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閑話~デート:レミア編②~

「レミア、その服装…すごく似合ってるぞ」


 アレンは真っ赤になりながらレミアの服装を褒める。先程抱きかかえた為に赤かったアレンの顔はこのセリフでさらに赤くなる。勿論言われたレミアの方も顔の赤みは増している。


 どう見てもつきあい始めたばかりの初々しいカップルだ。


「えへへ、アレンに褒めてもらいたくて頑張ったんだ♪」


 レミアの表情も口調もいつもの凜々しい感じではない。年相応の少女のものだ。


(なんだ、レミアのこの可愛さわ…。いつものレミアなら美人という感じなのに今日はカワイイという感じだ。だが、これはこれで良いな)


 アレンはレミアの日頃とは違う口調、仕草に胸が高まっていた。


「さて、レミアまずは本屋と言いたいが空いてるかな…」


 レミアは読書家であり、アインベルク邸にあるレミアの私室にはかなり大きな本棚が備え付けられており、順調に本で埋まっていっていたのだ。そのため、アレンはまず本屋に行くつもりだったのだ。


「大丈夫よ。『知識堂』なら7時に空いてるのよ」


 レミアはニコニコと朗らかに笑うとアレンの手を取り本屋『知識堂』への道を歩み出す。


「へぇ~そんな早く空いている本屋があるのか。じゃあそこに行こうか」


 手をつないだアレンはドキリとしたができるだけ平静を装う。声が上ずっていないかかなり気を使ったのだが、アレンの手を引くレミアの耳が真っ赤になっているのが見えるとレミアも照れていることがわかりほっと安心したのだった。




 『知識堂』という本屋は、噴水の広場から歩いて10分程の場所にあった。どうやら古本屋も兼業しているらしく古本の数もかなりあった。


「レミアちゃん、いらっしゃい。頼まれていた本はもう少し待っておくれ」

「おやおや今日は早いね」


 レミアが店に入ると人の良さそうな二人の老年の男女が迎えてくれる。二人とも朗らかで心が癒やされる。


「ハンスさん、マリーさん、おはようございます」


 レミアがあいさつすると二人はニコニコと笑顔で返す。どうやらレミアの事を可愛がっているようだ。


「レミアちゃんの今日の格好は随分とカワイイね。ねぇお前さん」

「そうじゃな。いつものレミアちゃんもカワイイが今日のレミアちゃんもカワイイのぉ」

「もう、二人ともからかわないでくださいよ」

「そんなおめかしすると言う事は…ははぁ」


 お婆さんはアレンを見るとニコニコと笑い、それから意味深にレミアを見る。その意味を察したのだろうレミアの顔は真っ赤になる。今日はレミアは真っ赤になってばかりだなとアレンは思ったのだが、アレンもレミアと五十歩百歩だった。


「ところでレミアちゃん、そっちの子を紹介してくれんかな?」


 お爺さんがニコニコと笑いレミアに紹介を促す。


「あ、私はアレンティス=アインベルクと言います。レミアの婚約者です」


 アレンの自己紹介にお爺さんとお婆さんはニコニコと笑いあいさつを返す。


「こりゃ礼儀の出来た子じゃ。儂はハンスと言っての『知識堂』の店主じゃよ」

「私はマリーですよ。よろしくね」


 店主のハンスとマリーの朗らかな雰囲気にアレンは微笑む。元来、アレンは敬老精神にあふれる少年だ。それに加えハンスとマリーの醸し出す朗らかな雰囲気に心が和むのは当然だった。


「お前さん、これ以上若い2人を邪魔しちゃ悪いからね。あたしらは引っ込みましょうかね。それじゃあレミアちゃんゆっくりね」


 マリーはレミアに言う。マリーの言葉にレミアもアレンも頷くと本棚にある本を見る。レミアが行きつけのこの『知識堂』は特別広いというわけではないが品揃えは良かった。


「レミアは最近どんな本が好みなんだ?」


 アレンはレミアに尋ねる。


「最近は歴史物かな」


 レミアは答える。レミアは最近、歴史物に目を通し始めていた。最初は何かの形でアレンの助けになるかもと思って読み始めたのだが、人間模様や対立の過程の面白さにすっかりはまってしまったのだ。


「そうなんだ」


 アレンはレミアの言葉を聞くと歴史物の本棚の所に移動する。レミアも隣に立ち、本棚の本を見始めた。


「これなんて面白そうね」


 レミアが手に取ったのは『勇者戦記』という本だ。ローエンシア王国にはない『勇者』の話を物語調にしたものだ。


「どんな話なんだ?」

「えっとね。ドルゴート王国の勇者の話ね」

「ドルゴート王国?というとあの勇者達の先輩の話か…」


 かつてアレンを極悪人と思い込み(あながち間違いではないが)、わざわざ国境を渡ってアレンに挑んで来た。その結果、彼らは返り討ちにあい現在は国営墓地の昼間の管理人見習いとして過ごしている。

 それでも、勇者としての自分達を取り戻したいのか2、3回アレンに挑んで来た。まぁ結果は予想通りだったのだが…。


「あの人って定期的にアレンに勝負を挑むわね」

「ああ、何がそうさせてるんだろうな」


 アレンの言葉は白々しい。普通に考えれば勇者達のそれまでの功績も未来も潰したのはアレンなのだから当然といえるだろう。だが、最初の頃に比べて勇者のジェスベルの放つ雰囲気から復讐の気持が抜けてきているように思えるのだ。

 

「まぁ、それは置いといて…ちょっと待ってね」


 レミアがパラパラとページをめくる。


「うん。これを買うことにするわ」


 レミアがさっそくカウンターに持って行こうとするのを止めると、アレンは自分の本を探し始める。レミアほどではないがアレンもそれなりに読書をするのだ。


「アレンは結構『旅行記』とか読んでるわよね」


 レミアが尋ねるとアレンは頷く。


「ああ、『東部旅行記』の新刊が出てるみたいだからここで買うことにするよ」


 アレンは『東部旅行記』と書かれた題名の本を選び手に取る。続き物らしくレミアはアレンが読んでいるのを見たことがある。


「じゃあ、レミアそっちの本貸してくれ。俺が出すから」


 アレンはレミアの持っている本を渡すように言う。アレンとすれば当然の行動でありプレゼントのつもりなのだ。まぁあまり色気のあるようなプレゼントとは言えないが、こういうのは気持の問題だ。


「え、いいよ。これは私が買うわ」


 レミアはアレンの申出に躊躇する。


「いや、レミア俺にその本をプレゼントさせてくれないか?」


 アレンの言葉にレミアは悩む。もちろんアレンの申出はレミアにとってとても魅力的なものに思われる。だが、異性よりプレゼント贈ってもらう事に慣れていないためにレミアは躊躇したのだ。

 しばらく考えた後、レミアは何かを思いついたように顔を輝かせる。


「それじゃあ、アレンそっちの『東部旅行記』を渡して」


 レミアの言葉にアレンは最初、『え?』という顔をするが、すぐに事情を察し微笑むとレミアとそれぞれ持っている本を交換する。


 レミアの考えた事はアレンの本をレミアが贈り、レミアの本をアレンが贈るという事だ。プレゼント交換というやつだった。


 その様子を見ていたハンスとマリーは『若いって良いわね~』という表情を浮かべてアレンとレミアの持って来た本の会計を行う。


「レミアちゃん、良かったわね」


 マリーが微笑みながらレミアに言う。


「えへへ、ここに来て良かったです。また来ますね♪」


 レミアは幸せそうにアレンから手渡された本を大事そうに胸に抱える。そして、レミアの手からアレンの本が手渡される。


「レミアちゃんみたいな良い子に好かれて果報者だねぇ~」


 マリーはアレンに向けて言う。


「はい、俺は幸せ者ですよ」


 アレンは照れもせず返答する。アレンにしてみれば事実を言っているだけであり照れるという事はないのだ。


「えへへ」


 その返答を聞いてレミアは嬉しそうだ。


「それじゃあまた来てちょうだいね」


 ニコニコとしたマリーとハンスの笑顔に送られアレンとレミアは『知識堂』をあとにする。あとはショーウィンドウに飾られたドレスやアクセサリーなどを見て回る事になりアレンとレミアは手を繋いで歩き出す。


 しばらく歩いていると厳つい顔をした男達がアレンとレミアに向かって歩いてくる。周りの男の中に先程レミアに絡んでいた男達の顔が見える。全員がニヤニヤと嫌な嗤いを浮かべている。ここまで嫌な嗤い顔が出来るのはよほど心根が腐っているらしい。


 アレンは男達だけに凄まじい殺気を放つ。レミアとの楽しい時間に割り込もうとした不埒な男達に関わるのは最小限度にしておきたかったのだ。


 アレンから放たれる殺気は魔族でさえ背中に氷水を流し込まれたかのような恐怖を覚えるほどのものだ。とても男達が抵抗できるようなものではない。


 またアレンと同じようにレミアも男達に殺気を放っていた。男達はアレンとレミアの殺気にさらされ先程の嫌らしい嗤いは凍り付き、代わりに恐怖の表情が浮かんでいる。全員が即座にアレンとレミアから目を逸らしアレンとレミアに道を譲る。


 すれ違い様にアレンは小さく男達のリーダーと思われる男にそっと呟く。


「良い心がけだ…その調子で長生きしろよ」


 アレンの言葉に男達のリーダーは気絶しそうになる。アレンの言葉はリーダーに決して手を出してはいけない人物がいる事を嫌が応にも思い知らせたのだ。


 アレンとレミアが何事もなかったように歩き去ると、男達は一斉に緊張のため止めていた呼吸を回復させる。


「こぇ~何だよあの化け物共は!!」

「ありえねぇ~」

「おい、お前なんであんな奴等に手を出そうとしてんだよ」

「す、すまない…あんな化け物とは思わなかった」


 男達はアレンとレミアが戻ってこない事を祈りながらアレンとレミアが歩いて行った方向を見る。すでに2人が見えないことに心から男達は安堵していた。




「レミアにはあのドレスが似合うな」


 アレンはショーウィンドウに飾られたドレスを指差す。先程の男達などもはや完全に意識の外に追い出している。追ってくれば蹴散らせば良いし、裏社会の組織に属しているのなら組織ごと潰してしまえば良いのだ。


「う~ん、ちょっと派手すぎない?」


 レミアはアレンのドレスは華やかすぎて自分には合わないのではと思っているようだ。アレンはレミアの言葉に微笑む。


 『あれ似合いそうだな』『これどう?』とかいう会話をアレンとレミアはしながら街を歩く。アレンもレミアも楽しそうに買い物を楽しんでいた。


 するとアレンは思いだしたようにレミアに尋ねる。


「そういうえばさ」

「何?」

「レミアって昔は恋愛小説をよく読んでたろ?」

「うん」

「最近読まなくなったな」

「うん。もう読まなくても良くなったの」

「?」


 レミアの言葉にアレンは首を傾げる。それを見てレミアは僅かに頬を染めて言う。


「私ね。恋愛小説を読みながら『こんな恋をしてみたい』ってずっと思いながら読んでたの」

「うん」

「でもね。今は物語の女の子達よりも素敵な恋をしているから読まなくても良くなったのよ」


 レミアの言葉にアレンは微笑む。レミアの言葉はアレンへの愛情を伝えてくれたと同義だからだ。アレンはそれを察する事が出来ないような朴念仁ではないのだ。


「それじゃあ、俺も恋愛小説を読む必要はないな」


 アレンのちょっと照れた顔にレミアの顔は綻ぶ。アレンの返答もまたレミアへの愛情を感じさせる言葉だったのだ。


「えへへ」


 レミアは本当に幸せそうな笑顔をアレンに向けた。


(今日はこれて良かったな)


 アレンはレミアの幸せそうな顔を見てそんなことを思うのであった。



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