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閑話~デート:フィリシア編②~

今回も長めです。


閑話ってこんな感じじゃないですよね…

 朝食を終えたアレンとフィリシアは連れだってアインベルク邸を出る。


 フィリシアはアレンの横に寄り添い歩いている。どうもフィリシアはアレンと手を繋ぎたそうでアレンの手をチラチラと見ている。


 アレンはその様子を察しているが、自分からはまだ手を繋ごうとしなかった。その理由はフィリシアの様子が可愛くて密かに悶えていたのだ。


(フィリシア、お前は俺を悶え死にさせたいのか?)


 アレンは心の中でフィリシアの手を握るべきか、このままフィリシアの可愛い反応を見て悶えるかという二つの思いが戦いを繰り広げていた。


 フィリシアは何度目かのチャレンジが失敗に終わりしょぼんとしかけた時に、その事に気付いたアレンが慌ててフィリシアに言う。いかに自分がフィリシアの可愛さを堪能するためとは言えフィリシアを悲しませればそれは本末転倒だった。それだけは阻止しなくてはならない。


「あのさ…フィリシア、頼みがあるんだが」


 アレンの言葉にフィリシアは『ひゃい』と動揺をした返事をする。手を繋ぎたいという思いが心の大部分を占めていたので声をかけられて驚いたのだった。


「手を繋いでいいか?」


 アレンの言葉にフィリシアは頬を染めながら静かに頷く。


(本当にフィリシアは可愛いな)


 アレンは頬を染めるフィリシアを見ながらフィリシアの手をとる。一気にフィリシアは顔だけでなく耳まで真っ赤に染まる。その様子を見てアレンの頬も赤く染まる。


「い、行こうか」

「はい」


 アレンとフィリシアは手を繋いだまま街を歩き出した。


 目的の演劇である『エルミア』は午後2時開演で現在は11時である。これから劇場に行くのは少々時間が早い。となるとどこかで時間を潰そうと言う事になったので、アレン達はカフェでお茶を楽しむ事にした。


 フィリシアがよくフィアーネやレミアと一緒に行くというカフェにアレンは連れられて入った。


 窓際の席に通されそこでアレンとフィリシアは向かい合って座る。メニューを持って来たウェイトレスに注文をする。アレンは紅茶とチーズケーキのセット、フィリシアは苺のショートケーキと紅茶のセットだ。


 程なくして注文の品が届くとアレンとフィリシアは微笑みながら2人だけのお茶会を始める。


「それにしてもフィリシアはそういう格好はやっぱり似合うな」


 アレンの賛辞にフィリシアは頬を染めながら頷く。


「ありがとうございます。こういう格好は慣れてないので笑われるかなと心配だったんです」

「ははは、街を歩いてきた時に何人も男の人がフィリシアを振り返ってたぞ」

「う~アレンさん、あんまり持ち上げすぎないでください」


 フィリシアが顔を真っ赤にしながら口を尖らせる。どうやらアレンがからかっていると受け取ったらしい。だが、それは間違いだ。実際に何人もの男がフィリシアを目にすると振り返るのを何度となくアレンは察したのだ。


 今現在も店にいる客の何人かが自分のパートナーではなくフィリシアをチラチラと眺めているのだ。


「フィリシアはそろそろ自覚を持ってくれると助かるな」


 アレンの言葉にレミアは『え?』という表情を浮かべる。


「フィリシアがすごい美少女だということだよ」

「う~恥ずかしいですよ」

「俺は事実を言っているだけなんだがな」


 アレンとフィリシアは和やかな雰囲気で会話を弾ませている。そうしているとアレンはフィリシアの目がアレンの手元のチーズケーキに注がれているのに気がつく。フィリシアは結構、甘党でありスイーツには実は目がないのだ。その事を思い出しアレンはレミアにチーズケーキを小さく切りフォークに突き刺すと優しく言う。


「フィリシア、一口どう?」


 アレンの申し出にフィリシアは頷く。どうやら当たりらしい。だが次のフィリシアの行動にアレンは戸惑う。フィリシアは目を閉じて口を開けたのだ。フィリシアの行為にアレンは思考が止まる。


(これはあれか?あ~んと言って食べさせるのか?)


 正直恥ずかしいがフィリシアがそれを望んでいる以上、エスコートする立場としてはやらざるを得ないのだ。アレンはそう言い訳(・・・)をしながらフィリシアにチーズケーキを一切れフィリシアの口に入れる。


 フィリシアはアレンに食べさせてもらった嬉しさと恥ずかしさで真っ赤になりながらチーズケーキをのみこんだ。


「えへへ、おいしいです」


 フィリシアの言葉に今度はアレンが真っ赤になる。照れを隠すために窓の外の大通りを何気なく見るとアレンは凍り付く。


「あ…」


 アレンの口から漏れた声にフィリシアは不思議に思い窓の外を見ると今度はフィリシアも凍り付いた。


 窓の外にはシアとジェドが立っている。シアは口に手を押さえておりどう見ても緩む口元を見られないようにしているようだ。一方ジェドはニヤニヤと笑いながら手で首元を扇いでいる。どうやら『お熱いことで~』というジェスチャーらしい。


「あ、」


 『待て2人とも』とアレンとフィリシアが口を開きかけた時には2人はそそくさと離れて行った。


 見られてしまったのはかなり恥ずかしいのだが、相手が婚約者である以上、何も問題はない。というよりもここまで来たら開き直ってしまった方が良いだろう。


『いちゃついてましたが何か?』と文句あるかとばかり言えば何も問題はない…はずだ。


 アレンはフィリシアに視線を移す。できるだけ平静を装いながら頭を抱えるフィリシアに声をかける。


「その…フィリシア、恥ずかしかったかもしれないがそこはまぁ…な」

「…はい、その想像以上に恥ずかしかったもので…」

「だな」


 アレンの返答にフィリシアは笑う。先程までの恥ずかしいという感じはせずに朗らかないつものフィリシアの笑顔だった。


「それじゃあ、そろそろ行こうか」

「はい」


 アレンの言葉にフィリシアが同調するとアレン達は店を出る。


 街を散策しながら時間を潰すとアレンとフィリシアは劇場にたどり着く。


 この劇場はジュラス王の文化促進の一環として建設されたものだ。ジュラス王により建てられた劇場は王都に11ある。どれもがそれほど大きくなく使用料もそれほど高くない。王立劇場に比べて6割の使用料で利用可能と言う事で、若い役者や脚本家などがこの劇場で鎬を削るためレベルは高かったのである。


 今日2人が見る『エルミア』も脚本家はまだ20代、主演のアルシェラ=ミーリングもまた18歳という若い女優だった。


 フィリシアが初めて見たアルシェラの役はちょい役でしかなくセリフも一言二言だったのだが、その全身全霊を込めた演技にフィリシアは圧倒されファンになったのであった。


 今回の『エルミア』も是非見たいとフィリシアは思っており、その事を知っていたアレンが誘ったというわけだ。


 『エルミア』は、没落した子爵家の令嬢エルミアが様々な困難にも負けず、恋する男と添い遂げるという話だ。話としてはありがちなのだが、アルシェラが没落した子爵令嬢をどのように作ってくるのかをフィリシアは楽しみにしていたのだ。


「アレンさん、さぁ行きましょう♪」


 フィリシアはアレンの手をとり劇場の中に入るとまだ席についている人はまばらだ。そこでフィリシアはアレンの手を引き自分がもっとも好きな席に座る。その席はステージから6列目の真ん中である。


「えへへ」


 フィリシアは終始笑顔だ。アレンと一緒にアルシェラの主演作を見ることが出来るという相乗効果もあるためフィリシアの機嫌が悪くなることなどあり得ないのだ。


「さて、もう少しだな」

「はい♪」


 それからしばらくして周囲の席に客が入り始める。開演10分前にはすでに満席となっていた。


 カランカラン


 開演の鐘がなるとざわついていた客席が静かになっていく。客席が静かになってから幕が上がり始める。


 演目である『エルミア』が始まったのだ。



(なるほど…)


 アレンはアルシェラの演技を初めて見たが、フィリシアがファンになるのも納得できた。舞台の上のアルシェラの存在感は圧倒的だったのだ。かといってスタンドプレーに走るわけではなく他の演者との呼吸を合わせ絶妙の空間を演出している。


 演者達の呼吸、間合い、演出すべてが混ざり合い素晴らしいの一言だった。


 『エルミア』の世界に引き込まれた観客達と同様にアレンも世界に引き込まれていく。


 アレンはそっと自分のハンカチをフィリシアに渡す。フィリシアの目元には涙が浮かんでいたのだ。フィリシアはアレンからハンカチを受け取ると目元をぬぐった。


 どんな楽しい時間も終わりが来る。この演劇を見た人達もそれを感じていた。


 ラストシーンですべてを失い絶望に満ちた表情を浮かべていたアルシェラ演じる主人公のエルミアについに救いの手が、いや、今までの苦労が報われる時が来る。エルミアの想い人である幼馴染みと再会したのだ。

 何も考えずに胸に飛び込むエルミアを抱きしめる幼馴染み、実に感動的なラストシーンのまま幕が下りていく。


 観客達は拍手を惜しみない拍手を送り演劇のすべては終わった。



 フィリシアはしばらく余韻にひたっておりアレンは邪魔しては…と思い。周囲の観客達が席を立つなか、フィリシアの隣に座っていると、フィリシアからアレンに声がかかる。


「あのエルミアがこれからどんな幸せを掴むのでしょうね…」

「ああ」

「苦労したけど報われて愛する人と過ごせるなんて最高に幸せと思いませんか?」


 フィリシアの言葉にアレンはフィリシアが自分とエルミアを重ねていることに気付く。劇の中でエルミアは家族を失っていた。フィリシアも魔剣セティスの呪いのために家族を失っていた。もちろん、フィリシアの家族は生きているがもう普通のような家族に戻れない事はフィリシアにもわかっているのだ。そういう意味で家族を失った事には違いがないのだ。


「ああ、多分あの幼馴染みと新しい家族を作るという未来を思わざるを得ないな」

「はい♪」

「フィリシアも一緒だな」


 アレンの言葉の意図をフィリシアは察すると朗らかに微笑む。家族を失ったエルミアは新しい家族を得る希望に満ちたまま劇は終わった。そして一度は失った家族という存在を今度はアレン達と作る事ができるのだ。


 もし、アレン達に会えなかったら、フィリシアの未来に希望というものはなかったのかも知れない。


 フィリシアはアレンに寄り添いアレンの肩にコテンと頭を乗せると小さくアレンに言う。


「ありがとう…アレンさん」


 フィリシアの言葉にアレンは微笑み同じぐらいの声でフィリシアに返す。


「ありがとう…フィリシア、俺に幸せを与えてくれて…」



 アレンとフィリシアは微笑みながら出口がすくのを待つ。


(もう少しこのままでいたいからみんなゆっくり帰ってくれないかな…)


 アレンは混み合う出口に視線を移すとそんな事を思うのであった。




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