閑話~デート:フィアーネ編①~
アレン達が王都の戻り墓守の仕事を再開して5日後の事である。
「アレン、アディラ達に話を通すために学園に行った時にした話は覚えてる?」
墓地を見回りながらフィアーネがアレンに尋ねる。
「ああ、勿論だ」
アレンはフィアーネのいう話がデートと言うことを察している。
「良かった~忘れてるんじゃないかと心配だったのよ」
フィアーネはほっとした風に言う。
「忘れるわけないだろ。ようやく落ち着いてきたし、そろそろ誘うつもりだったんだよ。ゴルヴェラ達との戦いの時にアディラからも要望があったからな」
アレンの言葉を聞いたところで、今一つ事情を把握していないレミアとフィリシアが2人に尋ねる。
「ねぇ、2人とも何の話?」
「私達には内緒なんですか?」
レミアとフィリシアの顔は不満げだ。その様子を見てアレンはレミアとフィリシアに言う。
「や、この間フィアーネとアディラ達に魔将討伐の打診をしたときに学園に行っただろ。その時にどこかに行こうという話になったんだ」
「そうそう、それもみんな一緒にじゃないのよ?」
フィアーネの言葉にレミアとフィリシアの目が輝く。
「それって…」
「まさか…」
レミアとフィリシアの顔には喜びの表情が浮かんでいく。そこにフィアーネの決定的な言葉が告げられる。
「そう!!デートよ!!アレンはあの時一人ずつエスコートすることを約束したわ」
「「なっ!!」」
フィアーネの言葉にレミアとフィリシアは色めき立つ。
「偉いわ!!フィアーネ!!あなたはやっぱり出来る女ってだったのね!!」
「フィアーネ、よくやってくれました!!偉いです!!」
「ふっふふ♪二人とももっと私を褒めなさい!!私は褒められて伸びるタイプよ!!」
フィアーネは腰に手をやり仁王立ちしている。本当に得意そうだ。こういう顔をドヤ顔というのだろうな。アレンは喜ぶ婚約者達を見ながらそんな事を思っていた。
後日、アインベルク邸にアディラが来たとき、アレンとデートする順番と日程が決められたらしい。
出かける順番はフィアーネ、レミア、フィリシア、アディラとなった。
その事を告げられるとアレンも了解の意を伝え、細かい日付の確認が行われた。その結果、デートの日はアレンとその相手は墓地の見回りを休むことになった。
時間を気にしてデートを楽しむ事は出来ないというアレンの申し出に婚約者達はことのほか喜んだ。アレンが決して義理でデートに出かけるつもりでない事を感じたからだった。
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アレンがフィアーネと出かける日になった。
約束の時間にアインベルク邸を訪れたフィアーネの姿にアレンは声を失う。
フィアーネがあまりにも美しすぎたのだ。
もちろん、アレンはフィアーネの美しさは百も承知だったのだが、今日のデートのために張り切って準備したであろうフィアーネの美しさはさらに3割増しという感じだった。
今日のフィアーネは普段はしない薄い化粧をして、緩くウェーブのかかった銀色の髪をリボンで結んでいる。また服装はいつものフリルをあしらった黒を基調としたドレスではなく、淡い蒼のワンピースを身につけている。所々にわずかに濃い蒼色の糸で刺繍がされており、光の加減によって異なる表情をワンピースに与えていた。
フィアーネはアレンが惚けているのを見て、その場でくるりと一回転するとアレンに微笑んで弾んだ声で言った。
「どう?アレン、今日の私はがんばったのよ♪」
フィアーネの声にアレンは言葉を漏らす。
「…綺麗だ」
意図せず言った短い言葉だったが、それこそがアレンの素直な心情を表している。あまりにも直球だったのでフィアーネは顔を真っ赤にする。
「あぅ…嬉しい…わよ」
フィアーネの返答にアレンも顔を赤くする。
(フィアーネとはもう毎日顔を合わせているのに…見惚れるなんて)
(アレンがこんな反応をしてくれるなんて)
アレンとフィアーネはアインベルク邸の玄関先でお互いに顔を赤くしたまま見つめ合っている。この二人はとっくに恋人どころか婚約者同士なのだが、二人きりで出かけた事はほぼなく、それどころか『今日はデート』と決めて出かけるのはこれが初めてだったのだ。
「いつまで見つめ合ってるのよ」
「こっちが照れてしまいますよ」
レミアとフィリシアがからかい半分、嫉妬半分の視線を二人に送る。
二人の言葉にアレンとフィアーネは我に返り今度は慌てる。アレンもフィアーネも妙に気恥ずかしかったのだ。
「あ、そのフィアーネの格好が新鮮でつい見とれちゃったんだ」
アレンの言葉に照れはない。事実を告げているだけだったからだ。
「確かにフィアーネの今日の格好は新鮮ね」
レミアがフィアーネの格好を素直に褒める。
「ええ、これお父様が仕立ててくれたの」
フィアーネの言葉にアレンは美貌の公爵閣下であり将来の義父の顔を思いかべる。
(あの人…ついに夜会用のドレスだけじゃなく娘の普段着まで仕立てるようになっているのか…)
公爵としてはありえない趣味についてアレンは考える。
「すごいですね…フィアーネのお父さんって公爵というよりも完全に職人ですね」
フィリシアも素直に褒める。どう見ても素人の趣味レベルの仕事ではない。熟練の職人が丹精込めて仕立てたものにしか見えない。
「あ、それからレミアとフィリシアの分のドレスももう少しで出来上がるから楽しみにしておいてくれって」
「ありがとう。楽しみ~」
「どんな感じになるのかな~」
フィアーネの言葉にレミアもフィリシアも顔が綻ぶ。何だかんだ言っても二人も年頃の少女でありきらびやかなドレスに興味はあるのだ。
「ああ、これ以上引き留めちゃいけないわね。アレン、フィアーネそろそろ行かないと」
レミアの言葉にアレンもフィアーネも頷く。
「そうだな。それじゃあ行ってくる」
「行ってくるわねレミア、フィリシア」
「うん、行ってらっしゃい」
「楽しんできてくださいね」
アレンとフィアーネは二人に手を振ると街に出かけていく。その姿を見送りながらレミアが呟く。
「いいなぁ…」
「何言ってるんです。レミアは次でしょう。私なんてさらにその次よ」
レミアとフィリシアは小さく笑うと自分の番まであと何日かと指折り数えるのであった。
 




