騎士⑦
三日後に近衛騎士第四大隊隊長のセオドア=スペイラがアインベルク邸を訪れた。要件は先日の礼を言うためだった。
「アインベルク卿、先日の件は本当にありがとうございました」
開口一番、セオドアはアレンに礼を述べる。
「いえ、それであの四人はどうしてます?」
「それが、あの日以降、四人は鬼気迫る感じで訓練に励んでいます」
「そうですか」
「元々、彼らは実力はあったのですが、近衛騎士になった事で増長し、訓練もおざなりになっていたわけです」
「なるほど」
「結果として、訓練に真剣に取り組むようになり、加えて他者を見下すこともなくなりました。アインベルク卿のおかげです」
「成果ががあったようで何よりです。ところで・・・」
「何でしょう?」
「実はあの四人から弟子入りを懇願されておりまして」
「ほう、弟子ですか」
「はい、一ヶ月後に試験をする事になってしまいまして、近衛騎士を弟子にして良いものか確認させていただきたいのです」
「なるほど、それであの鬼気迫る取り組みなのですね」
「おそらくは、それで近衛騎士を弟子にするというのはやはり、まずいでしょうか?」
「いえ、そんな事はありませんよ。近衛騎士団の勤務時に被らなければ、こちらとしたら何も言うことはありません」
「なるほど、それでは四人が試験に合格したら、指導日を気を付けます」
「そうしていただくと助かります」
セオドアとあと他愛もない話をして、セオドアは帰って行った。
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そして、一ヶ月が経過する。今日は、あの四人の弟子入り試験の日だ。
緊張した表情で、四人はアレンを見つめる。
アレンは、試験の内容を告げる。
「試験の内容を伝えます。ここに控えるアインベルク家の家令であるロム=ロータスと立ち会ってもらいます」
「ロム=ロータスでございます。本日は精一杯勤めさせていただきます」
「あと、ロムに勝つことが合格の条件ではありません。ロムとの戦いを見て、みなさんの実力を見た上で、合否を出したいと思います」
「「「「分かりました!!」」」」
四人は声を揃えて、アレンに返答する。四人はこの試験の相手であるロムの実力をアレンの言葉から察していた。アレンは『勝つこと』が条件ではないといった。逆に言えばアレンは、四人はロムに勝つことは出来ないと思っているのだ。しかし、四人はアレンのこの言葉を侮辱と捉えない、実際にそれだけの実力差があるのだと察した。
「ではロム、頼むよ」
「はい、承知いたしました」
静かな声で、ロムはアレンに答える。四人に緊張が走る。
「それでは、皆様方始めましょう」
「では、誰から・・・」
「四人まとめてで結構ですよ」
ロムは何でもないとばかりに告げる。その内容によって四人に戦慄が走った。この年配の家令が、自分たちが近衛騎士であることを知らないわけがない。ということは、近衛騎士四人を同時に相手にする実力が自分にあると確信した上での言葉ということだ。
四人は訓練用の木剣と盾を構え、ロムの周囲に散る。
「では、行きますよ」
フッ・・・とロムが消えた。右側に位置したウォルターに一瞬で間合いを詰める。ウォルターの盾を内側からはじくと、左掌で顎を打ち抜いた。脳を烈しく揺らされたウォルターは倒れ込んだ。
ロバートとヴィアンカが、前後から攻撃を放つ。だが、ロムは攻撃をしていないヴォルグの盾に拳を叩き込む異様な音がして、盾が砕ける。同時に衝撃でヴォルグの体勢が崩れた。
ロバートとヴィアンカは見失ったロムを見つけたときには、体勢を崩したヴォルグの鳩尾に拳が飲み込まれた姿だった。ヴォルグは糸の切れた人形のように倒れ込む。
わずかの間に、二人がやられたのだ。ロバートはロムに向かい木剣を振り下ろすが、ロムはその手を掴む。その瞬間、ロバートは一回転して地面に落ちる。受け身を取り損ねたロバートは意識を手放した。
ロムの投げ技を見て、ヴィアンカは戦慄する。一ヶ月前にアレンがスケルトンを投げ飛ばした不可思議な投げ技をロムが使用したのだ。
ヴィアンカ戦慄が解ける間もなく、ロムは間合いを詰め左手をヴィアンカの前にかざす。その瞬間、衝撃がヴィアンカを襲う。膝から力が抜けヴィアンカは気絶した。
「アレン様、終わりました」
「ありがとう。ロム、四人を介抱してやってくれ」
「かしこまりました」
四人の試験はあっさりと終わった。気絶した四人をロムが介抱始める。目が覚めたら、執務室にくるよう伝えた。
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介抱され目が覚めた四人は、項垂れていた。
一ヶ月間、死ぬ気で訓練したのに、ロムという家令になんら抵抗できず、一方的に破れたのだ。せめて、もう少し抵抗できていれば、アインベルク卿にアピールできたかもしれない。
四人に後悔の念が襲う・・・。
何故自分は、日頃の訓練を真剣にやらなかったのか・・・。
何故自分は、基礎を疎かにしてきたのか・・・。
何故自分は、時間を無駄にしてきたのか・・・。
自分が無駄にした時間の大きさを理解した四人は項垂れた。
ロムが四人に執務室に来るようにというアレンの伝言を伝え、案内をする。幽鬼のようにフラフラと四人は歩き出した。死刑執行の死刑囚の心境である。
執務室に入ると、意外な事にアレンの機嫌は良さそうだった。
その顔を見た時に、四人は直感する。アレンの弟子入りは叶わなかったと・・・。一ヶ月前のアレンへの失礼な態度への怒りがまだ解けていないのだということを思いしった。
「弟子入りを認めます」
アレンの言葉に、四人は固まる。あまりにも予想外の言葉だったからだ。
「え?しかし、我々はそちらの方に為す術もなく・・・」
「ロムに負けたのは当然です。私に体術を仕込んだのはロムです。現在でも私はロムに三本のうち一本しか取れません。ロムは徒手空拳では私以上の実力者なんですよ」
「え・・・」
この年配の家令はそれほどの実力者なのか・・・。ということは、あれは全く本気でないことになる。しかし、疑問が生じる、ではなぜ我々は合格したのか?一ヶ月前より強くなり実力を示すこともできなかったのに・・・。
「それではアインベルク卿、なぜ我々は合格できたのですか。成長の度合いを何一つ見せることは出来なかったというのに・・・」
ロバートは疑問を投げかける。そして、それは他の三人の声の代弁でもあった。
「いえ、あなた方は一ヶ月前よりもはるかに強くなっています」
「?」
「一ヶ月前のあなた方ならロムがまとめて戦うと言ったときに怒り狂ったでしょう。もしくは侮辱されたと感じたはずです。ところが、今回はそういう怒りを表に出さず戦いました。一ヶ月前には見られなかった進歩といえます」
「・・・」
「よって成長を認め、弟子入りを認めたというわけです」
「・・・ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「・・・ひっく、・・・ありがとうございます」
「うう・・・良かった・・・弟子入りを許してもらって・・・」
アレンに成長したと認めてもらった事が四人には嬉しかった。今まで、無駄にした時間を取り戻すためにも、頑張らなければならない。偉大なる自分たちの師匠に近づくためにも今まで以上の修練を積まなくてはならないと自然と思えた。
「ロム、この四人にお前の技術を仕込んであげて欲しい。少なくとも墓地の見回りに連れて行けるぐらいの技量に仕上げて欲しい」
「承知しました。アレン様」
恭しくロムがアレンに礼をする。
「さて、四人とも現時点をもって、私は君たちの師匠となった。そうだな?」
「「「「はい!!」」」」
「それでは、私は君たちに敬語は現時点をもって止める」
「「「「はい!!」」」」
「よし、ではお前達を墓地の見回りに現時点で連れて行かない。ロムにしごいてもらう。そして、連れて行けるレベルになったら墓地での修行開始だ」
「「「「はい!!」」」」
こうして、アレンに弟子が四人生まれた。
墓地管理の仕事に加え、弟子育成の仕事が加えられることになったのだ。
当初の予定では、ヴィアンカだけが弟子となる予定だったんですが、四人とも弟子という流れになりました。
自分の中で勝手にキャラが行動し始めています。
あと、前後のつじつまが合わないのはいくつか出てきてますが、ご容赦ください




