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閑話~デート:フィリシア編①~

「いよいよ今日だ…」


 フィリシアは目を覚ましてすぐにベッドの中で丸まり、興奮を押さえ込もうとするがなかなか上手くいかない。


 歓喜の波が後から後から間断なく押し寄せてくるからだった。


 今日はアレンとのデートの日、フィアーネとレミアが帰ってきた時の2人の様子を思い出す。本当に幸せそうな笑顔を浮かべアレンに寄り添う姿は本当に羨ましかった。その幸せそうな姿を見たときにフィリシアはアレンと一線を越えたのかと思ったのだが、どうやらそれはなかったようだ。


 それでも、フィアーネとレミアは幸せそうな顔をしていたのだ。今日はフィリシアがその幸せな気分を得られることが出来るのだと思うと本当に嬉しかったのだ。


「えへへ、アレンさんはどんな幸せを私にくれるのかな♪」


 フィリシアとすればただアレンと話すだけで十分幸せなのだ。今日はそれに加えて甘えることも可能なのだ。


「よし!!アレンさんのためにも恥ずかしくない格好をしないと!!」


 フィリシアが今日のために用意したのは、白を基調としたワンピースに白いカーディガンだ。長く赤い髪はサイドテールにまとめるつもりだ。


「いつもと違う格好だけど…アレンさん、気に入ってくれるかな…」


 フィリシアは少し考え込むが、アレンの好みから外れてないはずという自分の判断を信じる事にした。


 一度決断すればフィリシアは迷わない。フィリシアは元々の素材が良いのだからよほど奇抜な格好をしない限り大丈夫なのだが、他の婚約者達に容姿の面で一歩も二歩も劣っていると思い込んでいるため心配だったのだ。


 もっとも、他の婚約者達もそれぞれ自分以外の婚約者達の容姿に劣等感を多少なりとももっているため、ある意味似たもの同士とも言えた。


 フィリシアは薄く化粧をしてワンピースを着て、髪をサイドテールにまとめ始めた。最初はうまくまとまらなかったのだが、デートが決まってから毎晩寝る前に練習したおかげで短い時間でサイドテールにまとめる事が出来るようになったのだ。


「…上手くいったよね?」


 フィリシアは鏡に映る自分の姿を見て思う。


 鏡に映るフィリシアは清楚な雰囲気を損なわず可愛さをアピール出来ているように思える。そして立ち上がると姿見の鏡の前で立ち姿の確認を行う。


「大丈夫…よね」


 フィリシアは自分の姿を確認し終えると自室のドアを開けて食堂へ向かう。そこにはすでにアレンがいるはずだ。


(アレンさんの反応を見て服装を変えるかどうかを判断しよう)


 フィリシアはアレンの反応だけが気になっていたのだ。自然と早足になり、白いワンピースが跳ねる。これが街中であれば間違いなく男達の視線を集めたであろうが、フィリシアにとって見せたい相手はアレンだけだったのだ。


 食堂のドアを開けるとそこにはすでに朝食を摂っていたアレンとレミア、そして給仕をしているロムとキャサリンの目が一斉にフィリシアに集まる。


 全員が驚きの表情を浮かべ、その数瞬後には感嘆の表情を浮かべる。


「フィリシア、目茶苦茶似合ってるじゃない」


 レミアが素直な賛辞を送る。


「お早うございますフィリシア様。大変良くお似合いでございます」

「お早うございますフィリシア様。今日のお召し物は良くお似合いですよ」


 ロムとキャサリンは一礼するとフィリシアを褒め称える。


 だが…


「……」


 アレンだけは無言だった。呆然としている事がフィリシアには不安を掻き立てていた。


(アレンさん…なんで何も言ってくれないの?…やっぱり、似合わないのかな)


 フィリシアが緊張の面持ちでアレンの言葉を待つ。


「アレン様…フィリシア様に見惚れるのは後にしていただきご感想をフィリシア様にお伝えください」


 ロムの言葉にアレンは『ハッ』とした表情を浮かべるとやっと感想を言う。


「あ、フィリシア」


 アレンのやや上ずった声にフィリシアも緊張のために返事の声がおかしなものになった。


「ひゃ、ひゃい」


 自分の返答がおかしな事に気付いたフィリシアは頭を抱えたくなるが、ここでそんなことをすればアレンにより呆れられてしまうと思い、なんとか我慢する。


すごく(・・・)可愛いぞ」


 アレンの『すごく』の所に妙に力が入っていた事にレミア、ロム、キャサリンは苦笑いする。一体どれだけ心の声が漏れているのかと注意したいところだった。


 一方、フィリシアはアレンに褒められた事でほっと胸をなで下ろしていた。


「フィリシア様、とりあえず朝食を…」


 キャサリンがアレンとフィリシアにニコニコと微笑みながら言う。


「あ、はい」


 フィリシアは席に着くと、ロムがフィリシアの前に朝食を用意した。


「フィリシア、今日は『エルミア』を見に行こうと思っているんだが…」


 アレンがフィリシアに声をかける。


 『エルミア』は今日の予定の演劇の演目だった。アレンはフィリシアと行くのなら演劇だと思っていたのだ。フィリシアは『エルミア』の主演女優アルシェラ=ミーリングの大ファンだったからだ。


「え、本当ですか!!アルシェラの最新作じゃないですか」


 フィリシアのテンションが一気に上がる。フィリシアがここまでテンションがあがるのは珍しい事なので、その事だけでフィリシアがアルシェラを好きだと言う事がわかる。


「ああ、俺は『エルミア』のあらすじも知らないが、アルシェラ=ミーリングが主演という事だったから決めたんだ」


 アレンの声にはフィリシアが喜んでくれたという安堵の色が見える。


「ありがとうございます」


 フィリシアはニコニコと微笑む。その様子を見てアレン達は顔を綻ばせた。フィリシアの笑顔は他者を癒やすなにかがあるのは確実だった。それが、美しさから来るものなのか、優しさからくるものなのか、はたまたその両方からなのかは正直判断はつかない。


 美味しそうに朝食をとるフィリシアを見て、アレンは今日のデートも幸せな気分を味わえる事を確信した。



 12月18日正午から『墓守は意外とやることが多い』のスピンオフ作品を投稿しようと思います。


 よろしければそちらもよろしくお願いします。


『墓守の友人が出来たら一気に成り上がった冒険者の話』



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