが、そうではない。その時からすでにアディラはアレンに恋していたのだから『ただの』幼馴染みではなかったのだ。だが、アディラはそれをアレンに告げない。


「でも今は婚約者だ」

「はい」


 アディラの声に明るいものが含まれる。


「アレン様、そして次は…」


 アディラの言葉にアレンは答える。


「ああ、次は俺の妻だな」

「はい♪」


 アレンの言葉に即座にアディラは返す。


「でもな…」

「はい?」


 アレンの言葉には続きがあったのだ。アディラはアレンの次の言葉を待つ。


「幼馴染み、婚約者、妻と立場は変わっても変わんないものがあるんだな」

「え?」

「お前が俺にとって大切なヒトだという事さ」


 アレンの言葉にアディラは涙がこぼれそうになる。アディラはぎゅっとアレンの首に回した腕に自然と力がこもった。


「アレン様、私にとってもアレン様は大切で愛しいヒトです」


 アディラの言葉にアレンは何も答えなかったが、アディラに不満はない。なぜならアディラの言葉を聞いてアレンは耳まで真っ赤に染まったからだ。


 アディラはもはやアレンに下ろして欲しいなどと言わなかった。自分のこの姿を見て王女らしくない、淑女らしくないと言う者がいようとも関係なかった。この幸せな時間を捨ててまで王女らしい、淑女らしいなどという評価を欲しいとは思わなかったのだ。


「アレン様…」

「どうした?」


 アディラの言葉にアレンは短く返答する。


「私、幸せです♪」


 アディラの言葉にアレンも小さく返す。


「俺もだ」


 アレンの言葉を聞きアディラは幸せそうに微笑む。アレンはアディラの顔を位置的に見ることは出来ないが微笑んだのはわかった。


(俺は本当に幸せな男だな)


 アレンはアディラだけでなくフィアーネ、レミア、フィリシアという素晴らしい婚約者がいる幸せを噛みしめるのであった。



結局、閑話という副題でしたが、がっつりやってしまいました。


400字詰め原稿用紙で82枚分という内容にちょっと自分でも驚いています。次回からまた普通の墓守の感じにしたいと思います。

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